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小西マサテル『名探偵のままでいて』 | 紛らわしすぎる「このミステリーがすごい!」


2023年『このミステリーがすごい!』大賞受賞

という帯を見て購入。
というのも、青山剛昌と東野圭吾の対談という引きありまくりの特集に惹かれて、『このミステリーがすごい!2024年版』(宝島社)を読んでから、『このミステリーがすごい!』にランクインしている作品が気になっているからです。

こちらの本は、2023年の国内&海外のミステリー小説ランキング・ベスト10を紹介しているもの。ここでまず気づくべきなんですよね。こちらの大賞なわけないんですよ。2023年の1位は『このミス』常連、米澤穂信の『可燃物』なんですから。


じゃあ『名探偵のままでいて』の【2023年『このミステリーがすごい!』大賞受賞】は何のことかと言えば、宝島社、NEC、メモリーテックの3社が創設した新人作家の発掘を目的としたミステリー小説の賞のことです。


そう、1988年から刊行している『このミステリーがすごい!』というミステリーのガイドブックと『このミステリーがすごい!』という新人発掘コンクールが同じ名前なんですよ。(最後に「!」が付くところまでちゃんと一緒です)


……紛らわしい!!!

……紛らわしすぎ!!!!



『このミステリーがすごい!』で1位に選ばれたゴリゴリの傑作なのか、『このミステリーがすごい!』大賞をとった将来期待の新人なのかってだいぶ違いますよね。
私もちゃんと『このミステリーがすごい!』っていう新人発掘の賞があるのは知ってたんですよ。それでも間違えました。
コンクールの方は『このミステリーがくる!』大賞とかにしません?一応『このミス』大賞って略せますし。
同じ名称っていうのは、ちょっとあまりにもじゃないですか?



ここでポイント。
「大賞」って書いてあったら新人、
「このミス1位」って書いてあったら大御所(の可能性大)です。


ということで、間違えて購入した『名探偵のままでいて』のあらすじはこちら。

認知症の祖父が安楽椅子探偵となり、不可能犯罪に対する名推理を披露する連作ミステリー!
かつて小学校の校長だった切れ者の祖父は、七十一歳となった現在、幻視や記憶障害といった症状の現れるレビー小体型認知症を患い、介護を受けながら暮らしていた。
しかし、小学校教師である孫娘の楓が、身の回りで生じた謎について話して聞かせると、祖父の知性は生き生きと働きを取り戻すのだった!
そんな中、やがて楓の人生に関わる重大な事件が……。


『このミス』1位かと思って読み進めたので、1章を読み終わったあたりで
「……ん?これがこのミス1位か……?」
と作者のプロフィールを確認してようやく、あの「このミス」とこの「このミス」が違うことに気づいたわけですが、この「このミス」も大賞に選ばれただけあって面白かったです!


何がいいって、キャラクターがいい。
特に男性陣3人のキャラクターが魅力的!


椅子に座ったまま様々な事件を鮮やかに解決していく認知症のおじいさん、
主人公の同僚で、いつも明るい岩田先生、
岩田の友達で、屁理屈ばかり言っている舞台俳優の四季。

おじいさんはレビー小体型認知症で、幻視や記憶障害があるんですけど、知的で博学で、とっても素敵。
自分が認知症であるといことを正しく理解し、その上で自分が見た幻視について主人公の楓に話します。
楓の身近で起こったミステリーをおじいさんに相談する時の、おじいさんの凛とした雰囲気がかっこいいんですよ。ゆらめく煙草の煙がたちのぼるのをはやる気持ちを抑えて待っている間の、じりじりとした焦燥感。
早くおじいさんの推理を聞きたくて、自分がまるで楓になったようなその気持ち。
おじいさん、少しでも元気に長生きしてほしい……!

