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【第51話】恐山、生と死が出逢う場所。

こんにちは。
7月末に有休を取り、5日間におよぶ青森の自転車旅へ。
津軽半島を巡った後は、船で下北半島へ上陸。沿岸をぐるりと回り、半島の中心・むつ市街へとやって参りました。ツーリング最後の夜はどう過ごそうかな。
そして迎える旅の最終日。下北半島の名所のひとつ、恐山へ向かいます。4日目は快晴に恵まれましたが今日はいかに……。
果たして、有終の美を飾ることができるのでしょうか。

▼前回のおはなし▼

むつの長い夜が始まる…。

こんな北の果てでも立派な市、街なかには飲食店が立ち並ぶ。ここ4日間の旅では、スタートの青森市以来の都市だった。今日の宿は、シティホテルをとっていた。むつ市で開催される恐山大祭がこの旅程と重なったこともあり宿探しに苦労したが、なんとかシティホテルに空室を見つけたのだった。少々値段は張るが、まぁ仕方ない。最後の夜になるので奮発も良しとしよう。素泊まりプランなので夕食は外で探す。ミラーレスカメラをぶら下げ、夜の街へと足を踏み入れた。もうすぐ19時だが街はまだ薄明るい。夏至に近いほど、緯度が高い地域の方が日が短いのだ。大祭の時期ということもあり、街の中は提灯で飾り付けられている。一眼カメラを肩にぶら下げ散歩を楽しんだ後は、一軒の居酒屋を訪れた。下北料理や青森の地酒が味わえる、観光客にも優しい店だ。カウンターに一人腰掛け、美酒に酔いしれながら店主おすすめの海の幸を心から堪能した。観光客向けの店でありながら地元民にも親しまれているようで、近くに居合わせた常連客と店主の3人で旅の話に花を咲かせた。ほろ酔い気分で何を話したかは覚えていないが、自分が東京から来たことを喜んでくれて、その常連客は締めにラーメンを一杯おごってくれた。あっさり醤油味のスープを飲み干し、少し酔いが覚めたところでお店に別れを告げた。ホカホカと良い気分で宿へと戻り、そのまま深い眠りについたのだった。

大通りを歩く人の姿はなく、無数の紅色の灯りが静かな宵の街を妖しく彩る何とも幻想的な風景だった
下北半島の名物「貝焼き味噌」。ホタテの貝殻に具材を乗せて焼く、昔ながらの軽食。ホタテは入ってなくてもOK
醤油瓶サイズのホヤ。かなり上質なホヤなのだが、なかなか味が好きになれない…

最後の見どころ、恐山へ。

7月25日、水曜日。青森を走り始めて5日目の朝を迎える。長いような短いような旅も、今日が最後だ。1年間でもらえる僅か3日間の有休も、これで使い果たしてしまっている。明日からはまた働かなくてはならない。となると、あまりハードな行程では翌日に響く。でも大丈夫だ、今日の予定は恐山へ行くだけ。むつ市街から13㎞ほどの恐山を観光したら、昼過ぎには新幹線で東京へと帰るつもりだ。朝8時過ぎに宿泊先のシティホテルを出発し、市街を抜けるとすぐに山林へと入っていった。深い森のおかげで展望は微妙だが、緑に包まれた道というのは気持ちが良い。出発した時には曇っていた空は晴れ、穏やかな朝の日差しが木の葉の間から降り降り注いでいた。市街から恐山までは標高差でいうと376mのアップ。意外と地味にスタミナは消耗した。走り始めて1時間30分ほどで登り坂のピークを迎えた。下り坂を少し進んでいくと、やがて視界に静かな湖が広がった。恐山、到着だ。

県道4号の山道を登っていく。「霊場恐山」のゲートが建っているが、目立つ看板といえばこのくらいだった
静かに広がる宇曽利山湖。8つの峰々が外界とこの空間を隔てている
三途の川に架かる太鼓橋。以前の人々はこの橋を渡ってお参りしていたのか

恐山に広がる死後の世界

ここで言う「恐山」とは日本三大霊場の一つ「恐山菩提寺」のことであり、本来の「恐山」とは山地全体のことを意味している。細かいことは気にしないで、今回はこの菩提寺のことを恐山と呼ぶことにした。標高878mの釜臥山(かまふせやま)をはじめとする8峰に囲まれた盆地には、カルデラ湖である宇曽利山湖が広がっている。強酸性のため棲みつく生物は限られており、そのため透明度は高い。湖畔には恐山菩提寺が建っている。拝観料500円を支払い、総門をくぐり石畳を進むと、やがて荒涼とした灰白色の岩場へ辿り着いた。硫黄ガスや水蒸気が噴き出す、なんとも不気味な光景だった。「人は死ねば恐山に行く」、古くからそう言われてきた理由がよく分かる。さらに歩みを進めると、再び湖へ突き当たった。ここは亡くなった幼い子を弔うために石が積まれている賽の河原。無数の風ぐるまたちが静かに回っている風景は、悲しさに溢れていた……。霊場の世界観にすっかり取り憑かれてしまい、1時間ほど滞在してしまった。もう10時30分。先を急ぐ訳ではないが、特にやることもないので駅へ向かった。山を駆け降り、あっという間に下北駅へ。快速に乗り八戸駅へ着くと、新幹線で東京へと帰路に着いたのだった……。

菩提寺の中でも存在感を放つ、荘厳な佇まいの山門
本堂裏手の高台から境内を見渡すことができる
むつ市の玄関口である下北駅は中心街から2㎞ほど離れている。コンパクトだが駅舎は割ときれい
大湊線の運転席からの景色はめちゃくちゃ良い眺めだった

個人的には3年ぶりの青森県ということで期待大で行きましたが、それを遥かに上回るクオリティで楽しませてくれました。
竜飛崎、階段国道、仏ヶ浦、大間崎、尻屋崎、そして恐山……。とにかく景勝地が多い。それも、絶景の呼び名にふさわしい名所ばかりだ。
そして海の幸がスゴい。佐井のウニや大間のマグロ、ほかにもイカスミやホヤなどなど……。行き当たりばったりの旅のプランでも、こんなにも美食に出会える場所なのです。

こうして、2018年の短い夏休みは終わりました。
有休を使い果たした私はもう長期休暇を取ることができないので、関東近郊でひっそりとサイクリングを続けるのでした。

青森ツーリング編【完】

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