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”すごい営業時間のセイコーマート”と周辺環境

北海道を中心に展開するコンビニエンスストア、セイコーマート。このコンビニは他チェーンに比べて比較的24時間営業に消極的なことで知られていますが、中にはコンビニの常識を覆すような「すごい」営業時間の店舗もいくつか存在します。今回はそうした「すごい」営業時間のセイコーマートを4つ取り上げ、その周辺環境を見ていきます。
なお、本州の店舗はこれらの店舗に比べ良くも悪くもおとなしい立地が多く、ここまで極端な営業時間の店舗はありません(それでも『日曜は9時開店』とか『21時30分閉店』とかはありますし、24時間営業の店舗が全滅したりもしていますが)

1.苫東店(苫小牧市)平日7時~18時

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苫東店は苫小牧市東部の苫東地区、柏原工業団地内に位置します。この店舗の営業時間は驚きの『平日7時~18時』、なぜこのような営業時間になったのかを探るため、まずは地図で周辺環境を見てみましょう。

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地図上の「+」の点が店舗の位置になりますが、見ての通り、幹線道路から外れた脇道沿いで、基本的に「通りかかる」ことが無い場所、すなわち周辺に用事がある人以外の需要が見込めない店舗であることがわかります。また、航空写真も見てみましょう。

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見ての通り、苫東店が位置する柏原工業団地は、広大な勇払原野を切り開いて作られた工業団地であり、周辺には工場以外なにもない、人が一切住んでいない無人地帯であることがわかるかと思われます。

と言うことは、工場の稼働時間が終わり、勤め人が家に帰ると本当に文字通り誰も来なくなる……と言うことになります。そんな状態で店を開けたってしょうがないですよね。そういうわけで平日は始業前の朝7時にしっかり店を開けておく一方、夕方は18時にさっさと店じまいをする……と言う営業時間になっています。

なお、全くの余談ですが、苫東店は工業団地のど真ん中と言う立地ながら、全国のセイコーマートの中でも特に雰囲気の良い店舗として知られています。

この画像を見ればわかる通りやたらとおしゃれな一方で、当時の営業時間が『平日7時~20時』であったことがわかります。当初に比べて営業時間が短くなったのは、恐らくセイコーマート側が目論んでいたより「仕事終わりに寄る」需要が少なかったからでは無いか……と勝手に予想しています。まあ、別に苫東店に行かなくても苫小牧市内の人が住んでいるような地域まで行けばいくらでも出店していますしね。

2.ウトロ西店(斜里町)9時~19時

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道東は斜里町、ウトロに位置する店舗です。営業時間は9時~19時と先ほどの苫東店に比べると1時間閉店が遅い一方で開店は2時間遅く、営業している時間はわずか10時間と知る限り独立店舗では最短となっています。今回もこんな出勤前にご飯を買うこともできないような妙ちくりんな営業時間になった背景を探るために、まずはウトロ西店周辺の広域地図を見てみましょう。

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恐らくご存知の方も多いでしょうが、ご覧の通りウトロ西店の所在するウトロ地区は、北海道が誇る自然遺産、知床半島に位置します。人口はわずか1096人。もちろんウトロに住む人も利用するでしょうが、それ以上に知床の雄大な自然と戯れるために全国各地から押しかけてきた観光客が多く利用する店舗である……と言えます。

とは言え、他の人口が1000人かそこらの村にあるような(そしてさして観光客が来ないような)店舗でももう少し長く営業していますし、ウトロには温泉が湧いており宿も多いですから、朝早くに宿を出たり夜遅くに宿に到着する観光客も一定数いるでしょう。また、ウトロから近い街(厳密に言えばその手前にも峰浜・朱円・以久科などの集落がありますが、人口が少なくコンビニもありません)である斜里・羅臼からはいずれも30km以上離れており、ウトロに滞在する観光客がわざわざそこまで買い物のためだけに出かけるとは思えません。恐らくウトロでお買い物をすることでしょう。この疑問を解決するためにウトロ地区の詳細な地図を見てみましょう。

