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メモ(棒)

できごと:杖を使う男性を見かけた。

カフェで作業している時のことだった。手元からふと目線を上げると、斜め前の席の男性が退店するタイミングだった。眼鏡をかけたサラリーマン風の痩せた人で、別に凝視するほどの景色ではなかったが、気にかかったのは彼の手に握られていたステッキだった。

手の形に沿ってカーブを描く、握りやすそうな黒い持ち手。その中程から棒材が伸びていた。端にはゴムがついていて、決して滑ることはないだろう安心感を与えている。男性は杖をつき、意外にも確かな足取りで去っていった。

ステッキ、いいよな〜。ただの棒なのに、それがあるだけで歩きやすくなる。

ぼくは今、たまたま健康で、歩くことに支障をきたしていない。だけど、ふとしたことで足を怪我する可能性はぜんぜんある。捻挫するなり、骨折するなり、なんらかの病で動かなくなることだってあるだろう。というか、ちょっと爪を切りすぎたとかで、歩行なんて簡単に難しくなる(「簡単に難しくなる」って妙な言葉だけど)。そんな時に杖という棒が一本あるだけで、また歩き出せる。


人生を生きやすくする用の棒

人生もそうで、今日できたことが明日できなくなることは珍しくもない。ふとしたきっかけで、倒れそうになる。だから、人生を支える棒が必要だ。自分の二本足だけで立ち続けるのは結構疲れる。

単なるレトリックだが、人生には棒が必要なのだ。棒はいろんな用途に使える。杖にもなるし、柱にもなる。振り回せば武器にだってなってしまう。薪にしてもいい。分かれ道で棒を倒して占いにも使えるだろう。

なるべく人生における棒を増やしたい。少なくてもいいけど、荷重を分散させたほうが長持ちするから、多いに越したこともない。頑丈にする必要もないけど、全部がぺしゃんこになるまで壊れるともう一度立ち上がるのがしんどい。ある程度はあったほうが安心なのだ。


ぼく用の棒

ここに、いざというときにこれをやれば大丈夫だって思えるような、そんなものを集めてみた。別に大したことはないけど、自分にはこういうものが支えになっているのだと確認するだけで安心する気がする(防災グッズをチェックするのと似ている)。

・果物を丸かじりにする

りんご、キウイ、桃などを丸かじりにする。ワイルドでテンションが上がるし、ビタミンなどの栄養も摂取できて元気になる。

・油をたっぷり使って目玉焼きを作る

小さめの鍋に「明らかに使いすぎ」ってくらいの量の油を引いて、じっくりと目玉焼きを作る。一番小さい火で、気が遠くなるほど待つとしっとりとした絶品の目玉焼きができあがる。

・水出しのお茶を作る

お茶っ葉をパック(ぼく使ってるやつ、お茶っ葉ポン!って名前でした)に適当な量入れて、ウォーターポットの水に浸して一晩待つ。爽やかでごくごく飲める水出し茶が出来上がる。日本茶でも中国茶でもいい。放置するだけなのに、なぜか「どうだ!」みたいな気持ちになる。

・窓開けて玄関のドアも開ける

風が吹いて気持ちがいい。

・味噌汁を作る

野菜たっぷりの味噌汁を作って食べると、健康になった気がして嬉しい。簡単に作っても味噌汁は美味しく仕上がるし、何を材料にしても大丈夫な懐の深さもある。

・ジャンクフードをめちゃくちゃ食べる

健康とは正反対の、ストレスや疲労が溜まったときの最終手段。スナック菓子やコンビニスイーツ、あとファストフード。これは、食べるというよりも「食べるぞ!」と決意して買い漁ったり、机の上に並べる部分に真髄があると思う。ワクワクする。食べ終わったらどうせ後悔するんだけど、そんなこと最初から考えないのがコツ。でも正直やらないにこしたことはないし、友達と食べるとか買うだけ買って人にあげるとかのほうがいいです。

・銭湯行く

極楽。

・スマホを見ない。音楽を聞かない。何もしない。

細々とした情報を頭に入れすぎないこと。誰が何をしてるとか一旦置いといて、自分が今どうなっているのかを思い出す。一時間とかでいいから、たまにすると何かしらかがほぐれる気がする。

・映画を見る。本と漫画を読む。音楽を聞く。美術館に行く。

人の作ったものに浸る。ぼくがエンタメ全般を好きなのは、そこにコミュニケーションが成立してるからだと思う。強いこだわりや伝えたいことが、作品を通して(それがどういう形であれ)誰かの心に届く。時空を超えて人と人の深いやり取りが発生するのが意味わからんくて、世界はまだ生きる価値があるし、楽しみ放題なのだと思い出す。

・よかったものを記録しておく

いつでも思い出せるように、感動したコンテンツをメモしている。たとえば音楽だったらプレイリストを作ったり、本だったら気に入った一節をメモしたり。いい景色や好きな感じの配色を写真に撮ったりとか。ぼくは忘れっぽいから、見返した時に新鮮に感動できてお得。あと、似たようなこととして、本棚やクローゼットを眺めたり、ベタベタ貼ったステッカーを撫でるとかもいいですよね。あと、このnote自体もそれです。

・自分のフィールドを作る

自分でコントロールできる領域を作る。例えばZINEとかポッドキャストでもいいし、庭とか水槽とかでもいいと思う。自分で決めて育てていくのは楽しい。不可侵の領域を作ると、いざという時にとても安らぐ。

・新しい世界を知る

例えば外国語を勉強するとか、新しい趣味を見つけるとか、めちゃくちゃ痩せてみるとか逆に太ってみるとか、旅行するとか、着たことのないような服を買ってみるとか、人におすすめの作品を尋ねるとか、引っ越すとか、新メニュー試してみるとか、自分の経験したことのない、普段とは違うことをやってみる。今自分のいる世界が全てではないと知る。

・作る

音楽でも絵でも小説や詩でも、なんでもいいから自分で創作することは、人生においてかなり強力な切り札になると思う。自分にしか作れないものがあると考えると、この世界にいる意味は強靭なものになる。

人に見せる見せないだとか、上手い下手とかは後で考えることにして、とりあえず作ってみるといいと思う。インターネットで検索すれば、初心者でも簡単にやり方がわかる。やってみて性に合わなければやめればいい。個人的には、音楽、特にラップは手軽に始められる割に個性が出やすいし、下手でも全然楽しいからいいと思う。


おわり

そんな感じ。棒とか言ってみたけど、誰もが少なからず持ってる手段だと思う。疲れたときとか、悲しいときとか、限界だってときとか、死にたいときに逃げ込めるシェルター。それを棒と呼んでみただけ。

なんとなく棒が喩えとして妥当だと考えたのは、少ないと支えきれない気がするから。拠り所が一つ二つしかないと、それができなくなったとき、摩耗してしまったときに立ち直れなくなるんじゃないかって危惧してる。逃げ込める場所は多いほうがいい、頼れるものは多い方がいい。そんなわけで、棒を集めるなんて言ってみた。

ここに書いたのはぼくにとってもたれかかるための手段であって、人それぞれの棒がある。それが死なない杯だったり、ビルドの説だったり、その他ライフハックって形だったりで共有される時代なのはいいことだと思う。それらをヒントにするという意味でも、それぞれのレーンで走る伴走者の存在をなぞる意味でも。このエントリが誰かの生きづらさを解凍する手助けになると嬉しい。おわり。


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