千代田区議会が大混乱/「区長の権限」で解散/議会側「法的根拠ない」と反発

《都政新報2020年7月31日号》

(1面)千代田区議会が大混乱/「区長の権限」で解散/議会側「法的根拠ない」と反発

 千代田区の石川雅己区長は28日、区議会が区長の刑事告発を決めたことを区長に対する不信任の議決とみなし、区議会の小林孝也議長に議会の解散通知を提出した。これに対し、25人の区議全員が「石川区長の解散通知は法的根拠がなく無効」「強権を行使した横暴な手法」として反発を強めている。開催通知を出した28日の午後以降も議会は開会しているが、石川区長を始め理事者側は全員出席しておらず、事態は泥沼化している。

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 石川区長については区内の新築マンションで一般には販売されない「事業協力者住戸」を次男と共有名義で購入したことが今年の3月に明るみになり、区議会に設けられた百条委員会で利益供与がなかったかなどの調査を行っていた。百条委は6月16日に行った区長尋問について、区長の偽証と証言拒否を認定。百条委に続き、27日の臨時会でも区長を東京地検に刑事告発することを賛成多数で決定していた。

 また、28日の予算特別委員会では全区民に一律12万円給付を含む補正予算案について審議が行われたが、給付に至る庁内での意思決定過程に関する資料が不十分だとして30分で審議が中断。その後、午後2時20分に石川区長が突然、小林議長に解散通知を提出した。

 地方自治法では、議会が首長の不信任を議決した場合、首長は10日以内に議会を解散するか、しない場合は失職となるが、石川区長は区議会による刑事告発を地方自治法178条1項に基づく不信任の議決とみなして解散したと説明。一方、区議会側は全会派一致で「不信任の議決ではない」との認識を示しており、双方の主張がかみ合っていない。

 区議会事務局は「解散は無効」との認識で、28日午後以降も議会を継続しているが、石川区長は28日の午後5時に開いた記者会見で「解散の権限は私にある。議会が判断することではない」と主張。議会は解散したものとして、区長をはじめ理事者側の全職員が出席しておらず、空転した状況が続いている。

(2面)千代田区長VS区議会/突然の解散に深まる対立/区選管の判断は?

 予算特別委員会の休憩時間に突然、解散通知を小林孝也議長に渡した千代田区の石川雅己区長。議会側は総務省見解に基づき、「無効」と真っ向から対立している。今後は同区の選挙管理委員会が区長の解散宣言が手続き的に適法であるか否かに焦点が移る。

 「何をしに来られたのですか?」「解散の通知です」─。28日、午後2時20分。千代田区庁舎7階議長応接室に石川区長が細越正明政策経営部長を伴い、1枚の紙を持って現れた。

 「地方自治法178条第1項後段の規定に基づき告発議決については……」石川区長は紙を読み上げると、小林議長は「受け取れません」と言いながら隣の区議会事務局へ駆け込んだ。事務局の全職員が立ち上がり固唾をのむ中、石川区長は小林議長を追いかける。

 「受け取れません!」小林議長の声が響く中、「解釈の問題だから」と石川区長は解散通知を吉村以津己区議会事務局長に渡して立ち去った。

 あまりにも突然の解散通知だった。この日、千代田区議会では午前10時半から予算特別委員会が開かれ、区民に一律12万円の給付を行うための費用84億5600万円を含む補正予算案を審議する予定だったが、予算案について説明した後、すぐに林則行委員(自民)から資料について「不誠実で審査に入れない」と意見が出された。

 前日の臨時会で議会側は12万円の給付に至る経緯など14項目の質問を申し入れていたが、要求に応える内容でなかったためだ。「疑惑隠しのばらまきだ」という声も上がる中、細越部長が「資料については鋭意作業中で、間もなく提出できる」と述べ、長い休憩に入っていた中での突然の区長による解散通知だった。

 当初、議員側は区長の解散通知が有効なものと判断し、「自分たちは失職した」との認識だった。そのため失職しないように執行停止の仮処分で対抗しようとしたが、総務省の見解を根拠に失職しないと判断。午後4時半過ぎに議長応接室に25人の全議員と多くのマスコミが詰めかける中、小林議長が記者会見を開き、「解散通知に法的根拠はない」という全議員の統一見解を読み上げた。

 午後4時50分、「予算特別委員会を開会します」というアナウンスが流れる中、午後5時には別のフロアで石川区長が「区議会解散に伴う区長記者会見」を開き、区議会による刑事告発が自分への不信任だと主張した。

 翌29日午前も、区側は議会事務局長と次長のみが出席する中で、予特が開かれた。28日の区長会見では「12万円の給付について専決処分を行う」考えを示していたが、予特では実行できるかどうかの質問に対し、区議会事務局長が開会中は専決処分ができないことを明言した。