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なんてことはありません。ウトロにはもう1軒セイコーマートが建っている……と言うわけです。もう一方の店舗であるセイコーマートウトロ店の営業時間は朝6時~夜0時、朝早くに宿を出る人や夜遅くに宿に到着する人にもバッチリ対応できる営業時間です。こちらの店舗にはホットシェフも付いており、品揃えもバッチリです。たぶん。

ウトロ地区の営業は設備の整ったウトロ店をメインとし、ウトロ西店がそれを補完する……と言う分業体制を敷いているため、補完的な役割を果たすウトロ西店は客数の多い時間帯に絞った営業時間でも問題ない……と言うことかと思われます。両者の距離はたった300mなので、移動もさして苦ではありませんしね。

なお、ストリートビューを見ると少なくとも2015年頃まではウトロ西店も6時~24時まで営業していたようですが、さすがにこの山奥で長時間営業の店舗を2店舗構えるのも厳しかったのか、その後遅くとも2018年頃までには現在の営業時間になっていたようです。

また、ネット上に転がっている画像を見る限り、知床への来訪客数が少ない(参考までに2017年のデータだと、ピークの8月とオフシーズンの1月では観光客数に10倍以上の差があるとか)冬の時期には”冬季休業”も行っているそうです。これを見ても客数の多い時期と少ない時期がはっきりしているウトロ地区の特性を鑑みた分業体制が敷かれていることがわかるかと思われます。

ちなみに、この辺は完全に邪推なのですが、斜里方面から来るとセイコーマートウトロ西店は実に36kmぶりのコンビニとなります。まあコンビニが成立するような規模の集落が斜里とウトロを結ぶ国道334号線(知床国道。阪神国道ではない)沿いに全く無いので仕方がないことではありますが、ともかく多くの場合初めて走る道路を36kmも走ってようやくコンビニが見えてきたら、飲み物を買うなり小腹を満たすなり、はたまたトイレを借りるなりの理由で、きっと入りたくなる人も多いと思うんです。たった数百m先のウトロ店はたしかに設備の整った立派な店舗ですが、地図をよく見るとそうした「やっと見えてきたコンビニに入りたい」人の需要を独り占めできない立地であることがわかります。先述の通り完全に邪推なので、これ以上詳しくは書きませんし、実際の開店時期なども不明なのですが、とは言えあまりにも都合良くライバルを挟み撃ちにできる立地であることは確かです。何度も繰り返すとおり邪推以外の何者でもありませんが、もしこの推測が正しければ、なかなかにしたたかだと思います。

3.たかせ店(札幌市中央区)11時~3時30分

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お次は見ての通り札幌市中央区、都心部のど真ん中に位置する店舗です。しかしながら3時30分閉店はともかくとして、開店時間は驚きの11時。先のような周辺の人口が少なかったり下手したらいなかったりする田舎町とはわけが違います。普通に考えて、朝10時になってコンビニが開いていなかったら著しく不便な気がしますが、これも周辺の地図を見てみましょう。

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なんてことはありません。北海道を代表する歓楽街、すすきのに位置します。言わずとしれた「夜の街」であるすすきのですから、敢えて早朝に周辺を歩く人もそこまで多くありません。また、見ての通り周辺には他にも数多くの店舗(最寄りはたかせ店から徒歩3分の南5条店、24時間営業でホットシェフもあるガチガチの大都会仕様です)があり、朝に出歩く需要はきっちりそっちの店で確保できる……と言う算段でしょう。数年前までは日曜は16時開店と言うさらに衝撃的な営業時間でした。

なお、私も行ったことはありませんが、品揃えも明らかに「夜の街」向けで面白い店らしく、ある程度情勢が落ち着いたら一度足を運びたいものです……。

4.手稲渓仁会1階店(札幌市手稲区)平日9時~15時

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画像が小さくてごめんなさい。さて、最後に登場するのは手稲区に位置するこの店舗。営業時間は驚異の平日9時~15時、銀行かよ。とは言え店名からわかる通りこの店舗は手稲区の総合病院である手稲渓仁会病院の中にある店舗。そう考えると営業時間がへんてこなのもそう不思議ではありません。また、セイコーマートは同病院の3階にも店舗(セイコーマート手稲渓仁会3階店)を構えており、そちらの営業時間は7時~20時(土日祝は8時開店)と割とまともな営業時間です。

