【連載】スカイツリーのふもとで~墨田区のにぎわい創出計画【無料公開】

 今年の春、東京スカイツリーと浅草の間を歩いて楽しめる新たなスポットが誕生した。これに合わせて墨田区は隅田公園の南側をリニューアルし、にぎわい空間の創出を目指している。一方、コロナの影響で区内を訪れる観光客は激減しており、区の歴史や文化を守る取り組みも必要となっている。区の取り組みを2回のシリーズで追う。

(上)新たな憩いの場/みんなの居場所を作る《2020年7月17日号》

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 隅田公園の一角に、テント2張やアウトドア用の椅子、机が置かれている。墨田区が6月中旬から利用を開始したオープンエアの「そよ風会議室」だ。週に数日、区の公共施設マネジメント担当の職員たちが公園の活用方針などを話し合うのに使用しており、通りかかった人から「何をしているの?」と話しかけられるという。区職員だと分かると、「公園でイベントをしてみたい」「あそこにごみがたくさん落ちていたよ」といった声が寄せられる。区の担当者は「区民に使ってもらえる公園にするために、公園で遊んでいる様子を見たり、区民から意見を聞ける場になっている」と話す。

 同区は3月、隅田公園の南側をリニューアルオープンした。イベントが開催できる舗装広場(約1100平方メートル)や区内最大の芝生広場(約3千平方メートル)が特徴で、これまでは木が生い茂っていて暗かったが、明るく開けた公園に生まれ変わった。

 区や東武鉄道などが浅草から東京スカイツリーまでの観光回遊路を整備する事業を行っており、その一環で区は同公園をリニューアルした。先月18日には隅田川の上に架かる鉄道橋の脇に約160メートルの歩道橋が開通するとともに、とうきょうスカイツリー駅までの高架下には飲食店などからなる商業施設「東京ミズマチ」が順次オープンしている。

 今回の整備のコンセプトは、「新しい『居場所』をみんなでつくる」だ。近所の子育て中の保護者が公園でくつろいだり、近隣企業に勤務する会社員が水辺のテラスで仕事をすることなどを想定している。

 コンセプトの背景には、スカイツリーの完成などに伴う人の流れの変化がある。スカイツリー周辺は元々、大きな観光スポットがなく、ものづくりが盛んな産業の街だったが、2012年にスカイツリーが誕生して観光客が多く訪れるようになった。区公共施設マネジメント担当の戸梶大課長は「区民は観光客と共存しないといけなくなった」と話す。また東京五輪の開催が決定したことで、比較的賃料が安い周辺地域にはゲストハウスなどの宿泊施設も相次いで開業したが、地元の飲食店などで消費する観光客は少なく、「ただ泊まって寝る場所になっている」という。さらに、区民からは、外国人のマナーなどで区に苦情が寄せられることもあった。

 今はコロナの影響で観光客は減っているが、戸梶課長は「まずは区民の日常生活の場ができることで、観光客にとっても地域の日常を味わえる魅力ある場所になるはず」と語る。一帯のにぎわいを区の南北に位置する両国地域や向島地域などにも波及させ、区内全体の活性化にもつなげたい考えだ。

 隅田公園は区内のにぎわいを創出する一つの鍵となる。コロナの影響で大規模なイベントは開催しづらい状況だが、担当者は「公園で区民の日常を作るという区が目指している形に近づけていきたい」と話している。

(下)回遊型観光都市へ/歴史や文化を継承する《2020年7月21日号》

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 「江戸時代から続く歴史、伝統文化を継承している重要な観光資源である向島花街と連携することで、区の大切な魅力を守り、地域のにぎわいを取り戻したい」。コロナ禍で「夜の街」の感染が懸念される中、スカイツリーの足下にある花街・向島の芸者のPCR検査を行った墨田区の山本亨区長はこう語った。

 向島は、赤坂や神楽坂とともに「東京六花街」として栄え、昭和初期には料亭などが約600店舗あったとされるが、現在は11店舗にまで激減した。新型コロナの拡大により、スカイツリーなどの区内の観光地は軒並み人出が減ったが、向島も例外ではなく、緊急事態宣言解除で営業を再開した後も客の戻りは鈍いという。

 ただ、向島に関しては、コロナ禍だけでなく、以前からアクセスのしにくさが課題となっていた。今回、北十間川周辺に東京スカイツリーと浅草を結ぶ回遊路ができたことで、向島まで足を運ぶ観光客が増えるのではないかと地元の期待も寄せられている。

 向島に限らず、墨田区の観光を語る上で課題となっているのが回遊性だ。

 2012年にスカイツリーが開業した際は、訪れた観光客が周辺の向島や区の南側に位置する両国などに足を運ぶことが期待されたが、観光客は電車で浅草などに移動するケースが多く、区内の他の観光地への波及効果は限定的となっている。

 そこにコロナ禍が襲ってきた。区観光協会は観光客誘致の一環として、区内各所に点在する地場産業のものづくり企業・工房に着目し、毎年4千人ほどの修学旅行生を受け入れて箸やちょうちん、扇子などを作るワークショップの体験などを行っていたが、今年はほとんどの修学旅行が中止となった。

 こうした中、コロナ禍を乗り越えて区内の観光を盛り上げようと、新たな試みも見られる。同協会が取り組む両国発のまちあるきガイドツアーもその一つだ。

 観光客に回復の見通しが立たない中、区民を対象に区の魅力を知ってもらう取り組みで、葛飾北斎ゆかりの地を巡るコースや寺などを巡るコースがある。コロナ禍で一般の参加者が激減する中、6月から区民の参加料を無料にしたところ、多い時には1回のツアーに5~6人の区民が参加することもあった。

 同協会の森山育子理事長は「区は人口も増えているので、まずは新しい区民にも墨田区のことを知ってもらいたい」と話す。

 区内観光を推進するため、様々な取り組みを進める墨田区だが、一方でコロナの影響で観光施策は打ち出しにくいのが実情だ。区観光課の楠幸輔課長は「地域に根差して観光資源となっている店がコロナで消えてしまわないように、10年、20年後を見据えながら行政として何ができるかを考えていきたい」と話す。