 予特の正副委員長は午前11時45分、区長や理事者側に対して出席するように区長室へ。区長が不在のため、二度にわたって副区長に申し入れを行う中、午後1時45分、区長が姿を現した。「あなたが上げた補正予算案ですよ。何で逃げるんですか」「委員会は存在していない」と河合良郎委員長らと区長は押し問答となった。河合委員長らによると、石川区長は「解散が正当である」との立場を変えず、区政の混乱の収め方については「区議会議員の選挙だ」と主張したという。

 今後は同区選管が区長の解散通知の手続きを適法と認めるかどうかが焦点となる。議会側は仮に選管が区長の解散通知を無効としても、区長が対応を変えない場合、区長への不信任決議は出さずに百条調査を進めるという。真相が解明した上で区長への不信任決議も視野に入れる考え。

◆会見要旨

 28日に区役所で行われた石川区長と小林議長の会見要旨は次の通り。

◇石川区長の会見要旨/「解散権限は私にある」

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 区長 議会解散の考え方は二つある。一つはコロナの感染症が拡大している中で、区民や事業所に手を差し伸べたいと(給付金を)提案したが、予算特別委では「疑惑隠しのために補正を組んだ」と建設的な議論ができない。2点目は告発で、実質的に私への不信任と理解せざるを得ない。私が区長としてふさわしくないと区議会が突きつけたと思っている。有権者にこの状況を客観的に判断してもらいたいとの思いで通告した。

 ─議会事務局は解散自体が無効と主張している。

 区長 解散の権限は私にある。議会が判断することではない。

 ─法的根拠は。

 区長 地方自治法の178条にあるが、私が議長に文書で通知すればよい。解釈は議会もいろいろ意見があると思うが、議論があるなら法廷論争していただきたい。

 ─議会は(百条委で)疑惑を持っているが、不信任案ではないと言っており、区長自身のパフォーマンスと言われてもしょうがない。区政が停滞することをどう思うか。

 区長 何をもって疑惑というか分からないが、そういう意味で解散したわけではない。この問題について改めてきちんと説明する場を設けたい。

 ─疑惑を晴らす機会が、あす(29日)予定されている区長の次男の証人尋問。その前日に解散し、潔白を証明する機会を自ら放棄する理由は。

 区長 特段そんな考えはない。有権者に判断してもらうため解散した。

 ─給付金の議論はどう進めるか。

 区長 議会が存在しないので、私の判断で(専決処分で)事業を行うことはできると思っている。

 ─12万円の支給に至る経緯について、「包括的に区民を支える」との説明だけでは足りない。

 区長 それは当然、予算(特別委)の中でも説明するが、その前に12万円が疑惑隠しだと。それを決めたプロセスを明らかにしろという話で、その資料がない限り質疑はしないという(議会側の)議論は違うと思う。

 ─区民に今後の区政運営について。

 区長 今回の判断は苦渋の選択だが、皆さんには我々と区議会の在るべき姿ということをしっかりと理解いただき、今後の区政への様々なご協力をいただきたい。

◇小林議長の会見要旨/「解散に法的根拠なし」

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 ─区長は会見で議員は失職していると主張しているが、議員側は司法に判断を委ねるのか。

 議長 地方自治法178条に関する総務省見解がある。区役所の総務課長が7月20日に総務省に確認し、(地方自治法の不信任議決に当たるかは議会で判断することとの)回答を得た。(区職員が)区長に(報告を)上げていたにもかかわらず、区長は(刑事告発を不信任議決だとみなして解散文書を)持ってきた。議会で訴訟を起こすかどうか確認したい。

 ─区長が議会の解散通知を提出した意図をどう見ているか。

 議長 コロナ対策を急ぐ一方で、百条委員会を形骸化させるような行動に出たと認識している。区長の暴挙に対して負けることなく、百条委員会も法に基づき粛々と進めていく。法に基づかない意見を一方的に(議会に)押し付けているだけだ。

 ─区長の刑事告発に反対した会派もあったが、それも含めて(解散に法的拘束力がないのは)全議員の見解なのか。

 議長 25人全員の統一見解だ。

 ─刑事告発はいつするのか。

 議長 一刻も早く(刑事告発する)。(現在は)準備している。

 ─区長は解散に法的拘束力が「ある」、議会は「ない」と主張している。これをどう捉えればいいのか。

 議長 (区長の解散通知は)法的根拠がない。無効の通知を受けて、議会が動くことはできない。解散は選挙に向かっていくことになるので、選挙管理委員会に問うていく。選管は、不信任に当たるのか議長や各会派の責任者に照会が来る予定。選管は独任機関なので、委員4人が合議して結論を出す。

 ─選管は選挙を設定しないのか。

 議長 解散にあたらないと判断する(と思う)ので、選挙はできない。

 ─それを受け、区長がどう言うかが次のポイントになる。

 議長 (法律の解釈の)間違いに気づくかどうかだ。これが(解散無効の)一つの証拠となる。