メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─ 』第372号「単方」(内景篇・精)6

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 ◇ 東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─ ◆


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  第372号

    ○ 「単方」(内景篇・精)

        ◆ 原文
      ◆ 断句
      ◆ 読み下し
      ◆ 現代語訳
      ◆ 解説

      ◆ コラム「字」について再び

      ◆ 編集後記


           

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 こんにちは。「単方」の「何首烏」です。
 

 ◆原文◆(原本の文字組みのままを再現・ただし原本は縦組み
      ・ページ数は底本の影印本のページ数)


 (「何首烏」p85 下段・内景篇・精)


  何首烏
 
     益精髓取根米〓浸一宿竹刀刮去皮黒豆(〓さんずい甘)
     汁拌曝乾爲末和酒服或蜜丸服皆佳入門


 ▼断句▼(原文に句読点を挿入、改行は任意)


 何首烏

  益精髓。取根、米〓(さんずい甘)浸一宿、竹刀刮去皮、

  黒豆汁拌、曝乾、爲末和酒服、或蜜丸服、皆佳。

  入門。


 ●語法・語釈●(主要な、または難解な語句の用法・意味)

 

 ▲訓読▲(読み下し)


 何首烏(かしゅう)


  精髓(せいずい)を益(ま)す。根(ね)を取(と)り、

  米〓(さんずい甘)(べいかん)に浸(ひた)すこと

  一宿(いっしゅく)、竹刀(ちくとう)にて刮(けずり)て

  皮(かわ)を去(さ)り、黒豆汁(こくずじる)に拌(ま)ぜ、

  曝(さら)し乾(かはか)し、末(まつ)と爲(な)し

  酒(さけ)に和(わ)して服(ふく)し、或(あるい)は

  蜜(みつ)にて丸(まる)め服(ふく)すも、

  皆(み)な佳(よ)し。入門(にゅうもん)。


 ■現代語訳■
  

 何首烏


  精髓を益す。根を除去し、米のとぎ汁に一晩浸し、

  竹刀で皮を剥き、黒豆汁に混ぜ、晒して乾かしてから

  粉末にし、酒に混ぜて服用する。

  あるいは蜜で丸めて服用するのも良い。『入門』


 ★ 解説 ★


 精の単方のうち、何首烏です。

 読みは特に問題ないでしょう、今まで読んだ知識で全て読みまた理解できる内容と思います。


 先行訳では冒頭の「益精髓」を「精髄補強薬」と訳しています。

 同じ単方の並びは例えば「精を補強する」「精髄を補強」「精気を補強し泄精をとめる」などとしているのに、なぜかこの何首烏だけ記述の体裁を買えて漢字だけで表現しています。

 原文がそうなら仕方ないですが、そうでないなら訳の体裁は統一した方が良いと思います。読み手には、原文を別に検討しない限り、原文がここだけそのようになっているかと錯覚されてしまうからですね。

 できるだけ原文に忠実に訳すこと、体裁を統一すること、など翻訳のマナーがいくつかあると思い、それを守った訳が良い訳と言えるのではと考え、私は自分の訳ではできる限りそのラインを貫くようにしているつもりです。


 ◆ 「字」について再び


 以前、原文に登場する「字」についてクイズ形式で書いてみましたが、その後この東医宝鑑を読んでいたら、まさにこの東医宝鑑自身に「字」を解説した部分がありました。

 それは全5篇のうちの湯液篇で、湯液篇は単品の生薬を解説した篇ですが、個々の生薬解説に先立って、総論として生薬に関するあれこれを説いています。

 そしてそのうちに、薬の度量について説いた部分があり、それが「斤兩升斗(きんりょうしょうと)」という項目です。

 そのうちに、この「字」について端的に説いています。原文を記載してみます。いつものように、原文と断句、読み下しと訳と列挙してみましょう。


                 凡云一字者
   即二分半也銅錢一箇皆有四字四分之則一字
   即二分半也入門


  凡云一字者、即二分半也。銅錢一箇、皆有四字、

  四分之, 則一字、即二分半也。入門。


  凡(およ)そ一字(いちじ)と云(い)ふは、

  即(すはな)ち二分半(にぶはん)なり。

  銅錢一箇(どうせんいっこ)、皆(み)な

  四字(よじ)有(あ)り、これを四分(しぶん)

  するときは、則(すなは)ち一字(いちじ)は

  即(すなは)ち二分半(にぶはん)なり。入門(にゅうもん)。


  およそ一字というのは二分半である。銅銭には全て

  四つの字があり、これを四つに分けると、

  一字は二分半である。『入門』


 とあります。コラムで書いたのは銅銭で薬を掬いあげて、その文字一字の上に乗っている分を一字とする、と書きましたが、こちらでは具体的な分量も書いてあります。

 ここだけ読むと「字」が銅銭に由来すること、一字だから「字」を単位としたことはわかりますが、なぜ一字が二分半なのかがわかりにくいのですが、さらに直前にはこんな記述があります。便宜上訳だけを掲載します。


  丹溪心法の奪命丹には銅緑(銅銭)一字とある。

  古今医鑑での化生丸がこの処方であるが、

  そちらでは銅緑(銅銭)二分半とあり、

  これによって一字が二分半であると知れるのである(後略)。


 つまり、古典に記載の共通する処方の記載から割り出した分量であることが読み取れます。


 私は他の古典や現代の情報に目を向けて探したのですが、何のことはない、東医宝鑑自身がそれについて解説をしてくれていたというわけで、遠くへ飛んだつもりが結局はお釈迦さまの掌の中だったという孫悟空のように、なんだか東医宝鑑さんにもて遊ばれて、試されてしまったような心持がします。

 この東医宝鑑はひとつの宇宙で、全ての物事が繋がりで説かれている、というようなことは何度か書きましたが、その私自身がまだ東医宝鑑のことをよくわかっていなかった、というわけです。


 登場する全ての用語が解説されているとは言えないと思いますが、主要な、大抵のことはこの東医宝鑑の内部で解決するようです。というより、解決するように、編者さんが工夫して全体を構成してある、と言った方が正確でしょう。


 ですので、上にも書いた翻訳の体裁を統一するということとも関係しますが、翻訳が体裁を変えてしまうことで、原典が持っている繋がりを消してしまうことになる可能性がありますね。

 訳に当たっては繋がりを読み取り、繋がりを消すことなく、読み手が繋がり読み解く手がかりも消すことなく、翻訳をしないといけないと、改めて感じた、ひとつの「事件」でした。


 ◆ 編集後記

 「単方」の「何首烏」です。後半は「字」の後日談をお届けしました。

 全体の訳を進めると、改めてこのメルマガで紹介してみたい項目が出てきます。今後は冒頭からの読みに加えて、気になった項目をコラム的に読む記事もお届けしていきたいと考えています。
                      (2020.07.04.第372号)
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         発行者 東医宝鑑.com touyihoukan@gmail.com

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