【国語辞典サーフィン】かわいい丸い動物

【国語辞典サーフィン】かわいい丸い動物

23/05/06まで

国語辞典サーフィン

放送日:2023/04/29

#学び #勉強

放送を聴く23/05/06まで

突然ですが、あなたは今どんな靴を履いていますか? デートの日だからハイヒール? 山登りに行くので登山靴? 休日はやっぱりスニーカー? ライフスタイルや用途によって選ぶ靴は変わってきますよね。では、国語辞典はどうでしょう? 同じ辞書をずっと使っていませんか? 国語辞典なんてどれも同じ! とは思っていないでしょうか?

実は国語辞典には、それぞれ編者のこだわり、編集方針があって、一つ一つ違うんです。また、言葉の意味以外にもたくさんの情報が詰め込まれていて、さまざまな楽しみ方があるのです。さあ、国語辞典を開いて、広くて深~い言葉の海、言葉の波を乗りこなしましょう!

【出演者】
タツオ:サンキュータツオさん
柘植:柘植恵水アナウンサー

タツオ:ごきげんようサンキュータツオです。柘植:アナウンサーの柘植恵水です。タツオ:いかがお過ごしでしょうか? 皆さん、どこでこのラジオ聴いてくださっているんですかね? 移動中の車でたまたま聴いた方もいらっしゃるかもしれませんね。まぁ何かのご縁ですから、ぜひおつきあいくださいませ。柘植:この番組を初めて聴いてくださる方に改めてご紹介しますと、芸人で日本語学者で国語辞典コレクターのサンキュータツオさんが、国語辞典の楽しみ方、選び方、つきあい方など、さまざまな角度から国語辞典の魅力を紹介していくという番組です。タツオ:さまざまな角度からなのに15分番組という、このコンパクトさね(笑)。柘植:短いな? と思うけど、それがいいんですよね。タツオ:食い足りないくらいがちょうどいい! ぜひおつきあいくださいませ。
さて、この番組の目玉企画「街頭インタビュー」からお届けしましょう。街の人たちにこんな質問を投げかけてみました。「もしもあなたが国語辞典なら、この言葉、何と説明しますか?
街の人たちが、何の言葉についてどう説明しているのか、考えながらお聴きください。

  • かわいい丸い動物。

  • ひげがはえてて、肉食系のライオンの仲間みたいな・・・

  • ちょっと自分勝手なところがある動物。

  • あまり人なつっこくなく、自由気まま。

  • 愛玩動物、世界で広く飼われている。

  • 4本足で、目がギラッとしてて、高い所から落ちても大丈夫な脊椎動物。哺乳類です。

タツオ:なるほど~おもしろいわ! 解釈が全然違いますね。柘植:動物で、自分勝手?タツオ:ネガティブなものもあれば、かわいいというポジティブなものもある。さあ、そろそろ分かりましたかね。正解は「ねこ」でございます。柘植さんは「ねこ」をどう説明します?柘植:ペットで飼われていてニャーと鳴く動物!タツオ:なるほどね。そうすると実際に飼ってる人からは「うちのミルクちゃんはペットじゃありません!」って言われちゃうかもよ。これ、けっこう難しいの。かわいいかどうかも人によるし、人なつっこいかどうかも個体によるし・・・。だから「ひげがある」とか「世界中で飼われている」みたいに分布を考えてくれた人もいましたね。皆さんはどの辞典に近いかな?
『明鏡国語辞典 第三版』では「愛玩用、ネズミ駆除用として飼われるネコ科の哺乳類。体はしなやかで、毛色は多様。足裏に肉球が発達し、音を立てずに歩く。夜行性で、瞳孔は明るさに応じて大きさを変える。ペルシャネコ・シャムネコ・アビシニアンなど品種が多い。古代エジプトでは神聖な動物とされたが、一方では「化け猫」の語もあるように、魔性のものともされる」柘植:すごく丁寧に説明されていますね。タツオ:『新明解国語辞典 第八版』だとさっぱりしています。「家に飼う(愛玩用)小動物。形はトラに似て敏捷(ビンショウ)。暖かい所を好み、ネズミをよくとるとされる。品種が多い」。それから、三毛ネコ、黒ネコ、ペルシャネコを挙げていますね。形がトラに似ているとか、ライオンに似ているとか街の声にもありましたね。あと素早さ、敏しょう性。暖かい所を好むとか、いろいろな辞書も苦労しています。
『三省堂国語辞典』も「三毛猫・虎猫・ペルシャ・シャムなど、古くから家で飼われている小形のけもの。多く、耳は三角でぴんと立ち、目はアーモンド形、左右にひげがのびる。じょうずにネズミをつかまえる。鳴き声は、にゃあにゃあ・にゃんにゃん」
ほら、これって柘植説に近いですよ。柘植:鳴き声が入っていましたね。タツオ:「古く、鳴き声を「ねうねう」などと聞きなした」と由来も書いてあります。つまり、昔の人は「ねうねう」と鳴いていると思っていたんですね。その「ね」に小さいものをさす「こ」がついたもので「ねこ」だと。だから「にゃんこ」と同様の構成と書いてあるんですけど、「にゃんこ」というノリで昔は「ねこ」と言っていたということですね。柘植:「ねうねう」からという語源説はおもしろいですね。タツオ:『岩波国語辞典』は「愛玩用、また、ねずみを取らせるなどのために、古くから人が飼い親しむ獣。犬より小さく、鋭い牙と爪がある。鳴き声は「にゃー」と聞きなされる。犬が忠実だとされるのに対し、魔性のものともいわれ、またのどを鳴らして人にすり寄る姿を媚態(びたい)になぞらえたりする。雄の三毛猫は少ないので、福をもたらすといわれる」柘植:犬との対比も書かれていましたね。タツオ:犬との比較を岩波は入れていて、大きさ、性格、人間とのつきあいが長い動物でいうと犬猫ってトップ2ですけれども、あと馬ね。で、そういうものとどう違うのか? あと、歴史的意味ね。福をもたらすとか、媚態になぞらえるとか、どういう言葉として使われてきたのかというニュアンスも入ってるんです。柘植:媚態という字も勉強になりますね(笑)。タツオ:国語辞典を引いて、ふりがなのある言葉を覚えるっていい遊び方なんじゃないかな。柘植:そうですね。タツオ:どうして「ねこ」がこんなにも頑張っているかというと、もちろん歴史的にも古いんですけど、国語辞典にとって「ねこ」って特別なんです。なぜかというと、『言海』という最初の近代的な国語辞典に関係があります。これは明治時代に大槻文彦という人がほぼ一人で書いた辞典なんです。日本という国ができて、「じゃあ、国の言葉を制度として、1冊の本でこれを日本語とします!」としたんです。当時は地方によってもかなり言葉のばらつきありました。国語というものがなかったので、それを国語としていろんなことを説明しなくてならないので、どの言葉を入れるかまで全部やって、街を歩いて言葉の説明をしまくったんです。その人(大槻文彦)が書いた「ねこ」の項目がけっこうドラマチックなんです。体の大きさや毛の色、性格、時間ごとに変わる瞳の様子まで丁寧に書いているんです。柘植:すごく細かく書いてあるんですね。タツオ:ずっと猫を観察してこの動物どうやって説明しようかと・・・これってすごくない?
「ねこ」といってもいろんな品種があるから、抽象的な動物としての「ねこ」というものは存在しないわけですよ。じゃあ、いろんな種類の「ねこ」に共通する特徴は何か? というのを本当に観察して、このような言葉の説明にしたということなんでしょうね。柘植:瞳の変化までね~。タツオ:国語辞典サーファーの皆さん、ぜひ『言海』という名前だけでも覚えておいてください。

