ラフマニノフ号に乗って北へ

僕はラフマニノフ号に乗って旅に出た。

北へ、北へ、北へ。

一つ目の町には、
家が一軒あった。

そこにはおじいさんが住んでいて
どことなく寂しげだったが
時々くる鳥の声を聞いては
つぶやくように返事をして
どことなく満足そうだった。

僕はそれを見て悲しくなった。
僕は年をとりたくはないなあと
未来への可能性がどんどん狭まっていくのも
小さなことで大丈夫になってしまうのも
悲しく思えた。

僕はまたラフマニノフ号を走らせた。

二つ目の町に着いた時
すでに夜になっていた。

あまり光がないなか、
道の交差する所に一つの街灯があった。
街灯の下にはいろいろな張り紙がしてあったが
僕には何一つ読めなかった。

この町では色々な人が言いたいことを持っているのだと思いながら
その張り紙の一つ一つを見ていた。
綺麗で律儀な字
太く強くあつかましい字
ほのかに見てほしがってる字
それらを眺めていると時間を忘れた。

またラフマニノフ号を走らせ、
三つ目の町はなんとも奇妙だった。

植物しかなかったから、僕は最初、森、と思った。

植物が薄く覆った地面を手でわけると
地面が半透明だった。
透明なものに覆われた町、
僕はその上にいたのだ。
よく見ると下には家があったが
すでに風化していた。

看板を一つ見つけた。
この町は閉鎖され、閉じ込められ
その上に植物が、歴史を覆い隠すように 
歴史を刻んでいるとのこと。

僕は膝をついて、
眼下の景色が刻刻と昇りゆく太陽によって
ほのかに色を変えていくのを見ていた。

ラフマニノフ号は少し疲れてきたようだったが、
僕は四つ目の町へと向かった。

四つ目の町には家がたくさんあり
家の窓には明かりが灯っており
いろいろな人の歌声が聞こえた。

家は秩序のない並び方をしていたが
どこか仲良さげに肩を並べていた。
彼はすこし安心し幸福を感じたので何泊かそこに滞在したが、
彼に場所はなかったので
またラフマニノフ号を走らせた。

北へ。



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