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【谷和樹の教育新宝島】vol.43 からの学びその子だけの世界

今回のメルマガは「書き出し」で引き込まれました。
┌<引用>────────────────
幼い頃。
私には「場所」がもう一つありました。
いつでも行けるわけではありません。
むしろ行きたくない場所でした。
【谷和樹の教育新宝島】vol.43 Part1 2024年9月27日発行
└───────────────────
幼い谷先生だけが、体験していた「世界」。
あまりにも臨場感のある描写に、のめり込むように読みました。

谷先生の幼い頃や小学生の頃のお話がメルマガには、
時々、登場するのですが、その都度、教師として大切なことに気付かされます。
今回もそうでした。

読んだ後、すぐに思い出したのが、20年近く前の頃のことです。
朝、1時間目の授業をしている時でした。
漢字スキルを出して、練習を始めようとした時です。
一人の男の子が言いました。
「先生、どうして、テレビを消さないんですか。音が気になります」
私は驚きました。
その教室に、確かにテレビ(当時はまだブラウン管)は設置されていました。
天井から吊るされているタイプです。
しかし、付いていないのです。
画面も真っ暗です。
「え?テレビは消えているよ」
他の子も不思議そうな顔をしていました。
すると別な女の子も言いました。
「テレビから、”ジーーッ”と音がするよ」
耳を澄ませましたが、私には聞こえません。
でも気になったので、椅子を持ってきて、踏み台代わりにしました。
テレビの近くに顔を近づけて、驚きました。
なんと電源が入っているのです。
しかし、ビデオ入力になっていて、画面は真っ暗だったのです。
ここで思い出しました。
そういえば、昨日の放課後、行事のために担当の先生が教室のテレビをチェックしていたのです。
その時、消し忘れたのかもしれません。
私は、「ごめん!本当に電源が入っていたね!消すね」と言って
スイッチをOFFにしました。
「あ!静かになった」
「音も消えたね」
二人には、このテレビが作動する音が聞こえていたのだと思います。
朝から、この音が聞こえていたのだと思うと申し訳ないことをしたなあと思いました。

もう1つ思い出したのが、向山洋一先生の『新卒日記』です。
向山洋一先生が、新卒の時に書かれていた実践記録です。
その一部は、「谷和樹の教育新宝島」の公式ウェブサイトで、サンプルとして公開されています。

サンプルで読める「向山洋一氏の新卒日記」

私が思い出した『新卒日記』は、『小学三年学級経営 新卒どん尻教師はガキ大将 (学芸みらい教育新書10)』に掲載されている記録です。


┌<引用>────────────────
身体の落ち着かない子
七月一日(月)
どうもがまんできなかった。一人の男の子が、落ち着いてすわってないのである。身体がちょこちょこと動く。私は大声を出した。
「O君! なんでそんなにそわそわするんだ。もっとちゃんとやりなさい」
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初めて、この新卒日記を読んだ時、自分も注意してしまうだろうなと思いました。
当時、私は20代でしたが、「落ち着かない子」に注意してしまっていました。
日記では、向山先生はその子に「落ち着かない理由」を尋ねます。
┌<引用>────────────────
「なんで、そんなに落ち着かないのか言ってみなさい」O君は泣きじゃくりながら言った。
「だって、飛行機がうるさくて気がへんになっちゃうんだもの」
ガーン。
└───────────────────
当時、向山先生が勤務する学校の近くには羽田飛行場がありました。
70秒に1機の割合で離着陸していたそうです。
校舎は完全防音の構造でしたが、季節は夏です。
クーラーなどありません。
窓を開けていました。
20分に1回、外から大きな飛行機の音が聞こえていたそうです。
この「理由」を聞いた後の、向山先生の心の中の言葉を読み、私は大きな学びを得ました。
┌<引用>────────────────
この意見をねじふせようと思ったら簡単だ。
「他のみんなは、静かにできているのだ」と言い返せばいい。
でも、O君にとっては、飛行機の音は気になる音なのかもしれない。この子だけにはちがうのかもしれない。信じることだ。それが教師なのだ。
「そうか、それは先生が悪かった。ごめんなさい。でも、少しずつちゃんとしような」
私は君にあやまった。
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「この子だけはちがうのかもしれない。」
「信じることだ。」
「それが教師なのだ。」
何度読んでも、教師としての心が震えます。
今から56年前の教室で、このように子どもを「信じる」ことができたのはどうしてだろう。
それは、向山先生が、どの子にも「その子だけの世界」があると心に留めていたからではないでしょうか。
自分が見えている景色、聞こえている音だけを基準とするのではなく、
「この子だけはちがうのかもしれない」と心に留めることが、
教師として大切だと思いました。
谷先生が、幼い頃、体験していた「世界」のお話を書いてくださったおかげで、
改めて、心に留め、教室に向かおうと決意しました。


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