[Stataによるデータ分析]重力モデルの推定(2)

本コラムでは、「重力モデルの推定(1)」に続き、重力モデルを推計する際に必要となるデータの取得する方法などについて紹介します。

二国間の貿易額X_ij

重力モデルの被説明変数である、二国間貿易額は以下の3つのデータソースから取得することができます。
二国間貿易額:IMFのDirection of Trade Statisticsより無料で入手可能。

https://data.imf.org/?sk=9D6028D4-F14A-464C-A2F2-59B2CD424B85


産業(品目)別二国間貿易額:国連のUN Comtradeから入手可能(有料だが所属大学等の図書館などで契約している場合利用可能)。

https://comtrade.un.org/

また、UN Comtradeのデータを契約している大学等に所属している場合、フランスの研究期間CEPIIのBACI Databaseのデータも利用可能。BACI DatabeseはUN Comtradeのデータの外れ値処理などを施したデータベース。

・財務省貿易統計:日本の品目別国別輸出額・輸入額は財務省のWEBサイトから入手可能です。


説明変数

GDP、一人当たりGDP、人口:World Bank Development Indicator (WDI) より無料で入手可能

二国間の距離、WTOの加盟状況、RTAの締結状況:フランスのシンクタンク、CEPIIのGravity Database

CEPIIが重力モデルのデータベースを整備しており、GDP、一人当たりGDP、二国間の距離、WTO・RTAの加盟・締結状況などをStata形式で整備したデータをWEBサイトで提供している。

その他Tips

Q: 輸出データと輸入データ、どちらを利用すればいい?
A: 重力モデルでは二国間の貿易額を使うので輸出額、輸入額どちらでも良さそうだが、結論から言うと輸入額を用いることが推奨されている。この理由を考えていこう。まず、i国のj国向け輸出額とj国のi国からの輸入額は本来一致するはずだが、そうならないことが多い。これは輸出額がFOB(Free on board)つまり輸送費を含まない出荷価格の金額であるのに対して、輸入額はCIF (Cost, Insurance and Freight)、すなわち輸送費、関税込みの金額だからである。さらに、実際のデータで、i国のj国向け輸出額とj国のi国からの輸入額を比べると、輸送費+関税の差とは考えられないぐらい乖離がある場合がある。この場合、輸出額がi国側で調査され、輸入額がj国側で調査されているので、何らかの調査漏れ等の誤差によるものと考えらえる。こうした事情もあり、以下の二つの理由により重力モデルの推計では輸入額を使うことが一般的になっている。第一の理由は、輸入には関税がかかる場合があるので企業、あるいは各国の税関は輸入の情報をより正確に申告、あるいは調査・記録していると考えられる。輸出の場合、安全保障上の規制が適用される場合があるがそれ以外には取引に制限が少なく、正確に申告・調査するインセンティブが相対的に小さい。第二に、第4節で議論するが、最近の重力モデルの測定では輸入財の需要関数として理論的基礎を与えるのが一般的である。したがって、輸送費や関税込みの金額で貿易額を評価するのが理論モデルと整合的になるからである。

Q: どうしてUNComtradeには台湾が含まれていない?
A: 台湾は政治的な事情(国連に加盟していない)により含まれてない。しかし、”Asia, not elsewhere specified”は台湾の貿易額に相当すると言われている。

Q: UNComtradeのHSやSITCとは何ですか?
A: HSもSITCも貿易財(貿易品目)の国際的に統一された貿易財コードのことで、HSはHarmonized Systemの略、SITCはStandard International Trade Codeの略。HSは6桁の貿易品目で定義され1989年から遡ることができるのに対して、SITCは5桁で1962年まで坂ぼることができる。各国の関税は国際標準のHS6桁に枝番をつけた品目ごとに税率が設定される(日本ではHS9桁)ことが多く、関税率変更などの貿易政策の分析ではHS分類が使われることが多い。より詳しくは、伊藤 (2014)を参照のこと。

伊藤匡 (2014)「貿易データ解説」『アジ研ワールド・トレンド』No.227, pp.13-14.

重力モデル(3)では、新貿易理論に基づく「構造重力モデル」について紹介します。

本コラムはStataによるデータ分析入門第3版のWeb Appendixとして用意されました。

Stataによるデータ分析入門第3版のWEB補論の一覧はこちら。


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