岩田先生は辛い過去を一切感じさせない明るい雰囲気が読んでいて気持ちいい。
岩田先生が出てくるだけで、周りがパッと明るくなるような男です。
楓のことが好きなのがモロバレで、でもストレートに告白しないのでちょっとじれったくもありますけど、私は岩田先生派。
楓はどうしても過去の暗い出来事に引っ張られがちだから、こういう100%の明るさで一緒にいてくれる人の方がいいと思う。楓が落ちても岩田先生なら易々と暗い穴から引き上げてくれるよ。

四季は一見面倒でいけ好かない男です。
斜に構えた話し方もムカつく。
それでも初めて会った時からなんとなく楓がこの男を気になっていることはわかりました。
何なんでしょうね、ああいう男がいい女って一定数いるんですよね。絶対岩田先生みたいな人の方が幸せになれるのに。
でも、何故か気になっちゃうんですよ。わかります。
そしてね、あのタイミングでの告白……!
ずるいよ。あれはずるいよー。
私もキュンときちゃったよー。


さて、先ほど「特に男性陣のキャラクターが魅力的」と書きましたが、主人公•楓についてはやや引っかかっております。
たぶんこれは私が女だからで、男性が読んだ時には全く気にならないことかもしれません。

楓の「美人説明」が多いのです。

3人称で書かれてるんですけど、基本的に楓目線で進むので楓自身の外見について言及するのはちょっと難しいんですよね。
冒頭でおじいさんの容姿については細かく描写していて、「孫目線の贔屓目を抜きにしても、堂々たる容姿に思えた」「モテたんだろうな、きっと」とも楓の感想も書かれています。

まずここで、その人の孫なのだから楓も綺麗な子なのかなと思いますよね。
で、同僚の岩田先生から好意を寄せられてることもわかり、かつて友人から言われた「楓、せっかく可愛いんだから難しい言葉使わずに、もっとくだけた話し方しなよ」というアドバイスに女性特有の嫉妬心をありありと感じ、もうこの時点で既に楓がビジュアルがかなりいいことが十分わかります。
個人的にもうこの辺でお腹いっぱい。
けれどその後もちょいちょい楓の容姿褒めが繰り返されます。


……もうわかったよ!美人なんだろ!
もういいよ!!!!!


となりました。
楽しく読み進めながらも、

美人はいいよなぁ!
タイプの違う2人から同時に好かれてるもんね!
どっちと付き合ったらいいのかな?って迷ってる?迷ってんの?! 

と僻み根性丸出しの私が頭の片隅で叫んでました。


いえね、楓もいい子なんですよ?
おじいちゃん思いで、古典ミステリーが好きで、控えめで。
辛い過去があり、恋愛もできず、暗い服しか着れなかった楓。たった1人の肉親であるおじいさんを大事にしている様子、おじいさんを尊敬している様子も痛いほど伝わります。
おじいさんと楓が少しでも長い時間一緒に過ごせればいいと心の底から祈りたい気持ちにもなりました。

……そうです。つまりは私が楓の美しさをただ僻んでいるだけです!いやー、嫌ですね、女の僻み。


古典作品へのオマージュに溢れたミステリーながら、登場人物のキャラクターと安楽椅子探偵という設定からか全体の雰囲気はとても優しく、穏やか。
ラストへ向けての盛り上がりも読後感もいいので、普段あまりミステリーは読まないなという方にもおすすめです。


孫娘の持ち込む様々な日常の謎を「認知症の祖父」が解き明かす『名探偵のままでいて』。
受賞時のタイトルは『物語は紫煙の彼方に』だったそうですが、今のタイトルの方がずっと内容に合っていて素敵!


続編の『名探偵じゃなくても』が文庫化されるのが楽しみです。


おしまい。

主人公は27歳の女性、彼に思いを寄せる2人の男性、聡明で品のあるおじいちゃん。
謎解きの舞台はおじいさんの書斎。
推理を始める前に吸うゴロワーズの紫煙。

もう月9あたりで今すぐ連続ドラマに出来そうな雰囲気です!


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