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インドは旅行じゃないよ。冒険だよ。4.菩提樹

デリーのバザール内にある安ホテルに一週間いた。
インドの空気にも慣れ、そろそろ次の目的地に向けて出発だ。

今回の大きな目的である「仏陀の歩いた道」の最初の地、ブッダガヤだ。

仏陀が悟りを開いたとされる地だ。
オールドデリーから人力車(リクシャー)で30分ぐらい。

タクシーかオート三輪(小さなホロ付きの寄り合いバスみたいな)を待っていると、目の前にギコギコと自転車をこぎながら男が現れた。
「ブッダガヤだから遠いよ」と言っても、男は自慢の足を見せて「ノープロブレム」の一点張り。
値段の交渉をして、少し高めの料金で決定した。

出だしは順調。都会だから凸凹はしてるものの、平地だから。
ブッダガヤは少し丘にある・・・。

10分後、男は立ち漕ぎを始め、お仕舞には歩くより遅くなった。
「だから言ったろ」「ノープロブレム」
僕は哀れになったのと、イライラしたのとで彼を止めた。
「代わるよ。お前は後ろに乗れ」
そして妻と彼を乗せて走り出した。
その頃はまだサッカーで鍛えた脚力に自信があったので、5分ほどは軽快に進んだ。

そして汗をダラダラと流しながら「何で金を払ってお前を乗せているんだ!」と叫びながら必死で漕ぎ続けるw
「そこを右だ」背後から楽しそうに指示する男にムカつく。

何とか到着し、クタクタになった僕は言った。
「半分、金返せ」
「Good joke」と言って彼は笑った・・・・・。


取り敢えず、町の入り口付近のホテルを探し、荷物を置いて身軽になる。
先ず、このホテル選びから戦いは始まっている。
料金交渉は当たり前。三日間でいくらだと訊き、一週間ではどうだと値切り倒す。大体の相場はつかめていたので、適当な所で妥協する。
先ずは、こいつは出来るな。と思わせなければならない。
観光客、特に日本人は足元を見られやすい。
舐められたら舐め返す。倍舐めだ!

次に部屋を見る。
窓と扉の鍵はしっかりかかるか、シャワーはちゃんと出るか、シーツは清潔か、壁は薄いか・・・等々、チェック項目を一からチェックする。
そして不備があれば指摘して、修理、もしくは値引き交渉、はたまた部屋替えを訴える。

ボーイが出て行くと、鉄製のがっしりとしたベッドの足にバッグを鉄の鎖でグルグル巻きにして縛り付ける。ボーイの窃盗は当たり前だからだ。油断すると、すぐに何かがなくなる。

部屋のドアに釘を打ち付け、三重ロックをかける。窓も二重に。
鍵は、日本製の丈夫なヤツを8個ほど持参していた。

さて、これでやっと出かける準備が済み、いよいよ仏陀が悟ったと言われる菩提樹を観に行くことが出来る。


小規模なバザーを通り過ぎ、立派な寺院の立つ中央広場へ。
が、僕はそこでショックを受けた。
何と、菩提樹に鉄の柵が張り巡らされていたのだ!

ええーっ! 旅のメインディッシュだったのにぃ・・・・。
僕は、仕方なく周りに落ちている菩提樹の葉っぱを何枚か拾った。

柵の前に胡座をかいて瞑想している人がいる。若い白人男性だ。
目を開けたので、声をかけた。
はっきりとは聞き取れなかったけど、どうやら昨年、アサハラという男が来てここに居座り、皆を困らせたそうだ・・・。
お前もあの男の仲間か?と訊かれた。

僕も彼の隣に座り、瞑想した。
観光客が僕と彼の写真を撮っている・・・やめれ・・・・。

聞けば、その菩提樹も4代目だという。
そうだわなあ・・・・残念なような、良かったような・・・・。

ベレッタ92


結局、ブッダガヤには3日ほどしかいなかった。
予定では、菩提樹の下で一週間ほど、朝から晩まで瞑想三昧のつもりでいたのだが・・・柵があっては気持ちが白けてしまい・・・。

しかし最終日、生まれて初めて死の恐怖を味わった。
夕暮れ時、部屋に戻った僕たちは明日の旅立ちの準備をしていた。
そこに扉をノックする音が聞こえた。

「Freeze!」


を突きつけながら僕を押しのけ中に入って来たのは、スーツを着た大男の二人組だった!

一瞬、強盗か!と思い、身構えた。
大したことは出来ないかも知れないが、持して死を待つよりは小指の一本でも噛み千切ってやる!というつもりだった。

police!」男は銃を突きつけたまま、バッジを見せた。

一安心した僕らは、ベッドに腰掛け、もう一人の男が二人の荷物を全てバッグから出し、調べ始めた。
話を聞くと、どうやら日本人のテロリストがホテルに潜伏しているという情報が入ったというのだ。

後で思うと、それは、菩提樹を占拠したアサハラ・・・浅原正晃だったのだ! 僕らはその一味、オーム真理教と見なされてしまったらしい。

それにしても、銃口を突きつけられるというのは、生まれて初めての経験だった。
」というものをいきなり目の前に突きつけられて、僕は咄嗟に反撃しようとしたが、後から恐怖がジワジワと襲ってきた。
幸運で貴重な体験だった。

銃の種類は、ベレッタだと思う。
安心した僕は急に好奇心の虫が疼きだし、突きつけられている銃口に顔を寄せ近くで覗き込んだ。
「な、何をやっている? 危ないだろ」
大男の刑事が銃を引っ込めた。
「もうちょっと見せてよ。初めてなんだから」
食いつく僕。
「これは玩具じゃないんだ。やめろって」
とうとう背中に回して見れなくされた。

「異常はないらしい。お前、変わった日本人だな。いい旅を」
そう言って男たちは出て行った。

ガタガタと震える妻。
初めての体験に上気し、興奮する僕。

その夜、怯える妻を安心させるために妻を抱いた。
本当は、興奮を鎮めるために抱いたのだけれど・・・・テヘ(*´ω`*)ゞ



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