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「奏章プロローグ」と『被検体:E』の矛盾点について:FGO2部考察

7章の終了直後、にわかに追加された「奏章プロローグ」では、あらたな物語の始まりとともに、2部を通して提示されている謎『被検体:E』についての「結論」じみたものがシオンの口から提示されていました。
しかし、ここで明かされた結論には、現時点では明らかに矛盾があるように感じ、さらにはその矛盾は意図的に仕込まれているのではと思ったため、自分が内容の整理のためこの記事を作成いたしました。
この記事では、あくまで「FGO本編中で記述された内容」のみを元に検討しようと考え、TYPE-MOON他作品の設定などによる推測はしないものとしています。

<シオン(トリスメギストスⅡ)の結論>

まずは、「奏章プロローグ」でシオン、およびそれを補足するカドックから語られた内容をまとめてみましょう。

・手術室で発見された遺体は、我々人類と全く同じ生体構造をしていた
・にもかかわらず、トリスメギストスⅡはあの遺体を『地球人類』と判定していない。数値は同じであるのに違うものである。
『被検体:E』はカルデアス地球の人間である。
・白紙化地球がカルデアスの地表であるのなら、カルデアス人類はもう滅びている。
・カルデアス地球における研究施設の機材は年代物であり、2017年から2117年の100年の間に発展した技術はすべて機能不全になっている。(機材の更新ができなかった?)
・手術室がカルデアスであるのなら、『被検体:E』が死亡したのは2117年(数日前に死亡している)。
『被検体:E』はカルデアスにおける最後の人類、最後のマスターであり、大規模特異点トラオムにおいて大量のサーヴァントを召喚した。
・カドックいわく「おまえ同様、ひとりで人類の未来ってヤツを背負わされた、名も無い"一般人"だったんだ」

上記の内容および、直前で語られている地球白紙化のメカニズム…すなわち白紙化させたカルデアスと地球の表面を置換するという話から、トラオムのマスター=最後のカルデアス人類=『被検体:E』=もともと地球にいたはずの主人公なのでは?という議論がWEBでは見られます。(つまり、主人公は元々カルデアスにいた「主人公」だったという説)

ただし、このカドックのセリフの直後の選択肢では、主人公がこの内容に違和感を覚える選択肢が用意されており、そちらを選ぶとトラオム直後のモリアーティのセリフが回想されます。

<モリアーティの発言>

ソレ(『被検体:E』?)は地球の生命体ではない
・あの施設(エリア51?)で100年もの間、人間の手で隠蔽され、検査され、実験され続けた生き物の残骸だ。
その断末魔の叫びが同胞である『異星の神』を呼んだと思われるが、その先はモリアーティにも考察できなかった。必要な数値が欠けていた。
・トリスメギストスⅡであれば、その先の答えに辿り着けるだろう。

また、手術室に辿り着いた際のモリアーティの発言としては
・「この先に、特異点のマスターがいる。」「言うまでもなく、の行動は汎人類史への復讐、報復だった。」「は、そうしなければならない立場だった。」
・「これこそが、この特異点全ての始まり。」「100年前に地球に落ちてきたとされる生命体。」「100年間この場所であらゆる実験に晒され、人類への憎しみを募らせたもの。」「『被検体:E』だ。」

さて、この時点でシオンの結論とモリアーティの発言には、短いながらも違和感・矛盾点があるように感じる。

・「地球の生命体ではない」は「カルデアス人類」であるとするならば矛盾はない。また『被検体:E』が最後のカルデアス人類であるならば、その叫びが同胞=カルデアスの神である『異星の神』を呼んだというのも筋は通っている。
・「あの施設(エリア51?)で100年もの間、検査され、実験され続けた」とするならば、エリア51で働く人々にとって、『被検体:E』は研究対象となるほどの特異な存在でなければいけない。仮に、『被検体:E』が「カルデアス人類」であることを正とするならば、『被検体:E』を研究していたのは「地球人類」ということになる。(カルデアス人類が、「特異なカルデアス人類」を研究していたという可能性も残される)
・その場合、モリアーティに連れていかれたエリア51の「手術室」は「地球」であるということになるが、ダ・ヴィンチの結論では、主人公たちは「宇宙の廊下」を通ってカルデアスに行き、カルデアスのエリア51に行ったとされているので、その点が矛盾する。
・また、検査された『被検体:E』の断末魔が『異星の神』を呼んだ、とあるがその場合、『被検体:E』が「最後のカルデアス人類」であるとするなら、やはり彼/彼女は地球人類で解剖されているはずである。なぜなら、同じカルデアス人類に解剖されていた場合、「最後のカルデアス人類」にはなり得ないため。
・つまり、『異星の神』は「地球で解剖された最後のカルデアス人類」の叫びを聞き、地球に降臨した?
・また、モリアーティは手術室にあるものを指して、「特異点のマスター」=彼、『被検体:E』=これと呼んでいる。この二つは実は別の存在の可能性がある。

