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パワーナンバー表は暗記しろ

パワーナンバーは覚え得である

 …と思っていた時期が自分にもありました。

 だってそう思うじゃないですか。

 MTT 8maxのテーブルであるとして、あるスタックサイズに対するオープンレンジはUTGからSBまでの7通り。

 それを受ける側のレンジは常にSRPのHUになると仮定しても、UTGに対する7通り、UTG+1に対する6通り、……SBに対する1通りを足し合わせて28通りあるわけです。

 ここからスタックサイズが変わったりMPからのコールドコールや3betが入ったり……さまざまな要因によってプリフロップのレンジは変化していき、対応するレンジ表の数は膨大なものになります。

 それに対して、パワーナンバー表はたった1つの表を覚えるだけで、トーナメントにおけるショートスタックのRFI戦略を”完璧に”マスターすることができるんです。


 えっ、こんなの覚え得じゃないですか?

 そこですぐにネットなどでパワーナンバーの暗記帳だとか、いい語呂合わせがないかどうかを探しましたが、そんな都合の良いものはどこにもありませんでした。

 どこにもなかったので、作りました。

 もともと謎解きゲーム制作を生業としており、こういう言葉遊び系が好きなのもあって、衝動で作ってしまったのです。

※せっかく作ったので、こちらの記事に有料部分として公開しています。

 しかし、これをもとにパワーナンバーを完璧に覚えてからいざ実践して見ると、「いわゆるGTO戦略」から乖離しているところがかなりあることに気が付いたのです。

補足:パワーナンバーについて

 詳しくは記載しませんが、本記事では以下の画像を参照していただければ十分だと思いますのでご活用ください。

▲ゴロ語録より引用


「いわゆるGTO戦略」との乖離について

 例えば以下のようなシチュエーションを考えます。

 1,000-2,000-BBante2,000であなたは16,000(8bb)持ちのショート。
 HJまでフォールドでまわり、COのあなたに98oが配られています。

 さて、あなたはこの98oをオールインしてよいでしょうか?

 まずは必要パワーを計算します。

 この場合の必要パワーは8(bb)÷2.5(bb)×3(人)で9.6です。

 98oのパワーは「配る天才(98,10-31)」ですから10です。足りていますね。

▲ゴロ語録 22ページより引用

 パワーナンバーを覚えたての過去の自分は恥ずかしながらこれを脳死でオールインしていました。

 しかし、だいたいAハイやKハイに捕まって負けていたので、ふとしたタイミングでwizard先生に聞いてみたんです。

 あれっ?

 必要パワー10に対する9.6だから近すぎたのかもしれません。BTNくらいにしてみましょう。

 あれれっ?

 いや、よく考えればこうした乖離が生まれるのは当たり前なのです。

 というのも、そもそもパワーナンバーは「少し前に提唱された均衡解」に基づいた「概算」であって、現在主流となっているようなoptimalな戦略に基づいた均衡解では全くないからです。

 そこで疑問に思ったのは、ではパワーナンバー表は誰がどのような数式に基づいて作成したのか?ということです。

 文献として明確にパワーナンバー表が記載されているものの1つに、界隈では有名な書籍であるLee Nelson氏のアグレッシブポーカー( Kill Everyone: Advanced Strategies for No-Limit Hold 'Em Poker Tournaments and Sit-n-Gos )があります。

 そこに書かれている情報をもとにいろいろと探してはみたものの、2007年頃にこのような数学的な議論が活発に行われていたくらいのことしか分からず、ついにその正体を突き止めることはできませんでした。(これに関して詳しく知っている方がいたら教えていただきたいです)

 しかしいずれにせよ、2007年という年代から見てもパワーナンバー表が「少し前の均衡解」に基づいていることは明らかでしょう。

パワーナンバー表による戦略は間違いなのか?

