メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─』第377号「単方」(内景篇・精)11
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◇ 東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─ ◆
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第377号
○ 「単方」(内景篇・精)
◆ 原文
◆ 断句
◆ 読み下し
◆ 現代語訳
◆ 解説
◆ 編集後記
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こんにちは。「単方」の「牡蠣」です。
◆原文◆(原本の文字組みのままを再現・ただし原本は縦組み
・ページ数は底本の影印本のページ数)
(「牡蠣」p86 上段・内景篇・精)
牡蠣
治鬼交泄精又治精滑不固火煆醋淬七次爲
末醋糊和丸梧子大毎五十丸空心鹽湯下名
曰固眞
丸東垣
▼断句▼(原文に句読点を挿入、改行は任意)
牡蠣
治鬼交泄精、又治精滑不固。火煆醋淬七次、
爲末、醋糊和丸梧子大、毎五十丸、空心、鹽湯下。
名曰固眞丸。東垣。
●語法・語釈●(主要な、または難解な語句の用法・意味)
▲訓読▲(読み下し)
牡蠣(ぼれい)
鬼交(きこう)泄精(せつせい)を治し、
また精滑(せいかつ)して固(かたか)らざるを治す。
火煆(ひや)き醋(す)に淬(ひた)すこと七次(しちじ)、
末(まつ)と爲(な)し、醋糊(すこ)にて和(わ)し
梧子(ごし)の大(おほい)さに丸(まる)め、
毎(つね)に五十丸(ごじゅうがん)を、
空心(くうしん)に、鹽湯(しおゆ)にて下(くだ)す。
名(なづけ)て固眞丸(こしんがん)と曰(い)ふ。
東垣(とうえん)。
■現代語訳■
牡蠣
夢で鬼神と交わり精が泄する者、
また精が漏れて固く守れない者を治す。
醋に浸して煆焼すること七回繰り返し、粉末にし、
醋にて糊を作り、混ぜ合わせて青桐の種の大きさに丸め、
常に五十丸を、空腹時に塩湯にて服用する。
これを固真丸と呼ぶ。『東垣』
★ 解説 ★
精の単方のうち、牡蠣です。これは貝のカキの殻で、日本では普通に健康食品的やサプリメントのようにスーパーで売っていたり、また植物の肥料としてホームセンターなどにもあることがあります。
ただ、ここでは炮製の方法が違い、醋(酢)に浸しては火で焼くこをと七回繰り返すと言っています。
さらに単方ながら処方の作り方も紹介されていていて、この牡蠣のみでできる単用の処方となっています。
効用はふたつ説かれていて、「鬼交泄精」と「精滑不固」です。
どちらも今までに読んでいるので問題ないでしょう。思い出せるでしょうか?
先行訳はこの効用を
鬼交・泄精・精滑不固を治し、
としています。つまり三つに分けて考えているということです。どちらが正しいのか、原文の意図が二つなのか、三つなのか、ご考察いただきたいところです。
これに限らず、また症候の項目に限らず、原文から読むと熟語がどこで切れるのか、またそれぞれをどう繋げて読めばよいのか、この点の判別が難しく、ここに原文からの読解の大きな肝があると言ってもよいと思います。
何度か、文章がどこで切れるのかを探すのが大変、と書きましたがそれとも繋がるところもありますが、また違った問題でもあります。
この場合で言うと「鬼交泄精」とあって、これが「鬼交・泄精」と二つなのか、また「鬼交して泄精」なのか、「鬼交による泄精」「鬼交のための泄精」「鬼交から泄精」なのか、などなど熟語の前後関係が漢字の羅列からは判別できないことがほとんどなのですね。
これをどのように読むのかは、原文の単語を吟味してその関係を読み解くしかありません。つまり内容を知らないとたった「鬼交泄精」という四文字の漢字さえ読めないわけです。
江戸期の『訂正 東医宝鑑』などはこの点気楽(?)なもので、読み仮名も
前後関係も記す必要がなく、ここでも、読み下して書くと
鬼-交泄-精ヲ治シ、
としか記されていません。ちなみに前にも書きましたが、鬼と交、泄と精の間のハイフンは、これを繋がりの熟語として読む、という印です。これらは大本の朝鮮発行の東医宝鑑には当然無いものです。
つまり、『訂正』では「鬼交泄精」の四文字が「鬼交」「泄精」とに分かれることはわかっても、「鬼交」「泄精」とが、二つの概念なのか、それとも上のように両者がどのように繋がるのか、などがわからないわけですね。
訓点をつけた方にはわかっていたでしょうが、表記の点ではそれがわかる手がかりがありません。また、場所によって訓点をつけた方でもわかっていなかったのでは、と思われる節のある表記の仕方がしてあることもあります。
さらにこの場合も「鬼-交泄-精ヲ治シ」とあるだけですから、「鬼交」と
「泄精」についての内容を知らないと全く読めないということになります。
この場合は比較的簡単に読める熟語ですが、全体には読むだけで難しい熟語も非常に多いのですね。
このように、『訂正』は全く句読点の無い大本の版に、訓点を付けて、読み方と内容の一端を示してくれはしますが、肝心な内容理解では役に立たないところが多いのです。つまり、原文と翻訳の中間くらいが『訂正』の体裁なのです。
少し脱線しましたが、原文の熟語がどこで切れてどのように繋がるのかが、読解の肝であり、また容易ではないため分野の知識やその文の文意を読む読解力が無いと、思わぬ誤読をしてしまう可能性が高く、私も自戒を含めて、気を付けなければいけない点と思います。
◆ 編集後記
「単方」の「牡蠣」です。今号もひとつでお届けしました。
この単方にはあと11の生薬が残っていますが、これからは既述の短いものが多いため、できれば一号で複数の生薬を取り上げて、進行を早めたいと考えています。
(2020.08.09.第377号)
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