これも推測ですが、1階の店舗は外来患者が多い時間帯に人通りの多い1階で営業し、3階の店舗は入院患者や面会客あるいは医師や看護師などのスタッフ向けに病院内(7階建てです)の各地からアクセスが良い3階で長時間営業する……と言う分業体制を敷いていると考えられます。

なお、またしても蛇足ですが、同店舗は補完的な役割……と言う立場のせいかセイコーマート公式の店舗検索にも引っかからない『幻の店舗』でもあります。このような店舗は確認できる限り他に流通センターショールーム店・西円山敬樹園店が存在し、特に後者は「どうやら西円山の老人ホームの中にあるらしい」以外の情報がほとんど無いため、「北海道のセイコーマートぜんぶ行く」といった企画を行う際には難関となりそうです。まあ、ここを何とかやっつけてもオフィス内にある従業員用の店舗(確認できるだけでも、道央札幌郵便局店・ヨドバシカメラマルチメディア札幌店・三井住友海上札幌MTビル店・損保ジャパン札幌ビル店の4店舗があります)が立ちはだかるわけですが……。

5.まとめ

さて、こうした「すごい」営業時間のセイコーマートを眺めると、もちろん「コンビニの営業時間を気にしないといけないなんて田舎は大変だな~」と言う感想が出てくる方もいらっしゃるとは思いますが、裏を返せば「24時間営業では成り立たないような地域でも積極的に出店することができる」とも言えます。
最近は同業他社でも(主に働き方改革の側面で)深夜営業を取りやめる店舗が出てきていますが、そういう意味でセイコーマートははるか昔から24時間営業にこだわらない方針を打ち出しており、そういう意味では一本先んじていたと言えるかと思います。
まあ、同業他社に比べて24時間営業への対応が遅れていたのが一周回って「先進的」と評されるようになった……と言えなくもないですが。

また、それだけでは無く、(手稲渓仁会は特殊ですが)各店舗の欄で強調した通り、セイコーマートは複数店舗による「分業」をやたらと積極的に進めていると言う特徴も挙げられます。すなわち、店舗ごとに役割分担をし、チェーン全体できっちりとその地区の需要を確保しようと言う戦略をやたらと積極的に進めていると言うことです。なぜこのような戦略を取るのでしょうか。

これは、セイコーマートが同業他社に比べて”直営化”を積極的に推し進めているから……と言う事情が挙げられます。同業他社の多くは、(少なくとも建前上は)本社と経営的に独立した各店舗のオーナーがチェーンの本社と個別に契約して、看板を貸してもらい、商品を仕入れ、必要に応じて本社側が売上アップのための指導を行うフランチャイズと呼ばれる方式で店舗網を拡大していきました。セイコーマートも元々はフランチャイズを中心に展開していましたが、色々あって方針転換、現在は自社で直接運営する直営店を中心に展開しています。

フランチャイズ方式は特に市場の拡大期においては(極論看板だけ用意すれば店舗網を拡大できるため)、短期間に、そして低予算で店舗網を拡大する事ができる一方で、各店舗の経営が独立している以上各店舗ごとにきっちり利益を出さないとならないため「チェーン全体の利益」と「店舗の利益」が相反する場合に身動きが取りにくくなる欠点があります。まあ、その辺を気にせずチェーン全体の利益のために同じ看板の”ライバル店舗”を既存店のそばに建てて売上(や昨今だとスタッフ)をかっさらっていくえげつないケースもあるそうですが。

一方でセイコーマートは直営店がメインのため、「チェーン全体の利益」を最適化することができます。そのため地域の店舗網全体を利用した柔軟な戦略を取ることができますし、あるいはフランチャイズ方式だとオーナーが「その店舗だけ」で初期投資を回収し売上を確保したいと考えるが故にどうしても決断が難しい割り切った短時間営業を行って、チェーンとして最大限の、そして無理のない利益を得ることができます。

セイコーマートの営業時間が「すごい」のは「田舎だから」と言う単純な理由ではなく、こうした経営戦略と言う側面もある……と言えるでしょう。

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