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土佐山アカデミーの定点観測 vol.05 〜役割を、面白がろう。

〜東京在住のサポートメンバー髙木健太さんに、都会から見る土佐山や土佐山アカデミーについて書いてもらっています〜

「入社したばかりで右も左も分からない!」巨大な迷路の中を、新入社員がさまよっている。

他にも、「判断に迷ったら先輩はどうするんだろう」とか「社内のカルチャーが分からない」という声が聞こえ、頭を抱えたり壁にぶつかったりしている。先輩と思しき社員は「リモートワークで雑談もできない」とこぼす。巨大迷路の上から経営陣が「どうにかしなきゃ」と心配している。

社のカルチャーを共有するための社内報サービスのCMだが、その会社の調査によれば「リモートワークで社員同士に壁を感じる」という問いに、61%がYESと答えたそうだ。新入社員なら尚のこと、多くの人がきっと共感をしていることだろう。

まっとうな新入社員経験もなく、現在は基本在宅の個人事業主の自分の印象にも残ったのは最近、新入社員の方のお悩みを聞く機会があったからかもしれない。マスコミ業界の専門職で、Sさんとしておこう。Sさんの悩みの内容はまさにこのCMの通りで「上司、先輩との距離感がつかめません」とのことだった。年長者たちはそれぞれ、自分の経験と優しさをもとに「若さで礼儀を持って、遠慮なく飛び込んでいけばいい」というようなアドバイスをしていたが、正直オンラインベースでは、その間合いをはかること自体が難しいと思われる。

20年近く前を思い出す。一人親方のデザイン事務所のカバン持ちのようなことをしていた自分は、ボスの一挙手一投足から、今何が必要とされているか?その感覚を持つまでに相当長い時間を要した。しょっちゅう距離を誤っては事故を起こしていた。もし、当時の自分にアドバイスをするなら、しかもこんな状況下で、と考えながらこんなことを伝えた。

「上司や先輩側も、怖いと思うんです。「キラキラした若者」と、どういう距離で付き合えばいいのか。キャッチボールでいえば、どこにどう投げていいのか、向こうも分からない。だから、Sさんが、一つルールを決めたらいいと思うんです。例えば『経験もないので、他は取れないかもしれません!が、絶対ここなら取れます!みなさん、直球でガンガン投げてきてください!』ってところにミットを構えてみる。って、例え、分かりますかね…」

つまり、今の20代にまつわる質問なら、なんでも僕にしてください。経験や友人ほか使って、なんでも答えます。「与える」側としてそういう「役割」を持ってみては、と偉そうに伝えたのだ。二十歳そこそこの自分は、ベクトルは全て自分に向いていた。なんでも与えられることを待っていた。だから言いたかった。「どんな些細なことでもいいから、役割を示そうよ」と。それがあれば、PC越しだとしても先輩方と手を握れるよ、大丈夫だよ、と。

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土佐山アカデミーの新たな指針作りに年明けから携わって約半年。ついに来月迎える10周年、ホームページのリニューアルという形でお披露目されることになった。
さまざまな議論や検証を経て、結果、旗になる言葉は「ねぇ、次、何して学ぶ?」で行こうとなった。

10年をアカデミーの二人と振り返った時、キーワードになったのが、その「役割」という言葉だった。
関係人口を増やす。そのための、学びの場になる。今では一般的になった、悪く言えば都合良く使われるようになった「関係人口」という言葉。その定義について、吉冨さんはこう話してくれた。

「大切なのは『関わり』じゃなくて『役割』だと思う。2013年、地域に関わるぞ!っと肩肘張って土佐山に来て空回りしていた僕が本当の意味で地域の役に立てたのは、パソコンを教えるってことだった。でも、その役割が信用に繋がって、地域の方と話せるようになってきた。

さわっている、と、支えているの違いというか、やはり交流だけだと『さわっている』になる。でも、どんなに小さくても役割があれば『支えている』になる。これから地域に関わってくれる人には、『役割が持てるからこそ地域は楽しいよ』って言いたいし、これからも全国に役割を持つ人を増やしたい。これまでの10年は、土佐山の方々が守って残してきた資源を使って仕事をさせていただいてきた。だから、これからの10年は土佐山の資源を増やす、価値を上げる仕事をしていきたい」

支える、は指先だけではできない。手のひらで、腕、肩で、時には膝まで使わないといけない。だからこそ、信用につながるし、信用があればこそ「楽しい」と思える経験に踏み込んでいくことができる。人間はもちろん、地域においても同じことだと思う。

では、この10年。どうしてここまで土佐山は人々に「役割を持ちたい」と思わせ続けられてきたのだろうか。
それはきっと、「さわるだけじゃもったいない」と思わせる価値と魅力に溢れていたからではないか。

課題を資源と捉え、遊ぶように学んできたように映る土佐山の方々の背中は、土佐山アカデミーの指針作りの話し合いの最中もしょっちゅう出てきていた。いろんな方のお名前、伝説に近いエピソードなど、たくさん伺うことができた。また、ご縁があったどの方も、明るく、土地に敬意を持って、学びを日常の中で体現されていた。そんなみなさんの姿勢、環境こそが他の地域ではあまり見ない最大の可能性であり「(さわってるだけじゃなく)支えたい。もっと関わりたい。願わくば知恵や経験を、血肉として自分の中に取り入れたい」と思わせるのではないだろうか。

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6月13日現在。緊急事態宣言の期限まで1週間、ワクチンの大規模接種が各地で始まるも、時短協力金の支給率は全国で格差…などのニュースが並ぶ中で、口角をあげてくれるニュースが一つあった。(以下、朝日新聞DIGITALより一部抜粋)

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要請ばかりの世相に皮肉 「妖精タクシー」運行中

ピンク髪のかつらに仮装用めがね。そんな「きもかわいい」運転手がハンドルを握る「妖精タクシー」が緊急事態宣言下の大阪の街を走っている。
車内に特別な装飾は施しておらず、一見ふつうのタクシー。ただ、乗車すると運転手から同社の宣伝文句をSNSに投稿するように「要請」される。強制でないため従わなくても良いが、応じると「協力品」がもらえる。
なぜ「妖精」なのか。アイデアを出した同社顧問は「ここだけの話、我慢と『要請』ばかりの世相への皮肉を明るく表現してみました」。

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大袈裟かもしれないけれど、どんな状況でも課題をポジティブに変換し、面白がりながら、アイデアを考えるという点において、土佐山アカデミーの考えにも通づるところがある。

こんな、面白がるという術を、土佐山の万物から学ぶためのアカデミーへと変化しようとしている。対象は、地域と関わりを持ちたいという人から、これからの世の中を面白がりたいすべての人、へと広がった。
10年経って、ようやく立てたというスタートラインに7月。土佐山への感謝と敬意と決意が込められた「ねぇ、次、何して学ぶ?」という旗がお披露目される。これからの土佐山に、どんな役割を果たせるか。これからの世の中を、どう面白がっていくのか。二人と、みなさんと一緒に、楽しみながら「支えていきたい」と思っています。

以上

ごきげんでおなじみ 高木健太
土佐山アカデミー東京代表
プランナー/コピーライター/コーチ

日本大学芸術学部卒業後、設計デザイン事務所、飲食業などを経て広告代理店のクリエイティブ・プランナーに。2019年企画屋として独立。身近な人、モノ、コトからごきげんにできるように企画・コミュニケーションの力を使いたいと考えています。「なごやかに、すこやかに」が信条。趣味と生きがいは余興。4歳児の父。

●ごきげんでおなじみ https://gokigen-inc.jp/

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