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第3期ミッキー絵本探求ゼミ 第3回ふりかえり


ケイト・グリーナウェイ賞 (Kate Greenaway Medal,イギリス)

ケイト・グリーナウェイ賞とは。

ケイト・グリーナウェイ賞は、英国図書館協会が1956年に児童書における絵の役割を正当に評価するため19世紀の著名な画家、ケイト・グリーナウェイの名にちなんで設立された。英国内で最初に出版された作品を対象に絵本や挿し絵(イラストレーション)が優れている作品の画家に対して年に一度贈られる賞である。
画家の国籍は問わない。
審査の上では絵と本文の調和が特に重要視される。


受賞作品は”やまねこ翻訳クラブ”に掲載されている。
※本賞は2023年よりカーネギー賞画家賞と変更された。
(旧ケイト・グリーナウェイ賞)
 

ケイト・グリーナウエィとは

ヴィクトリア朝(1837~1901)のイギリスは絵本の黄金時代とも呼ばれていた。
小口木版画の手法が発展し天才彫版師エドマンド・エヴァンズ(1826~1905)が多色刷りで多様な表現をみせ色彩豊かな美しい絵本がイギリスの児童文学の世界を彩った。エヴァンズが見出した三人の画家、ウォルタークレイン(1845~1915)ランドルフ・コールデコット(1846~1886)そしてケイト・グリーウェイ(1846~1901)であった。
クレインは装丁装飾やデザイナー、ラファエル前派に属する画家として高名である。
コールデコットは躍動感あふれる人物の動き描写に優れ、後世の絵本作家に多大な影響を与えた。アメリカ図書館協会がその年にアメリカで出版された作品のうち最もすぐれた作品の画家に贈る賞の名称がコールデコット賞である。
ケイト・グリーナウェイは批評家からの評価は優れているものではなかったが、読者からの人気は絶大なるものだった。子供を『小さな大人』として扱いがちだった19世紀において、子供を『子供』として絵描いた数少ない画家の一人で、彼女の描く帽子をかぶった子供たちのファッションはアメリカや英国の子供服ファッションに多大な影響を与えた。
児童文学・アニメ・漫画などのキャラクターの服装やスタイルが流行となるの現代では珍しいことではないが、グリーナウェイはその先駆者だったといえよう。
参考文献
『ケイト・グリーナウェイ ヴィクトリア朝を描いた絵本作家』

川端有子/編著 河出書房新社 2012年3月

ケイト・グリーナウェイ賞受賞作品にふれて

ケイト・グリナウェイ賞を調べるあたり、過去の受賞作品を手に取ってみた。1956年、第1回受賞作品は『Tim All Alone(OUP)』邦訳『チムひとりぼっち』エドワード・アーディゾーニ/作・絵 なかがわちひろ/訳 福音館書店
『チムとゆうかんなせんちょうさん』からはじまるチムシリーズの6作目であった。この絵本は講座の時にミッキー先生より解説があった。細い線描きで色彩も抑えたパステル調、海は緑色がベース。ヨーロッパの香りがする絵が魅力的だった記憶がある。そして白黒のページとカラーのページが交互にあり明暗で冒険心が膨らんでいたのだが、カラー印刷が高値であったことからどのページをカラーにするかを検討し構成されていたと知り、驚いた。
(当時はイギリスがスエズ危機に巻き込まれ経済状況はよくなかったようだ。)
白黒ページにふきだしがあったりと読者を楽しませようとする工夫も選考基準を満たしていたのかもしれない。
絵本の色彩は読者の感性に刺激を与える。季節で色彩が変わったり、主人公の感情で色彩で表現することできる。
アーディゾーニのページごとに違う色彩の手法はその後も活かされてきている。
1970年の受賞作品『Mr. Gumpy's Outing(Cape)』邦訳『ガンピーさんのふなあそび』ジョン・バーニンガム/作・絵 光吉夏弥/訳 ほるぷ出版 1976年
見開き左ページには船の様子がモノクロ線で描かれ、右ぺージには次に乗り込む動物がカラーで大きく描かれ増えていく動物の印象が強く残る。彩色で左右のページの印象がこれほど違うのかと驚いた絵本だった。
1989年の賞受賞作『We're Going on a Bear Hunt』邦訳『きょうはみんなでクマがりだ』マイケル・ローゼン/再話(マザーグース)ヘレン・オクセンバリー/絵 山口文生/訳 評論社 1990年
この絵本も同じように白黒のページとカラーのページが交互に構成されている。白黒のページはくまがりに行く一家の行動を語り、カラーのページはオノマトペで絵を表現していてとても印象深い絵本だった。ミッキー先生からはオノマトペのページの枠やタイプグラフィーで音が大きくなるような工夫がされているなどの解説もあった。
余談ではあるが、1956年は日本で福音館書店より月刊誌「こどもとも」が創刊された年であった。
1967年に出版された赤羽末吉の『だいくとおにろく』では、白黒とカラーのページが交互に展開し、「墨絵」と「大和絵」の表現で描き分けられている。
1973年の受賞作『Father Christmas(Hamish Hamilton)』邦訳『さむがりやのサンタ』レイモンド・ブリッグス/作・絵  すがわらひろくに/訳 福音館書店 1974年 
マンガのようなこまわりでふきだしの台詞、これは絵本なのだろうか?と衝撃を受けた作品である。1978年には『Snowman』で2回目の受賞を行っている。『Snowman』は映像化もされ世界中で親しまれた。
「こまわり絵本」近年では「グラフィクノベル」とも呼ばれ児童書としても注目されているジャンルになっている。
2023年の受賞作『aving Sorya: Chang and the Sun Bear』コミックアーティスト兼イラストレーターのJeet Zdung作のグラフィクノベルであったこと、また、2012年の受賞作がYA文学の『A Monster Calls 』邦訳『怪物はささやく』パトリック・ネス/著 ジム・ケイ/イラスト シヴォーン・ダウト/原案  池田真紀子/翻訳  東京創元社 2017年 であった。
2012年の中学生の課題図書であった事と、怪物のイラストがとてもインパクトがあり印象に残っていた作品だった。ケイト・グリーナウェイ賞が英国内で最初に出版された絵本や挿し絵(イラストレーション)が対象であることを改めて感じた。

