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鳥取ものがたる旅*黒ボク土壌と生産・流通*


“美食地質学”って?

大地の声・人々の営みに耳を傾け、交流・発信をしていく「地域ものがたるアンバサダー」。活動の軸となるのは、ジオリブ研究所 所長 の巽 好幸先生が提唱されている”美食地質学”です。

美食地質学とは…
日本列島は世界で最も地震と火山が密集する「変動帯」。だからこそ、多様な食材と食文化が育まれてきたといえます。災害列島日本の厳しくも豊かな自然環境や四季のめぐみを生かしながら、地域独自の文化が形成されてきた食文化。これまでの歩みに学びながら、これからの地域の食と暮らしと交流のあり方についても考えます。

(地域ものがたるアンバサダーHPより)

私たちの旅の舞台となる鳥取県は、黒ボク土という火山性の土壌が広がる場所。黒ボク土の土壌は、農作物の生育に必要なリン酸を供給できない耕作不適地と言われています。

7人のアンバサダーは、「決して豊かとは言えない土壌の鳥取県が、なぜ全国有数の農産物生産県になったのか?」をテーマに1年間の旅をスタート。初回の1泊2日の旅では、海・里・山の恵みがコンパクトにつまった大山町、黒ボク大地と由良川、北条砂丘に囲まれたまち・北栄町で農業に奮闘する2人の水先案内人にお話しを伺いました。

大山町の自然と生きる「國吉農園」



最初にお会いしたのは、鳥取県西部・西伯郡大山町にある國吉農園の代表・國吉美貴さん。27軒が暮らす大山の麓の集落にIターンし、”人と自然の循環をつなぐ”をコンセプトに、家族4人とスタッフさんで年間40種類の野菜を育てています。

実際に畑を見学させてもらうと…

黒っぽい黒ボク土壌で、夏野菜たちがすくすくと育っていました。

ブロッコリーの栽培が盛んな大山町。ブロッコリーが育たない7、8月は、トウモロコシを栽培している農家さんが多いそう。


別の畑では、「春ネギ」と「冬ネギ」が海風に揺られながら立派に育っていました。本来、黒ぼく土に適さないとされるネギの栽培について聞いてみると…

「黒ボク土では、養分か少ない分ゆっくり育ちます。ゆったり大きく巻いていくので、やわらかくて、とろっとした食感が特徴。黒ボク土の土壌を逆手にとって、他の産地のシャキシャキのものと差別化できるんです」

各農家が丹精込めて育てた農作物も農協に納品してしまうと、流通の効率化のために「鳥取県産ネギ」とひと括りにされて流通しまう。各農園で育った農作物の差別化を望む生産者側の声も伺いました。

國吉さんは、「水捌けが悪い、石が多い、硬度が低い」などの理由で耕作放棄地となった畑を譲ってもらい、一般的な堆肥農法や植物を育てて土を肥やす緑肥など、各畑の特徴に合わせた方法で土壌改良をしています。國吉さんが肥やした畑はよく育つと人気だそう。

気候条件や地形、土壌などで変化する畑は、”情報の宝庫”と語る國吉さん。大山町での農業について話す目はキラキラと輝き、雄大な自然との闘いをものともせず、むしろ楽しむような表情が印象的でした。

100年続く名産品のブランドを守る「JA鳥取中央大栄西瓜選果場」

続いて、鳥取県中部にある西日本有数のスイカの産地・北栄町の「JA鳥取中央大栄西瓜選果場」を訪れました。大栄西瓜組合協議会・指導部長の徳山篤仁さんと、JA鳥取中央北栄営農センターの前田恭平さんにご案内いただき、選果場を見学させてもらいました。

大栄西瓜とは…
明治40年に始まり約100年以上の歴史を誇る、鳥取を代表する農作物のひとつ。形状や品質にばらつきが少なく、果実の中心部と皮ぎわの糖度差が少ない、安定した品質が市場関係者から高評価のスイカで。2019年には、伝統的な特産物を知的財産として守っていく制度「地理的表示(GI)保護制度」に認定されました。

5月~7月下旬の間、約200軒の農家さんが育てたスイカがこの選果場へ。1日約4万玉のスイカを出荷する選果場は圧巻の光景。実入りや糖度を人の手と機械でチェックし、大栄西瓜の品質をクリアしたものだけが全国へ出荷されています。

ひとつひとつに生産者さんの名前と出荷日が書かれたラベルを貼り、生産者の見える化と品質管理を行っているそう。

黒ぼく土は、いい意味で肥料を蓄えている土壌ではなく、畜産農家の方から仕入れた優良な堆肥を毎年投入して土づくりを行っているそう。

大山西瓜のPRでは、“大山のふもとの豊かな土壌で育つ大栄西瓜”と書かれている記事が多いけれど、100年の歴史の裏には生産者さんの努力があるのだろうと思います。

現在、西瓜農家は60~70代が中心。100年続く伝統も、高齢化の影響で生産者が減少しているそう。10年、20年先を見据えて新規就農者を募集しています。

生産と流通のあいだに観光?「トマシバ」

2日目は、大山町の地域おこし協力隊を経て観光プロデュースをされている、“まーしーさん”こと佐々木正志さんにご案内いただきました。

大山町をドライブすると、芝生が広がる場所があちこちに。「ゴルフ場?」と思う広大な場所、実は芝畑なんです。

黒ボク土壌に芝が適していることに着目して1958年に琴浦町(旧東伯町)で始まった芝生の生産。今では、日本有数の生産地となっています。

高収益作物として注目される芝ですが、兼業農家が大半だそう。そこで、生産の過程に何か収益を生むことができないかと考え、まーしーさんが着目したのが…

芝畑に泊まれる「トマシバ」です。どこまでも続く芝と水平線のコントラストが最高!こんな贅沢な場所にテントを張って、天体観測やBBQが楽しめるそう。

定員オーバーのため、今回は宿泊を断念…。まーしーさんとのお話もあまりできないまま次の場所へ…。次回のものがたる旅では「トマシバしたい!」「芝畑を深掘りしたい!」と思う一同でした。

まとめ

生産・流通の裏には自然との闘いや努力ががあり、関わる人の数だけ思いがあることを知りました。作り手のストーリーを知ると、“鳥取県産”への愛着が湧く一方、安すぎる農作物の価格設定にも疑問が膨らむばかりです。以降の旅でも、“黒ボク土壌との闘い”に焦点を当て、生産・流通現場の声にも耳を傾けてみようと思います。


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