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料理がなくなれば、味が消える

料理を作る人がいなくなれば、その味はこの世から消えてしまうのだ。
(与那原恵)

『折々のことば』2361・朝日新聞 2022.4.26

料理が失われてしまうというと、モノとしての料理やそれを生み出す手法としてのレシピに意識が向きがちだが、本当に失われてしまうのは、「味」。

パッと分かる甘さとか塩味とかだけではなく、さまざまな隠し味も絡まって作り出す感覚。さらに、その感覚がこれまで経験した感覚や出会いや思い出なんかと共鳴して何層にも重なる感じ。

その「味」。
生きる中で味わうことができる豊かな体験としての「味」。
それが、なくなってしまう。

商売柄、すぐに結びつけて考えてしまうが、ことばも同じだな。

ひとつのことばを話す人がいなくなると、何かが失われる。
音声や文字としての表現、モノとしての言葉やそれを生み出す手法としての文法の喪失はわかりやすい。でも、本当に失われているのは、「意味」。

文字通りの表面的な意味だけではなく、行間に挟み込まれた意味、余韻として響く意味。そしてその意味たちが我々の中を震わせて感じさせる共鳴感。

我々の生きる営み、感じ取る世界を独特の味わいで色づける「意味」。
それが、なくなる。

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