『少女レイ』(みきとP)に対する解釈

本能が狂い始める 追い詰められたハツカネズミ
今、絶望の淵に立って 踏切へと飛び出した

そう 君は友達 僕の手を掴めよ
そう 君は独りさ 居場所なんて無いだろ

二人きりこの儘 愛し合えるさ―。

繰り返す
フラッシュバック・蝉の声・二度とは帰らぬ君
永遠に千切れてく お揃いのキーホルダー
夏が消し去った 白い肌の少女に
哀しい程 とり憑かれて仕舞いたい

本性が暴れ始める 九月のスタート 告げるチャイム
次の標的に置かれた花瓶 仕掛けたのは僕だった

そう 君が悪いんだよ 僕だけを見ててよ
そう 君の苦しみ 助けが欲しいだろ

溺れてく其の手に そっと口吻(kiss)をした―。

薄笑いの獣たち その心晴れるまで
爪を突き立てる 不揃いのスカート
夏の静寂を切り裂くような悲鳴が
谺(こだま)する教室の窓には青空

そう 君は友達 僕の手を掴めよ
そう 君が居なくちゃ 居場所なんて無いんだよ

透き通った世界で 愛し合えたら―。

繰り返す
フラッシュバック・蝉の声・二度とは帰らぬ君
永遠に千切れてく お揃いのキーホルダー
夏が消し去った 白い肌の少女に
哀しい程 とり憑かれて仕舞いたい

透明な君は 僕を指差してた―。

 みきとPによる楽曲『少女レイ』の歌詞の解釈を述べたい。
 こんな記事を読む人ならば本楽曲の歌詞を通しで読んだりはすでにしたことかと思うが、一応上に貼り付けておいたのでもう一度読んでいただきたい。この歌詞は、同氏の配布されているオフボーカルデータに添えられていた歌詞データによる。

 当初、大きくストーリーは変わらない二通りの解釈を考えたが、動画を通して使用されている絵を踏まえると、その一方に落ち着いた。ここではその解釈を説明し、もう一方の(却下された)解釈は末尾に付け加えておく。
 以下、断定の表現(「〜だ」など)を用いるが、あくまで説明の都合によるものであって、それ以外の解釈は誤りであるという意図ではないことを念の為申し添えておく。

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 登場人物は2人。主人公で歌詞の主体である「僕」の少女と、「僕」が「君」と呼ぶ少女だ。彼女らは同じ高校の生徒で、以前より友達としての付き合いをしていた。揃いでキーホルダーを使うような仲の良い間柄である。だが「僕」は、「君」に友達以上の感情を募らせていた。独占欲からなる愛情だ。「僕」は「君」を愛していると思っていて、「君」もまた「僕」を愛してくれていると信じていた。それが真実であったかどうかは、わからないが。

本能が狂い始める 追い詰められたハツカネズミ
今、絶望の淵に立って 踏切へと飛び出した

 「僕」はある実験を行った。その実験は成功したのだろう。
 「僕」の高校のある生徒を追い詰めて、自殺に追い込んだのだ。おそらく、いじめを誘発させて(「僕」が直接そのいじめに参加していたかどうかはわからない)、いじめを苦にした末の自殺だった。自殺は、生きたいと思うはずの本能に反する行動だ。

本性が暴れ始める 九月のスタート 告げるチャイム
次の標的に置かれた花瓶 仕掛けたのは僕だった

 ある生徒が死んだのは初夏から夏休みの時期だった。夏休みが終わって、「僕」はいじめの「次の標的」を定めた。他ならぬ「君」である。自殺したその生徒の机に置かれていた花瓶だろうか、それとも別の花瓶だったのかもしれない。いずれにせよ“死”を暗示する花瓶を「君」の机に置くことで、クラスによる次のいじめの対象をクラス全体に示唆したのだ。

薄笑いの獣たち その心晴れるまで
爪を突き立てる 不揃いのスカート
夏の静寂を切り裂くような悲鳴が
谺(こだま)する教室の窓には青空

 クラスの生徒達は「君」へのいじめを始める。いじめるうち、「君」は床に倒れ込んだり、もしくは制服を傷つけるようなことがあったのだろう。いじめる側といじめられる側で、「スカート」は同じ形をしていない。「君」は「悲鳴」を上げる。だが窓の外には絶えず晩夏の蝉の鳴き声で満ちているだけで、空はただ青いだけだった。