お便り紹介

柘植:ここからはいただいたメールをご紹介します。自転車に乗るもんきちさんからです。

「私は学生時代、ひざとひざの間に辞書をはさんで、内太ももの筋トレに使っていました。辞書を作ってくださっていた皆様を思うと申し訳ないです。これから番組を聴きながら辞書を引くので、とんとんになりますように。タツオさんのファーストディクショナリー物語を聞きたいです」

タツオ:まぁ、ほかの皆さんと一緒で小学校とかにあがる時に買ったというのはあると思いますけども、国語辞典を明確に意識するようになったのは大学院に入って1年目に、指導教授が国語辞典を作っていたんです。『集英社国語辞典』なんですけど、当時はオール横書きの辞典だったんですよ。横書きの辞典って過去何社かやっているんですよ。でも、やっぱり1冊しかみんな買わないから「1冊買うとしたらやっぱり縦書きか」ってナゾの国語辞典保守になっちゃうの、みんな。柘植:国語はやっぱり縦で読まないといけないって思いますよね。タツオ:だけど、外来語とかすごく入ってきてるから、原語の表記は横書きのほうが絶対いいんです。例えば英語、フランス語、ポルトガル語、なんでもいいんですけど、カタカナ語は絶対横書きの方がいいんですよ。あと、いま皆さんが触れている、あるいは自分で書いている文書ってほとんど横書きなんです。なのでタイピングの時も横書きの方が便利なんです。で、「ああ、横書きの辞典もあるんだ!」ということに衝撃を受けて、「ほかの辞書はどうなってるんだろう?」と思って、調べ始めたのがきっかけかな。ですけど僕は、ひざとひざの間にはさむのもいいと思います。柘植:そういう出会いもありと言うことですか(笑)。
皆さん、お便りありがとうございます。番組では、国語辞典にまつわるエピソードやタツオさんへの質問、また、お遊び企画の「お悩み相談」もお待ちしております。メールはすべて、NHKラジオ第1「国語辞典サーフィン」のホームページから送ってください。タツオ:国語辞典サーフィンいかがでしたでしょうか? そろそろお別れでございます。ぜひ皆さん、きょうは「猫」で気になったら、「犬」でも引いてもらいたい。柘植:今すごく思っています。「鳥」とか、いろいろ身近な生き物について引いてみたいです。タツオ:人間とのつきあいの長い動物とか引いてみると、「ああそうか!」と思いますよ。
国語辞典って、知らない言葉を調べるものだって思ってる人が結構多いんですね。実は、知ってる気がしてた言葉とか、似た言葉との違いが分からないとか・・・。そういう時にこそ国語辞典の出番なので、ぜひ国語辞典を読んでもらいたいと思います。犬も引いてみて(笑)。
ぜひ皆さんもSNSで番組に参加してください。メールでも感想をお待ちしております。お悩み相談も待っています。また、国語辞典を開いて言葉の波を一緒に楽しんでいきましょう!柘植:ではまた来週、この時間にお会いしましょう。お相手は柘植恵水と、タツオ:サンキュータツオでした。ごきげんよう。

国語辞典サーフィン

ラジオ第1 毎週土曜 午後0時45分

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【放送】
2023/04/29 国語辞典サーフィン「かわいい丸い動物」 サンキュータツオさん

放送を聴く23/05/06まで

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