メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─』第380号「単方」(内景篇・精)14

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 ◇ 東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─ ◆


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  第388号

    ○ 「単方」(内景篇・精)

        ◆ 原文
      ◆ 断句
      ◆ 読み下し
      ◆ 現代語訳
      ◆ 解説

      ◆ 前号の訂正

      ◆ 編集後記
          

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 こんにちは。「単方」の「覆盆子」「〓(奚隹)頭實」です。
 
 ◆原文◆(原本の文字組みのままを再現・ただし原本は縦組み
      ・ページ数は底本の影印本のページ数)

 (「覆盆子」「胡麻」p86 上段・内景篇・精)

  覆盆子
 
     主腎精虚竭酒浸蒸乾
     爲末或散或丸服本草

  胡麻

    即黒脂麻也填精髓酒蒸半日
    晒乾爲末或散或丸服皆佳本草


 ▼断句▼(原文に句読点を挿入、改行は任意)

   覆盆子

  主腎精虚竭。酒浸蒸乾爲末、或散、或丸服。本草。

 
 胡麻

  即黒脂麻也。填精髓。酒蒸半日、晒乾爲末、或散、

  或丸服、皆佳。本草。

 ●語法・語釈●(主要な、または難解な語句の用法・意味)
 

 ▲訓読▲(読み下し)

  覆盆子(ふくぼんし)

  腎精(じんせい)の虚竭(きょかつ)を主(つかさど)る。

  酒(さけ)に浸(ひた)し蒸(む)し乾(かはか)して

  末(まつ)と爲(な)し、或(あるひ)は散(さん)、

  或(あるひ)は丸(まる)めて服(ふく)す。

  本草(ほんぞう)。

 
 胡麻(ごま)

  即(すなは)ち黒脂麻(くろしま)なり。

  精髓(せいずい)を填(みた)す。

  酒(さけ)で蒸(む)すこと半日(はんにち)にして、

  晒(さら)して乾(かはか)し末(まつ)と爲(な)し、

  或(あるひ)は散(さん)、或(あるひ)は丸(まる)めて

  服(ふく)し、皆(みな)佳(よ)し。本草(ほんぞう)。

 ■現代語訳■
  
   覆盆子

  腎精虚竭に主として用いる。酒に浸して蒸し、

  乾かしてから粉末にし、散薬、また丸薬として

  服用する。『本草』

 
 胡麻

  すなわち黒脂麻である。精髓を填す。

  酒で半日蒸し、晒して乾かしてから粉末にし、

  散薬、また丸薬として服用して共に良い。『本草』

 ★ 解説 ★

 精の単方のうち、覆盆子と胡麻です。

 これもほとんど大丈夫でしょう。これまでの読みで解決できる内容ですね。


 ◆ 前号の訂正

 今号の内容にも無関係ではありませんが、前号の解説に誤りがありました。お気づきの方はいらっしゃるでしょうか?

 それは、前号で、〓(奚隹)頭実の先行訳の誤り情報を挙げ、私の解説には

  末、或散、或丸、或作粥

  末 = 散 = 丸 = 作粥

 という図式を記載しながら、服用の方法に四種があると書きました。今一度原文を記載してみます。白文と断句、読み下しまで全部載せます。

  爲末或散或丸或作粥服

  爲末、或散、或丸、或作粥服。

  末と爲し、或は散、或は丸め、或は粥を作て服す。

 これを先行訳は、

  末・散・丸どちらでも良く粥で服用する。

 としたことも書き、それに対して私は上のように図式しながら、四種の方法と書いたのですね。

 では、これを四種の方法と解釈するのがなぜ間違いかわかるでしょうか?

 これは並行で四種が説かれているのではなく、初めの「末と爲し」が後の三つにかかるという構造なのです。「或いは」が付いている三つが並列、ということですね。訓読を読むとそれがよくわかると思います。

 つまり、前号では
  
  末 = 散 = 丸 = 作粥

 と並列に図式しましたが、実際には

         或いは散
       /
  末として ― 或いは丸
       \ 
         或いは粥を作る

 だった、ということです。つまり「末として(粉末にして)」は三つすべてにかかるというわけですね。もう一度詳細に図式すると、

  末として散
      
  末として丸
       
  末として粥を作る

 ということです。翻訳ではそのような構造になっていると読め、翻訳としては誤りではありませんが、それを読み解く方法が誤っていたということです。

 何度か書きましたが、翻訳というのは内容の理解ができていずとも言葉を置き換えればひとまずはできあがるので、さほど難しい作業ではないのですね。
 
 ただ、この場合はたまたま翻訳が間違いにはなっていませんでしたが、内容理解を伴わない場合は、翻訳にも誤りが生じる可能性が非常に高く、正確な翻訳には当然内容理解も必須になります。

 前号で先行訳を批判しながら、「原文ではたった漢字一文字が大きな意味を持ち、それを外すと意味が全く違って読めてしまうことがほとんどです。」と書いたのですが、それに付帯して漢字一字が表し構築するところの、文章構造、この場合では上に挙げたように

         或いは散
       /
  末として ― 或いは丸
       \ 
         或いは粥を作る

  という構造を見抜く読解力もなくては正確な読みができないことになります。また、読んだ内容に誤りがないかを様々な観点から、例えば構文であったり、また実際の観点からであったり、クロスチェックをして翻訳を検証する必要があるということがよくわかる例に、図らずもなったと思います。

 ◆ 編集後記

 単方の覆盆子と胡麻です。今号も二つでお届けし、さらに訂正情報を記事にしました。

 メルマガは現状で執筆してすぐに配信するので、誤字や誤読などが含まれる可能性が高いです。

 配信前に何度か読みなおしますが、それでも誤字がある時がありますね。
 本当は執筆完了後に数日寝かせて、新たな視点で再度読み返し、誤字や内容の誤りをチェックしてから配信できればよいのでしょうが、現状ではそうできず、執筆してすぐの配信となってしまっています。

 このように、内容には誤りを含む可能性がありますので、お読みの方はそのあたりまで疑っていただき、配信内容を鵜呑みにされず、ご自身で疑い、検証しながら読んでいただけたら幸いです。
                      (2020.08.30.第380号)
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