メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─ 第384号「導引法」(内景篇・精)2

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 ◇ 東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─ ◆


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  第384号

    ○ 「導引法」(内景篇・精)

        ◆ 原文
      ◆ 断句
      ◆ 読み下し
      ◆ 現代語訳
      ◆ 解説

      ◆ 編集後記


           

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 こんにちは。精の章の「導引法」の続きです。
 

 ◆原文◆(原本の文字組みのままを再現・ただし原本は縦組み
      ・ページ数は底本の影印本のページ数)


 (「導引法」p86 上段・内景篇・精)

 
                   又法止
           遺精用短床或蒲蘿内側身曲腿而臥不許伸脚
   病自安回春


 ▼断句▼(原文に句読点を挿入、改行は任意)

  又法、止遺精、用短床或蒲蘿内、側身曲腿而臥、

  不許伸脚、病自安。回春。


 ●語法・語釈●(主要な、または難解な語句の用法・意味)
 

 ▲訓読▲(読み下し)


  又(ま)た法(ほう)に、遺精(いせい)を止(とど)むるに、

  短床(たんしょう)或(あるい)は蒲蘿(ほら)を用(もちい)て

  内(うち)に、身(み)を側(ふせ)て腿(あし)を曲(まげ)て

  臥(ふ)さしめ、脚(あし)を伸(のぶ)ることを許(ゆる)さざれば、

  病(やまい)自(をのずか)ら安(やすん)ず。回春(かいしゅん)。


 ■現代語訳■
  
  別の方法に、遺精を止めるには、短い寝床や蒲団を用い、

  その内側に側臥して、脚を曲げて臥し、脚を伸ばさないようにすれば、

  病は自然に安んじる。『回春』


 ★ 解説 ★

 精の導引法の続きです。遺精を治す導引として、前号とは別の方法を紹介しています。

 前号では動作を伴った導引でしたが、こちらは横になるだけという動きを伴わない方法となっています。

 具体的には、短い寝床に体を横にして寝て、脚を曲げて縮こまっているだけ、というものぐさな方にピッタリな(?)方法です。

 では、なぜこの方法で遺精を止めることができるのか、については何も触れていませんが、理由をあれこれ思いめぐらすのもまた面白いでしょう。

 また、導引動作の記述があった時には、実際に自分でやってみるのも考察の大きな手助けになるでしょう。

 横になって体を縮めるということは、対極には、例えば大の字になって寝ることなどが想定されているはずでしょうね。両者で、また他の寝方とは何が違うのか、を実際に試して考察するのもおもしろいでしょう。

 そうしてみるとこの方法は遺精を止めるだけでなく、いろんな効用がありそうだと思えます。自分で発展させて効用を加味したり、また別の応用した方法を考えるのも、さらに一歩進んだ利用方法として良いのではと思います。

 先行訳は、この部分を以下のように訳しています。

  小さい机のようなものか、または座蒲団のようなものを
  抱きかかえて横になり、足をひろげないで寝ると遺精を避けられる。


 私の訳では、短い床や、蒲団の上に寝る、としたのですが、先行訳では、そうではなく、短いのは床ではなくて、机であり、それらを抱えて横になる、としています。かなりの解釈の違いですね。

 先行訳は原文の「短床」を「小さい机のようなもの」とし、「蒲蘿」を「座布団のようなもの」としていることがわかります。

 さらに「側身曲腿而臥」を「抱きかかえて横になり」とし、「不許伸脚」を「足を広げないで寝る」としていることもわかります。

 ここには訳の誤りと、また訳のわかりにくさとが混在しています。

 抱きかかえて、としたのは、原文の「内」を、「短床の内」ではなく、「体の内」と解釈して、それで「抱きかかえる」という訳が出たのでしょう。

 これが誤訳かどうかの判断は読者さまにお任せしたいですが、「横になり」ですと、今では側面を下にして寝ようが、仰向けで寝ようが、感覚として「横になる」と使われますよね。ですので「横になる」では、体の側面を下にして寝る、すなわち側臥する、というニュアンスが出ず、姿勢の指定が無く、ただ寝れば良い、というふうに読めてしまいます。

 さらに、「足をひろげないで寝る」の「足をひろげ」だと、今の感覚で
 「足をひろげる」と言えば、いわゆる開脚の姿勢を思い浮かべますよね。

 「足をひろげないで寝る」と言われて、原文が言っている、「曲腿」して 「不許伸脚」、つまり体を縮こませて、脚を伸ばさず、というニュアンスが伝わるでしょうか?

 ご本人は「ひろげない」で「伸ばさない」と意識していたのかもしれませんが、読み手はおそらく十中八九の人が「足を開かない、開脚しない」という風に読むのではと思います。

 前にも書きましたが、訳語はなるべく意味がいくつにも取れたり、別の意味で読まれたりしないように選択する必要があり、その点ではこの訳は誤訳なのか、または訳者さんの訳語に対する甘さなのかはわかりませんが、どちらにしても良い訳とは言えないように思います。

 特にこのような実際の動作を伴う実用的な部分は、訳が違えば動作も違い、それはまた効果の違いにも直結すると思い、先行訳をお持ちの方は補足してくださればと思います。

 ◆ 編集後記

 導引法の続きです。短いですが一段落のみでお届けしました。

 次の段落で導引法が終わりですが、文が長く、できれば一号に収めて配信したいですが、長さの都合で二号に分けるかもしれません。そしてそれが終わるといよいよ最後の鍼灸法になります。
                      (2020.09.27.第384号)
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