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お義母さん、僕の子供を産んでください No.14 幸せの記憶

ある日、珍しいことに、娘が買い物に行こうと誘ってくれた。
その日は日曜日だったのだが、あいにく彼は接待ゴルフ。
今どき接待ゴルフなんて、そうは思うものの、私たち親子も何度か一緒に回った覚えがある。
親会社同然の社長から誘われれば、むげに断ることも出来ないのだ。

彼とは夕食を同席することにして、私たちは久し振りの休日を楽しもうとおしゃれをして出かけた。


「お母さんとお出かけって、本当に久しぶりね」
車のハンドルを握りながら、娘は楽しそうに言った。
「そうね。珍しいわね。私を誘ってくれるなんて」
「たまにはお母さんとショッピングを楽しみたいもの。最近、服も買ってないでしょ!?」

そう言われれば、このところショッピングにさえ行っていない。着ているものと言えば、いつもお決まりのダークカラーのビジネススーツだけだ。

「たまにはおしゃれをしないとダメよ。今日は私が選んであげる。任せといて」
「はいはい、ありがとう。何を選んでくれるのやら」
「そうね、男たちの注目を集めるようなセクシーなのがいいわ」
「ええ!? 嫌よ。そんな恥ずかしい」
娘はチラリと私を見て言った。
「ああ、こういうところね。タカシが言ってたお母さんの恥じらう姿って」
「え⁉ タカシさんが何を言ってたの? 変なこと言わなかったでしょうね!?」
「なに慌ててんのよ?! 何か言われて困るようなことあるの?」
「な、ないわよ。何を言ってるのよ・・・」
「うふふ・・・やっぱりタカシの言ってた通りだ。お母さん、可愛い」
「やめてよ。変なことばかり言わないで」

「タカシが言ってたのよ。私がね、お母さんが美人で良かったね、って言うと、お母さんは可愛いんだよ、って」
「そんなことを言ってたの⁉ よしてよ・・・」
「ほら、赤くなった。ほんとに可愛いわね」
「もう、やめてったら!」
私は頬を抑えて顔を背けた。

娘はどうやら、からかっているのではなさそうだ。
率直な感想なのだろう。
しかし、彼がそんなことまで娘に言っているとは意外だった。
まさかそれ以上のことは言っていないでしょうね!?
今度、抱かれる時、確認しなくっちゃ・・・・

今度、抱かれる時・・・・

何を思っているのだろう⁉
私は自分で思ったことが恥ずかしくて身体を熱くした。


車は大通りのパーキングエリアにスムーズに滑り込んだ。
日曜のこの時間に空いているなんて、本当にラッキーだ。

「まずはここよ。お母さんに似合う服を選んであげるわ」
「ふふ、任せるわ」
お気に入りのブランド店に入った。
若者には少し高くて手が出ない程度の店だ。
若者はいない。

「えっと、先ずは・・・あ、これなんかどう⁉」
娘が出したのは、白地に鮮やかな黒が印象的な薄い生地のワンピースだ。
確かにハイセンスな品を感じさせる。
「でも、少し派手じゃない⁉ 私よりあなたの方が似合うわよ」
そう言って娘に渡した。
娘は鏡の前でそれを当てて言った。
「私が着れば、まるで牛だわ。ホルスタインじゃあるまいし」
私は娘の大きな胸を見て吹き出した。

「お母さん! そんなに笑わなくても・・・あなたまで!」
見ると、私たちに付いていた店員も思わず吹き出している。
「申し訳ございません! 本当に・・・ぷぷぷ・・・ごめんなさい」
目に涙を浮かべている。

「お母さんが悪いのよ。私に渡すから。失礼しちゃうわ」
そう言ってハンガーに戻すと、さっさと次のハンガーに向かって歩き出した。
慌てて後を付いて行く店員。

私はその二人を見ながらつくづく思った。
やはり娘には社長業は向いている。
一瞬にして店員の心をつかんだのだ。
これであの店員は、娘の味方になっただろう。

「お母さん、早く着て! 素敵なのを見つけたわよ」
「どれ? え⁉ これ!?!」
それは濃紺の地に華やかな花の模様の入った絹のチャイナドレスだった。

「派手過ぎるわ。無理よ」
「そんなことないわよ。一回試着してよ。ねえ、店員さん」
「左様でございます。きっと似合われますよ。一度試されては⁉」
早速、店員を味方につけた娘は、私を追い込んだ。
これが手腕と言うものだ。
私はこんな娘が誇らしかった。


「どう? 派手でしょ!? それに何だか恥ずかしいわ」
私は試着室のカーテンを開けながら言った。

「わあ! 凄い! お母さん、似合ってる!」
「凄い! 本当にお似合いです」
店員までも一緒に感嘆している。
それは商売を抜きにした驚きのように見える。

等身大の姿見に映してみる。
しなやかで弾力性のある絹の生地は、私のボディラインを余すことなく際立たせた。
深く切り込んだスリットから足を覗かせ、何より胸が強調されていた。
まるで裸に布を貼り付けただけのようなデザインに、私は羞恥を覚えた。

