ウィルクだから、そうなったんだよ!!!!

久しぶりにPCに向かったので延び延びになっていた侯爵嫡男好色物語のレビューを書こうと思う。

この物語は定番の異世界転生小説ではあるが、この作品はよくある現代倫理無双を”やらない”ことに特色がある。
むしろ、現代倫理を持ち出すことで異分子として排除されることへの恐れから異世界の言語習慣を貪欲に学習しており、彼のポジションである「侯爵嫡男」を守ることのみに興味を持つ男なのである。

……なのに、どうしてこうなった!

そう、それなのに「どうしてこうなった!」と自らのみならず周りからも言われてしまう男、それが主人公「クオルデンツェ・ウィルク」なのである。

彼は異世界(エルオ大陸と呼ばれているのでエルオ世界と便宜上呼ぶ)での必須能力である「魔力」の必要性を幼少より理解し、これを鍛錬することで人並外れた魔力量を得る。
これを利用して、現代知識を活用し新たな産業を興すことで経済的にもアピールする。
とまあ、ここまで聞くと俺Tueeeee!!のテンプレートを何一つ外していないのであるが、現代倫理無双のみならず現代知識無双とは行かないのが面白さの一つなのである。

エルオ世界は平たく言うと「高度なレトリックを用いるヤクザ社会」。
広域暴力団クオルデンツェ組は、親分であるレヴィオス王国の一員ではあるのだが、この国はいわゆる「力こそ正義」で纏まっている寄合所帯であり、彼らとの付き合いは非常に緊張感を強いられるのだが、そのやりとりが終始腹の探り合い。
しかも、エルオ世界で貴族(主祖)と呼ばれる彼らは人間兵器とも言える力を持っており、不意を打たれれば魔力モンスター(魔獣)であるウィルクですら無事では済まない。
この為、彼らはヤクザ社会にもかかわらず非常に洗練されたレトリックを用いてやりとりを行っているのである。

エルオ世界は基本的に、この暴力団が大小の国を形成しているのだが、こういう状況となる前の世界は長らく「ゼス教聖高会」という宗教組織による統一国家が存在した。
しかし、ゼスという権威を失った後、お決まりの内紛によって権威を失墜。
その内紛に駆り出された者達の反乱により、世界は分裂状態に陥る。
つまり、ヤクザである貴族達も元は清廉(過去形)な宗教団体の下部組織の構成員であり、貴族を貴族たらしめている文化因習はゼス教支配時代の権威を引き摺っているのである。
ちなみにその後もゼス教聖高会の運営国家である「聖ナヴェンポス」は存続したのだが、大きく版図を減らした上に、反ゼス教を旗印に掲げ王国を樹立したレヴィオス王国に執拗に狙われ続け、青息吐息の状況下にある。

ここまでの説明でエルオ世界では力こそが正義と言ったのだが、その力には義務が伴う。
それは、この世界で最大の脅威である「魔獣」という存在を狩ること。
先にウィルクを魔獣に喩えたが、魔獣の力は並の貴族を超え場合によっては国ごと滅ぼしてしまうほどの脅威となっている。
そのため、貴族の義務、矜恃として魔獣の討伐が絶対の責務となっている。
もし逃げ出したりすれば貴族としての立場を失うだけでなく、全てを失うほどの失態である。
これにもしっかりと理由付けがあるのだが、本編を読んでいただきたいと思う。

主人公を一言で言えば「小市民的な動機による下心全開の下半身野郎」。
なのだが、エルオ世界での貴族の役割として、それは正しい(合理的)なのが面白い。
つまり、男に都合のいいファンタジー世界なのだが、それが実に巧みに説明(言い訳)されており、ウィルクへの忌避感を低減させる効果を持っている(が、女性には勧めません)。
この言い訳一つにも、そこそこの文章量で章を裂いており、エルオ世界の奥行をさらに深めている。そう、何一つ適当に書かれていないのだ。何もそこまでと思うぐらい徹底している。

物語の筋は「色を知れ」と言われたらエルフ(これも読者受けを狙ってのことなので、お許し下さい)の奴隷少女を買って非合意姦(お察し下さい)、お付きのメイドにお手付き(お約束)、征服占領した街の酒場で看板娘を非合意姦(略)など、主にヤるかヤるだけですので、少しでも非合意感(姦)に抵抗があるのであれば避けた方が無難でしょう。

であるが、エルオ世界での力の源は貴族(主祖)の持つ魔力であり、これを分け与えられた騎士を筆頭にした従祖、それ以下の存在である平民(隷祖)は、貴族から胤というカタチで力を分け与えられることを欲しており、これを分け与えることは恥じるべき事ではなく、むしろ推奨されているということを理解して読んでいただけると幸いである。

これだけを読むとウィルクが単なる下半身野郎で終わってしまうので(否定はしない)、彼の行動原理に一つ追加したい。
それは「一度欲しいと思ったもの、手に入れたと思ったものは絶対に諦めない」ことである。
そのためなら、安全も安定も保守的な思考も置き去りにして行動することも厭わない。
勿論、彼の美点である臆病さ(美点であることがよく分かる描写がある)から、ありとあらゆる保険を掛けた上で行動するのだが、これらが伏線となって「どうしてこうなった!」に導かれていく。

そう、正に「ウィルクだから、そうなったんだよ!!!!」なのである。
それを楽しみにして本編を読み進めて頂ければ、より一層の幸いである。
拙文がAL先生のモチヴェーションとなれば、これに勝る幸せは無い。
唯一の願いは私の生きている間に物語の完結を見ることである。
閑話休題。


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