 結論から言うと、間違いではありません。

 といっても先述のとおり詳しい導出方法は知らないので、現代の戦略に則ると「パワーナンバー表は間違い」かもしれません。

 しかし、「パワーナンバー表に基づいたプリフロップ戦略」は決して間違いではないと思っています。

 例えば以下のようなシチュエーションを考えます。

 1,000-2,000-BBante2,000であなたは20,000(10bb)持ちのショート。
 COまでフォールドでまわり、BTNのあなたにK8oが配られています。

 必要パワーは10(bb)÷2.5(bb)×2(人)で8です。

 K8oのパワーは「金髪祝いな(K8,10-17)」ですから10です。

▲ゴロ語録 8ページより引用


よってパワーナンバーの考え方によればオールインは可能です。

 ここであなたはK8oをリンプインしてポストフロップを戦おうと試みます(いわゆるGTO戦略でもリンプは推奨されています)。

 しかしその直後に

 ① SBからレイズ
 ② SBからオールイン
 ③ BBからレイズ
 ④ BBからオールイン

 のいずれかを受けました。

 この①〜④のパターンにおいて、あなたは相手のレンジを考えた上でK8oをそれぞれ適切に対処することができますか?

 これは個人的な考え方ですが、

「ポストフロップを戦いたいからリンプインorミニレイズ戦略を取る」というポリシーの方をちょくちょく見かけます(自分もそうでした)。

 しかし、どちらかというと「ポストフロップに自信があるか」というよりも「直後に後ろからレイズorオールインがきた時に適切に対処できるか」の方がより重要だと思うんです。

 もし配られたハンドでその状況に対処できる自信がなければ、パワーナンバーによるプッシュorフォールド戦略を取ればいいんじゃないかな、と思います。
 
 それは逃げだとか、横着オールインだとか、そんなことを言われるかもしれないですが、それでいいのではないでしょうか。

 パワーナンバーを理解した上で、じゃあそのハンドをどうするのか。

 必要パワーは足りているけどリンプインする戦略をとるのか、ミニレイズするのか、オールインするのか、はたまたICMなどを考慮してフォールドするのか。

 「プリフロップで機械的にオールイン」ではなく、そういった数ある戦略の中でどの選択をとるのかという問題に対する1つの分かりやすい指標(あるいはcomplexな戦略への一種の”簡略化”の手法)として使う「パワーナンバー」はアリなんじゃないかな、と思います。

 まだ書きたいことはいっぱいあるのですが、キリもいいので一旦この辺りで終えさせていただきます。

 ここまで読んでいただいて、ありがとうございました。

 タイトルに戻りますが、
 パワーナンバーは(覚えておいて損になることは多分ないから)暗記し(てもいいんじゃないかな、と思った今日このご)ろ

ということです。


参考文献


・Nelson, Lee et al.(2009). Kill Everyone: Advanced Strategies for No-Limit Hold 'Em Poker Tournaments and Sit-n-Gos, 392p.
・Sklansky, David(2007). Tournament Poker For Advanced Players: Expanded Edition, 346p.
・Chen, Bill and Ankenman, Jerrod(2006). The Mathematics of Poker, 382p.
・Poker push or fold Tournament Calculator(2022). Jennifear Push or Fold Chart https://docs.google.com/spreadsheets/d/1hHM04qRKysOVj0IoiW6EZpWFSVB2U3Oscg4-B2_0xog/edit#gid=0 (accessed 2022-12-10).
・Mypokercoaching.com(2022). Best Push Fold Chart For 2022 https://www.mypokercoaching.com/push-fold-chart/ (accessed 2022-12-06).
・pokernews(2009). Mathématique du poker : le Power Number  https://fr.pokernews.com/strategie/poker-power-number-calcul-de-tournoi-3847.htm (accessed 2022-12-05)
・HoldemResources.net(2022). HeadsUp Push/Fold Nash Equilibrium https://www.holdemresources.net/hune (accessed 2022-12-05)


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