このように、シオンの結論とモリアーティの発言は、一見すると同じことを言っているように見えて、大きな矛盾が含まれています。仮に①『被検体:E』はカルデアス人類である ②あの場所はカルデアスのエリア51である という2つの条件を矛盾なく成立させられるとしたら、「『被検体:E』(とされるカルデアス人類)を何者かがカルデアスのエリア51の手術室に意図的に配置した」ということになる。

上記をふまえたうえで、ブルーブックがエリア51に辿り着いた際の描写と、1章 outro に描写されていた「2016年の研究者」の描写を比較してみたい。

<ブルーブックによる描写>

・「基地の資料によると、その『検体』は2016年にニューメキシコに飛来している。搭乗していた期待は大気圏で燃え尽きたのか、(自ら焼失した可能性大、とも記されていた)『検体』はむき出しの状態で発見された。」
・「通路に満ちた空気は異質なものだった。計器には何の異常もないのに、通路は我々の常識にある現実とは違うものに変わっていた。」
・「その診察台には、確かに。枯れ木のような、よく分からない物体が――」

ブルーブックがエリア51を訪れ、手術室に向かう際の廊下の描写は、トラオムで主人公たちが通った「宇宙の廊下」に酷似している。ブルーブックは主人公たちと同じように「宇宙を通って」手術室へ向かい、そしてそこで「枯れ木のような」物を発見。そこで待っていた謎の人影に撃たれたところで、ブルーブックのシーンは終了している。

謎の人影については一旦保留するとして、ここでまず考えたいのは、ブルーブックは果たして「どこからどこへ」移動したのか。ブルーブックがカルデアス人類であった場合、彼はカルデアスから地球へ移動した可能性が高い。そして、もし彼がカルデアス人類である場合は、シオンが分析した『被検体:E』はブルーブックである可能性がある。ただし、この場合ブルーブックが死亡したのは「地球」側の手術室となるため、主人公たちが訪れた手術室がカルデアスである、ということを正とするならば矛盾する
逆にブルーブックが地球人類である場合、彼はカルデアスに移動したことになり、主人公たちが訪れた手術室で死亡していることに辻褄が合うが、その場合彼はシオンの言うところの『被検体:E』にはなり得ない(シオンは『被検体:E』をカルデアス人類としているため)。「宇宙の廊下」を移動しているという前提に立つと、ここも成り立たない点が出てきてしまう。この場合も整合性を取るには「カルデアス人類であるブルーブックが地球の手術室に移動し、そこで謎の人物に撃たれ死亡。その後カルデアス側の手術室に移動させられた」という形になってしまう。

ただし、ブルーブックが「宇宙の廊下」を通ったかどうかは、確証がない。描写とドアの演出的には同じルートを辿った可能性が非常に高く感じるが、特に「宇宙の廊下」を渡ったというわけではないのであれば ①ブルーブックはカルデアス人類である場合は、カルデアスのエリア51・手術室に行き撃たれた ②ブルーブックが地球人類である場合は、地球のエリア51・手術室に行き撃たれた ということになる。

<「2016年の研究者」による記録>
「第1章 outro」のブルーブックの独白の後には、「2016年 研究員 記す。」から始まるエリア51の研究員による記述が流れる。