「これって身体のラインが・・・ダメよ、恥ずかしいわ」
が、店員が口を割って入って来た。
「羨ましいです。私もこんなドレスを一度でいいから着てみたかった・・・。お客様ほどこのドレスが似合う人を私は見たことがありません」
店員の熱い言葉がたじろぐ私を後押しする。
「お母さん、もう着るしかないでしょ!? ここまで言われたんだから」
「でも・・・・」
男たちの視線を集めそうな気がして、とても人前に出る気になれない。
「タカシなら、きっと・・・目の色を変えると思うわ」

私はその言葉で一寸怯んだ。
もし彼が気に入ってくれるなら・・・・

「はい、決まりね。じゃあ、これをちょうだい。それと靴ね。ピンヒールがいいと思うわ」
「そうですね。さらに美しさを引き立たせてくれると思います」

私は鏡に映る自分を見ながら、もし彼が私の姿を見ればどう思うだろう?! と考えた。
綺麗だと思ってくれるだろうか?
また可愛いと言ってくれるだろうか?
それとも、ムラムラしてくれるだろうか・・・・?!

「お母さん、何をぼーっとしているのよ。またタカシのことでも考えていたんでしょ!? 早く脱いでよ。次に行くわよ」
「分かったわよ。ちょっと待ってよ」

私はカーテンを閉め、背中のチャックを降ろした。
袖から腕を抜くと、ボロリと重そうな乳房がこぼれた。
チャイナドレスの場合、下着はTバック以外、着けられないのだ。

私はこの胸が嫌いだった。
学生の頃から大きかったこの胸は、男たちの視線をいつも集め・・・
憎んだこともあった。
ブラジャーやシャツで抑え込んだ。

しかし今となっては、この胸に感謝している。
この胸が大好きな彼は、見るだけで目の色を変え貪るようにしゃぶりつく。
その度、私は女であることの歓びに震えた。
もっと彼の気を惹きたい。
もっと彼の目の色を変えたい。
もっと彼をムラムラさせたい・・・・。
これが女の性と言うものだろう。


昨日の朝、早く起きた私は洗面所で歯を磨いていた。
そこに彼が現れ、隣で歯を磨き始めた。
ふと気が付くと、彼の視線が私の胸の辺りに刺さっている。
彼は歯を磨きながら余った手を伸ばし、私の胸を揉み始めた。
私は歯ブラシを咥えたままパジャマのボタンを外し胸を露わにした。
目の色を変え、私の乳房を凝視する彼。
そして手を伸ばし、熱い手の平で乳房を持ち上げるように揉みだした。
「あん、乳首はダメよ。ダメってば。今度やったらもう見せてあげない」
「ああ、お義母さん!」
彼はそう言いながら、唇の周りに歯磨き粉を付けたままキスをした。
互いの歯磨き粉が混じり、私たちは笑った。
「バカね」
「あははは・・・でも朝からキスが出来て嬉しい」
「私も・・・・」
二人はもう一度、歯磨き粉にまみれた唇を重ねた。

ささやかな幸せの記憶・・・・

女に生まれて良かったと思う幸せの記憶。

こんな些細なことが、私を幸せにする。


午後8時、大通りに面するレストランに私たちは座っていた。
誰もが私と娘に一瞥を送り、女たちが羨望の眼差しを投げかける。

背筋を伸ばし、胸を張って座っている娘のその佇まいは、女が見てもうっとりするほど。
「みんな、あなたを見ているわよ」
「何を言っているのよ?! お母さんを見てるに決まってるじゃない。凄く素敵よ。綺麗でスタイルがよくて、凛としてて・・・私も憧れちゃう」
「このドレスのせいよ。やっぱり着て来なきゃあよかった」
「なに言ってるのよ。私はお母さんが誇らしくて仕方ない。みんなに見せたいぐらいよ」
「私もあなたを娘にもって幸せよ。誇りに思ってるわ」

「ふふ・・・お母さん、親子で褒め合うのはやめましょうよ」
「うふふ・・・そうね」
「きっとタカシが誰よりも褒めてくれるわよ。黙ったままで、目の色を変えて・・・」
「やめてよ、そんな嫌らしい言い方」


そこに彼が遅れてやってきた。
「遅くなってごめん。渋滞で混み・・・・・」
「どうしたの? タカシ、声も出ないの?」
彼は、私を見つめて凍り付いたように立ち尽くしている。
目の色が変わっている。
百の誉め言葉より、その目はその何倍も私を讃えていた。

「ね⁉ 言った通りでしょ!?」
「クスクスクス・・・そうね、あなたの言った通りだわ」
私たちは笑った。
娘の予言が余りにも的中し過ぎて、笑いが止まらなかった。

「さあ、いつまでも立っていないで座りなさいよ。座ってもお母さんは見れるわよ」
「え⁉ あ、あはは・・・そうだね」
「ふふふ・・・まだお母さんを見ている気なの? 少しは私も見てよ」
「うん・・・ごめん・・・・・」
彼の余りにも素直な反応と、娘の拗ねた口ぶりが可愛くて笑いが止まらなかった。

彼は、娘の目を盗むようにして、チラチラと私を垣間見る。
私は知らん顔して振る舞う。
この快感。

彼の崇めるような恋焦がれるような熱い視線・・・
あからさまな欲望を身体にヒシヒシと感じる。
今にも襲ってきそうだ。

男の視線と言うものが、これほど心地いいものとは知らなかった。
女であることを想い出さずにはいられない。

私に束の間の幸せな時間をくれたこのドレスに感謝する。

一人の女として・・・・・



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