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土佐山アカデミーの定点観測 vol.03〜 土佐の国から `21有限

〜東京在住のサポートメンバー髙木健太さんに、都会から見る土佐山や土佐山アカデミーについて書いてもらっています〜

午前4時半。それが僕の月曜から木曜の起床時間だ。

勝負は最初の30分。「よく寝た!」と口に出してから冷たい目薬をさし、布団の中で1日のやることを書き出し、目を覚ますために本を読む。ポットで白湯のための湯を沸かし、足ツボを踏むと大体ジャスト、5時になる。

新しい日常の中での新生活が始まって2週間。緊急事態宣言からの1年の試行錯誤を経て、この儀式はほぼ定着してきた。
1年前、子供を登園させられない、という現実をプラスに解釈するために始めた3時起き(その時はそうするしかなかった)の習慣。今では「しまった寝坊だ」という朝があっても5時半で、今日はよく眠ったぞ、という休日も6時半には起きている。

定着には理由がある。朝の5時からのラジオ番組DJを、友人が務めることになったからだ。彼女は日中の仕事があるにも関わらず、3時に起きる生活をこの春から始めた。応援、と言ったらおこがましいけれど、「リスナー」という名も知らぬ同志たちと、朝一番に同じ時間を共有している感覚がなんとも心地よい。自分一人では、とても続かない。
妻と子供が起きるまで、このラジオを中心にした朝の2時間半ほどが、自身を生活に向かわせるための装置になっている。

緊急事態宣言から1年が経って。人出の象徴である品川駅・港南口の風景も、もう日常となってしまった。テレワークも、わたしの周りでは進んでいる印象を受けるけれど世の統計とはずいぶん差があるように感じる。テレワーク推進による「オンとオフの境目の消滅」はさまざまなところに影響を及ぼしているように思う。夫婦ともに在宅勤務をしていた友人は、休むべき部屋である寝室での仕事で病んだ。またある友人は、夕方からだった飲酒開始がどんどん前倒されており、缶で買っていたチューハイは、プッシュポンプ付きの業務用ボトルになり、それでも仕事が成り立つことに最初は罪悪感を、最近では虚無感を抱えている。

退勤、という儀式が無くなったことが大きいのだろう。
タイムカードを押すところは最近あまり聞かないが、オフィスを出るときにカードでピッとゲートを抜けるあの瞬間。仕事をやり切って、ネクタイを緩めて乾杯して飲む1杯目。スーツを脱いだ解放感でシャワーを浴び、布団に入るあの感覚。パソコンを閉じても、意図的にオフにしない限り、通知音は家のどこかでなっている。地続きのオン。

フリーランスの自分は、ただでさえそういう儀式がない。なので、地続きのオンに更なる危機感を覚え(状況がそうせざるをえなかったのも結果ありがたかった)朝型に切り替えた。結果、7時起きの人より3時間早く起きているので、一般的な終業時間である18時の3時間前、もう15時には終えたいと思っているし、ご飯はいわば強制終了。地続きのオンから抜け出すことができた。自分が布団に入る時には、さすがに布団は敷かないが、所定の位置にパソコンとスマートフォンを置いてから寝るようにしている。


4月から、土佐山アカデミーでは勤務時間を「日の出~日没」に変更する試みをしている。

世界を味方につけた切り替え装置。人間本来のリズム。健全の最高峰。本人たちに合っているか、うまく行っているかはさておき、試してみるところが土佐山アカデミーらしい。エイプリルフールの投稿でネタかと思ったけれど、どうやらこれは本当らしい。
(ちなみに他は、
 1.新社屋が2箇所同時に増えました
 2.社員2名採用しました
 3.勤務時間を「日の出〜日没」に変更します
 4.モーニング焚き火Meetup始めます
 5.組織名を土佐山バカデミーに変更します

 ※1つだけエイプリルフールネタ詳細は、順次、とのこと)

都市で今一番求められ、また、求めても、都市では手に入らない環境が土佐山にはある。

の勤務時間を定着させた暁には、「自給自足ワーケーション」なるプログラムを計画している。いや、企んでいるらしい。

「自分で働いていた分だけ 電力を使うことができるってどうかな?」日の出から日没までという限られた時間の中で、使う電力の量も、食べる食事の量も、暖をとるエネルギーの量も可視化される。昔であれば当たり前であったこと。
集中力、の意味が変わってきそうだ。仕事をするための環境から作り出すという行為は、やるべき仕事があることの尊さとありがたさを、まさに身をもって教えてくれることになるだろう。


先日、「日本の父」の一人と言っても過言ではないだろう俳優、田中邦衛さんが天の国へと旅立った。国民的名ドラマ、北の国からの役どころである五郎さんの「ほたる…」という代表的なモノマネは見ていない人でも知っているはずだ。たくさんの名台詞の中の一つ(だと僕が思っている)、都会から小さい子供2人連れて、リノベなんて言葉がない時代、山小屋を住めるように直すシーンで電気がないことを嘆く息子への一言。

「夜になったら寝るんです」

久しぶりに見たがこれは今、外出が制限され、地続きのオンを生きる明るい都市の夜に響いたのではないだろうか。自然にリズムを委ねて生きること。生活を戻すことはできなくとも、一度知っておくことで、判断はできるようになる。深酒の酔いと早朝の白湯。両方の魅力を知っているからこそ、どちらが向いているか、どちらを向きたいかの判断ができる。
グランピングやソロキャンプ、整った環境でのワーケーションもいいけれど、日の出から日没までの自給自足ワーケーションは失われた価値観を取り戻す経験になるはずだ。

劇中の有名なセリフでもうひとつ、大好きなものがある。当時流行していた長渕剛の曲のサビを、ついには自分で家まで作るようになってしまった五郎さんが歌うシーンだ。

「やるなら今しかねえ…やるなら今しかねえ!」

家の基礎の上で拳を振り上げ歌う姿を今、土佐山アカデミーの二人の姿に重ねている。

1日も、一生も有限だ。終わりを意識するからこそ濃密度は上がる。
日の出から日没の限られた時間、与えられた限られた資源を生かしきって、毎日安らかな死を迎えたい。なのでまず二人には、夜の返信からやめてほしい。やめるなら今しかねえ。


ごきげんでおなじみ 高木健太
土佐山アカデミー東京代表
プランナー/コピーライター/コーチ

日本大学芸術学部卒業後、設計デザイン事務所、飲食業などを経て広告代理店のクリエイティブ・プランナーに。2019年企画屋として独立。身近な人、モノ、コトからごきげんにできるように企画・コミュニケーションの力を使いたいと考えています。「なごやかに、すこやかに」が信条。趣味と生きがいは余興。4歳児の父。

●ごきげんでおなじみ https://gokigen-inc.jp/

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