aving Sorya: Chang and the Sun Bear,
A Monster Calls



ローレン・チャイルドの魅力をさぐる

ケイト・グリーナウェイ賞受賞作品を1冊紹介するにあたり、迷ったのが
ローレン・チャイルドの作品だった。
彼女の受賞作品は2000年『I Will Not Ever Never Eat A Tomato』邦訳『ぜったいたべないからね』木坂涼/訳 フレーベル館』2002年
自由奔放な妹を優しく見守る兄。この二人の会話が楽しい「チャリーとローラ」のシリーズとなった。テレビアニメ化は日本も含む世界35国で放映されたほどの人気であったが、我が家では「ハーブシリーズ」の方が馴染み深かった。ローレン・チャイルドの作品は第1期ミッキーゼミの絵本の技法で紹介している。第1期では絵本の賞については触れていないが、彼女の作品は絵と使用している技法で読者をお話しの世界へと導く。

文も絵も作者が作成しているので、文字もイラストの一部になり(タイポグラフィー)ページに一体感が生まれている。
平面でもコラージュや穴あきなどの技法で立体感を出しているが、ポップアップ絵本になるとイラストが動きだすのが楽しい。ポップアップ絵本向きの絵本だと感じる。
ローレンチャイルドの魅力とは、彼女のHPで質問に答えるページがある。
ひとつひとつの答えが魅力だと感じた。
大人向けに書きたいですかの問いには子どものための描くことが好きでまだまだ描きたいと思っていると答え、」
一番すきな本はとの問いに一番新しく完成した本だと答えていることからこれからの作品が期待される。


ヘレン・クーパーの魅力をさぐる

チームで紹介した絵本は1998年受賞『Pumpkin Soup』邦訳『パンプキンスープ』ヘレン・クーパー/作・絵 せなあいこ/訳 アスラン書房 2002年であった。彼女は1996年に『The Baby Who Wouldn't Go To Bed』邦訳『いやだ あさまであそぶんだ』ふじたしげる/訳 あすらん書房 2004年でも受賞している。
『かぼちゃスープ』 スープから漂うゆげの中に書かれたタイトル文字の飾りフォントからハロウィンの雰囲気を感じ魔法の呪文のように感じ、表紙をめくりたくなる。ねこ・あひる・りすと登場人物が大きく描かれていることからこの3匹がどのような動きをするのか想像がふくらむ。

Square Fish; Reprint版

        

日本版 アスラン書房

学校図書館ではハロウィンの雰囲気があることから、コーナ展示で使用したり、読み聞かせでも楽しむことが多い本である。また、クリスマスの献立、日本ではかぼちゃは冬至に食べるとよいといわれることから12月後半にも活躍している絵本であった。
物語では、主人公の3人にはそれぞれかぼちゃスープを作る役割分担がされているのに、一番地ちいさなあひるが違う仕事をしてみたくなり失敗を繰り返す。他の人がしていることがかっこよくみえたり、できないことに挑戦したくなる気持ちが子どもたちの共感を誘うと感じる。
お話しだけではなく、ページにはこまわりでスープを作る過程や時間の流れ表現したり見開き両面にかぼちゃ畑を描き畑の広さを表したりと各ページに工夫がありアニメーションをみているような動きを感じることができる。
最後のページでは小さなふきだしが次のページをめくるページターナーの役割で、最後のページでは次のお話しへ興味がいくような絵で締めくくられている。最後のページは絵だけで文字がないのでお話しを想像し余韻を楽しむことができるところも魅力だと感じ、読み聞かせでは最後のページはゆっくりみせるようにしている。
スープの湯気の描きかたが五線譜に音符が流れているように感じたのは
絵本作家になる前は、音楽教師を10年間勤めていたという経歴からだろうか、お話しのサブテーマに音楽がひそんでいるようだ

第3回ふりかえりをおえて


ケイト・グリーナウェイ賞を各年代で調べることで、知らない本が多い年代があったり、邦訳され、親しんでいる本は日本でも「全国学校図書館協議会選定図書」や「日本図書館協会選定図書」「日本子どもの本研究会選定図書」と、選ばれていた。
優れた絵本や挿し絵(イラストレーション)が対象であることは絵本のもつ絵の力がいかに重要であるかを改めて感じる。
小さな子どもは絵の持つ力でお話しの世界へ入る扉を開けている。
賞を知ることで時代の歴史的な背景や印刷技術、絵画における技法の流行をもしることができ作品の背景を読みとるにつながると感じた。

今回地元図書館が特別整理期間に入り、講座で紹介されたイギリス絵本の参考文献を手に取ることができなかったのが残念だった。
振り返り後になってしまったが参考文献を手に取りイギリスの絵本について
学んでみたいと思っている




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