・2016年「ニューメキシコ州の観測結果から18時間後、ついに『検体:E』が基地に搬入された。」
・「宇宙からの来訪者は、悪趣味な映画で出てくるような、怪物そのものの姿をしていた。」
・「――この、『樹の根』のような、未知の生命体の研究を。」
少し厄介なのは、直前のブルーブックのモノローグとはノイズのようなエフェクトが入っており、ブルーブックがこの記録を読み上げているのかは判別が付かない。ブルーブックによる記述は、この研究員の記録より先の時点での記録を読み上げているように見えるが、果たして同一の資料であるかは、確証がない。

<4者による描写の整理>
ここまでの『被検体:E』にまつわる描写を整理すると、下記の通りです。
【シオン】『被検体:E』=カルデアス人類/トラオムのサーヴァントを召喚したカルデアス最後のマスター
【モリアーティ】『被検体:E』=地球の生命体ではない/同胞である『異星の神』を呼んだ/人間に実験され続けた生き物の残骸/特異点の始まり
【ブルーブック】枯れ木のような物体
【2016年研究員】『樹の根』のような未知の生命体/怪物そのものの姿
こうして並べてみると『被検体:E』を「人間」的なものと記載しているのはシオンのみで、このことから言えることとして、やはりモリアーティは『被検体:E』と「トラオムのマスター」を別のものとして認識しており、その上でシオン(カルデア)がその二つを同一視させるよう誘導していたと考えられる。そして、何故そのようなことをしていたのかは、元々ホームズが請け負っていた役割に関連していると思われます。

ただ、シオン以外の描写が必ずしも同一のものを指しているとも言えない点も悩ましい。モリアーティは『被検体:E』のことを「これ」「ソレ」と言っているため彼の認識では「物」であることは読み取れるが、ブルーブックや研究員のように「枯れ木」「樹」と言った植物的な表現がない。

トラオムのラストで挿入される手術室の「枝」と「遺体」の一枚絵を見る限りは、手術台の上にある「枝」が「物」に該当すると考えるのが自然だが、100%ではない。
また、ブルーブックと研究員の描写にもついてもやや不可解な点がある。ブルーブックは「枯れ木のようなもの」といい、これは上記の画像にあるものを指していると思われる。しかし、研究員は「『樹の根』のような未知の生命体」「怪物そのものの姿」と描写している。『樹の根』は実験の結果「枯れ木のようなもの」になったと考えることもできるが、「怪物そのものの姿」という描写とはむしろ乖離しているようにも感じられる。どちらかといえば血管のみの遺体のほうが身近な「怪物」に近いとさえも思える。こうして考えるとそれぞれの描写がはたして同じものを指しているのかも怪しい。

<トラオムへのレイシフト>
さて、ここで話を少しトラオムの話に戻すと、トラオムへのレイシフトはこれまでのレイシフトとは何かが異なっていたという描写がされている。

人理定礎値は「ERROR」、ゲーム中の年数表記は「A.D.XX17」となっていて明らかに様子がおかしい。この点に関してはダ・ヴィンチの「カルデアスの手術室へ移動した」という説を正とする場合、残される可能性は「未来の地球」へレイシフトしたパターンである。ダ・ヴィンチの言を信用するなら、カルデアスにそもそもレイシフトしたという可能性はなくなる。そしてその場合考えられるのは、カルデアスが演算しているとされる100年後の2117年である可能性である。
しかし、「カルデアス側の手術室に『被検体:E』がいる矛盾」が解決する一つのパターンとしては、「もともとカルデアスにレイシフトしていて、宇宙の廊下を渡って『地球の手術室』にいった」という可能性が残される。つまり、トラオムのラストで見た手術室は「2117年の地球の手術室」だったというパターン。ただしこの場合、カルデアスに特異点が発生したことになり、「地球人類への復讐」というトラオムのマスターの目的を考えるとやや腑に落ちないので、この矛盾についてはやはり何者かが『被検体:E』を意図的に移動させた、というパターンのほうがあり得そうではある。

★今回の検討から言えること
ここまでの検討で違和感や矛盾点をいくつか挙げていますが、現時点で確実性のありそうな内容は、モリアーティは『被検体:E』と「トラオムのマスター」を別のものとして認識しており、その上でシオン(カルデア)がその二つを同一視させるよう誘導していた、という点のみではないでしょうか。

まだまだ結論は見えないので一旦今回はここまで。余力があれば、モリアーティがどういう存在なのか、何を目的にしていたのかを検討したいと思います。

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