そう 君は友達 僕の手を掴めよ
そう 君は独りさ 居場所なんて無いだろ

二人きりこの儘 愛し合えるさ―。

 「僕」は「君」に甘い言葉を掛ける。そしてこの「愛」を、愛だと「僕」が思っている関係を繋げていく方法を考えていた。

そう 君が悪いんだよ 僕だけを見ててよ
そう 君の苦しみ 助けが欲しいだろ

溺れてく其の手に そっと口吻(kiss)をした―。

 「僕」は、「君」が受けるいじめが「苦し」いだろうと思う。だがそれは「君」が「僕」だけを「見て」くれていなかったからなのだという。
 「僕」は、「君」がますます「僕」に依存するように振る舞う。

そう 君は友達 僕の手を掴めよ
そう 君が居なくちゃ 居場所なんて無いんだよ

透き通った世界で 愛し合えたら―。

 「君」がいなければ「僕」は生きていけないのだという。「僕」はすでに「君」に依存していたのだ。
 「僕」は、自分たちの生きる世界が濁った良くない世界だと考えているのかもしれない。もっと別の、より良い世界で愛し合いたいと願ったのだ。

 そして「君」は自殺を決行した。


繰り返す
フラッシュバック・蝉の声・二度とは帰らぬ君
永遠に千切れてく お揃いのキーホルダー

 「僕」は見たのだろう。その後、何度も思い出すのだ。その光景を、「蝉の声」を、そして「君」は「二度とは帰らぬ」ということを。この歌詞全体が、「僕」の過去の振り返りだとすれば、まさに1サビと3サビで繰り返されていると取れる。

夏が消し去った 白い肌の少女に
哀しい程 とり憑かれて仕舞いたい

 「僕」は願望を述べる。“夏に死んでしまった少女の霊に取り憑かれたい。” この「少女」は「君」を指す。この願望を叶えるために「僕」は「君」を追い詰めたのだ。

透明な君は 僕を指差してた―。

 果たして「僕」の試みは成功した。「君」は少女霊となって、ただ「僕」にしか見えず、「僕」にしか干渉できず、「僕」だけを見てくれるようになったのだ。「僕」と「君」だけの「透き通った世界」で、「僕」は「君」を愛し続けるだろう。

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 さて、却下されたもう一つの解釈だが、冒頭で死んだのは「僕」である、というものである。この場合、上で述べた解釈の中で初めに自殺したある生徒とは、「僕」に置き換えられる。そしていくつかの歌詞の解釈が異なるものとなる。

そう 君は友達 僕の手を掴めよ
そう 君は独りさ 居場所なんて無いだろ

二人きりこの儘 愛し合えるさ―。

 「僕の手」は死者の手である。「居場所なんて無いだろ」は、“此岸に居場所なんて無いのだから彼岸に来い”となる。そうすれば「愛し合える」と唆す。

次の標的に置かれた花瓶 仕掛けたのは僕だった

 花瓶は「僕」の席に置かれていたものだったのかもしれない。「僕」はすでに死んでいて、此岸のものには干渉できないのだが、花瓶を「君」の机に置くことだけはできたのだ。

溺れてく其の手に そっと口吻(kiss)をした―。

 このキスは、彼岸からの導きであると取れる。

そう 君は友達 僕の手を掴めよ
そう 君が居なくちゃ 居場所なんて無いんだよ

透き通った世界で 愛し合えたら―。

 「僕」は、「僕」だけの世界に居場所は無く、愛する「君」にこちらに来てほしい、そうして、「僕」と「君」だけとなった世界で愛し合いたい、と考えている。

 では、この解釈を否定するものは何かと言うと、動画の絵で、左側の少女にのみ影がある、ということである。
 この絵では、左側の少女が右側の少女に手を触れており、余裕が感じられることから、左側の少女が「僕」で、右側の少女が「君」であると考えられる。「君」に影が無いということは「君」がすでに霊となっていると解釈して差し支えないだろう。
 つまりこの絵は「僕」が生きていて「君」が死んでいるという状況なので、「僕」が先に死ぬ解釈は成り立たないのである。

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夏が消し去った 白い肌の少女に
哀しい程 とり憑かれて仕舞いたい

 この部分を端的に言い換えれば、「夏に少女を殺して取り憑かれたい」となる。ここが最も恐ろしい箇所だと思った。

 以上、述べてきたが、解釈が中途半端なところもあるので、そこはご容赦。

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