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席は離れても、心は一つに(5)

「どうしても不安になったり、イライラが高まってくる時は、このクラスの仲間をちらっと見てごらん。そうしたら、自分の中の頑張ろうって気持ちが少しだけ回復するから。」

お昼休みの体育館の練習で、僕は子ども達にそうアドバイスした。

100人以上の集団が列をなして座っている中で、

仲良しさんクラスの子ども達の位置は、飛島のように離れていて、

交流クラスの子たちがいない中で、各々の席に座ると、

一層その離れ具合がはっきりとして見えた。

隣同士の席になっているのは最後列の、はやくんとあまくんくらいだった。

それぞれの席に座って、証書をもらいに行く動線を確認しながら練習する。

子ども達の名前を呼ぶのは僕の役割なので、

校長先生役をあゆ先生にやってもらう。

仲良しさんクラスだけでの練習なこともあり、子ども達はリラックスして、

自分たちが不安に思っていた動き方を、確認しながら練習する事ができた。

「儀式なんてのは、形が大事、形が大事と口うるさく言われるけど、実際のところ、本当にこうしなきゃいけないなんて絶対の見本はないんだよ。そして、口うるさく言われる形さえ覚えてその通りにすれば、なんてことは無いものなんだ。覚える内容だって、みんなが一年、いやこの6年間で学んできた勉強の内容に比べたら、本当に大したことのない内容だからね。」

そう言って、子ども達が良くできていることを、しっかりできてるよとほめながら話すと、

子ども達も、にっこりと安心した笑顔で、頷く。

「ただどうしても緊張して間違ってしまった時、そんな時はどうすればいいか。それは、堂々とすることです。だって、本当の正解なんておうちの人も先生たちも5年生も誰も知らないわけでしょ。やべっ!間違えた!って態度を出すと、みんなに(間違えたのかな?)と思われるわけだから、堂々としていなさい。壇上で立ち止まるのを忘れても、右手と左手の出す順番を間違えても、そんなのだれも気にしないから。」

なるほどー、と納得したように頷いた後あんちゃんが尋ねる。

「でも先生、階段踏み外してこけたりしたら、さすがにやらかした!と思うよ。」

「たしかに。」

そう言ってはや君がふきだす。その笑い声でみんなも笑う。

「どうしよう、本当にこけたら。もう一回、先生練習していいですか。」

そうくんが、真剣な顔でもう一回をリクエストしてくる。

まなさんや和君も、うんうんと頷き、練習をもう一回と要望しているようだった。

「わかった、みんなが安心できるまで時間の許す限り練習しよう。」

そう言って子ども達を見て、僕は続けた。

「けど、もうどうやっても誰が見てもの失敗をしてしまった時には、、、」

何かいい手が?そんな感じでこちらに視線が集まる。

「今の笑顔で、みんなの方ににこっと笑えばそれで大丈夫。そしてこの仲間と、ととろん先生、あゆ先生を見て。絶対に助けるから。」

この子達の旅立ちの時は、もうあと数日後だ。



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