彼女の証言その① 「F井さんのことについて」

「私の友達に一人、魔法使いがいるんです。

あ、魔法使いっていっても、そんな、はい、ええと、うふふ

魔法一つしか使えないんですけど。

それ、魔法使いじゃないじゃんって思ったでしょ?

でも私にとったら魔法使いなんです。立派な。私がかかるので。ええ。

その人は、私よりたぶん...5つくらい年上なのは確実で、あ、専門学校で知り合った人 なんですけど、そう 私が今通ってる、そうそう。

それで、その人— 、彼女は、一度喋りだすとそれはもう次から次へと私にいろんな言葉を投げてよこすんです。私が、その言葉を全部 拾い終わらないうちに私にいっぱい言葉を、投げて しかも近くだったり遠くにだったり距離がもうバラバラで、わざとなのか 本気なのかわからないけど、もう とにかくいっぱい私に言葉を投げるんです。両手で受け止められないほど。

私は彼女に会うと少しだけ面倒くさそうな顔をしてしまうんです。うん、ちょっとだけ。彼女のその、尽きることのない言葉を全部受け止めきれないとわかっているからなのかもしれません。

そんな彼女がある日、恐らく、 時間はたしか、、23:30くらい。

いきなり私に小声で「私、シンデレラなのでもう帰りますね。」

そう言ってきたのです。

その瞬間、私はつい「ガラスの靴はお忘れになっていませんか?」

そう言ってしまったのです。さっそうと彼女は帰っていきました。

彼女がそういうこと言うなんて思いもしなくて、そして自分もそう返してしまうなんて思いもしなくて少し笑ってしまいました。

その日から23:30になると頭の中にどうしてもその、彼女の、「シンデレラなのでもう帰りますね」という言葉が浮かんできてしまって私の心はざわざわしだす。

彼女が(魔法の)言葉を私に言うので、ざわざわするのです。なんの変哲もない23:30という時間が、私には「シンデレラだから帰る」時間になるのです。

ふふっ たぶんこれはわたしだけがざわざわする魔法。

いつかは自分も言ってみたいです、「私、シンデレラだから帰りますね」

そして彼女のようにさっそうと帰ってみたい。

彼女は私だけがかかる魔法を持っている、好きな人のうちのひとりなんです。

ええ、また会ったら面倒くさそうな顔 しちゃうと思いますが それはひとつの「好き」だということを照れ隠しにする行為なのかも知れません。

あはは、変ですか? 変じゃないと思うんだけどなぁ。

ええ 私の愛しく思える人のうちのひとり、F井さんについての話でした。」





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