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SI視点でのDDR1&DDR4比較

SI(Signal Integrity)視点でDDR1とDDR4のIBISモデルを比較します。
DDR1の登場が2000年、DDR4の登場が2014年です。その14年でDDRメモリーがどう進化し、SIが向上したかを読み解きます。

IBISの記述から信号波形を推測した過去の投稿「DDR4をSI解析する前に」を合わせてご覧ください。

この記事で扱うIBISモデルは下記のとおりです。
(マイクロンさんのDDRを参考にさせて貰います。)

512Meg DDR1 SDRAM:
t67a.ibs / DQ_FULL_333(2023年7月時のバージョン)

4Gb DDR4 SDRAM:
z90b.ibs / DQ_34_3200(2023年7月時のバージョン)

DDR1について、DQ_FULL_333の「FULL」とはDrive Strengthの設定を指しています。HALF Strengthを選ぶこともでき、その場合は波形遷移の速度がほぼ半分になります(SIには良、タイミングマージンには悪)。「333」はデータ伝送速度が333Mbpsであることを指します。

DDR4について、DQ_34_3200の「34」とは出力インピーダンスのことを指しています。本部品では34Ωのほかに40Ωと48Ωを選ぶことができます。出力インピーダンスが小さいほどDrive Strengthは強いですが、基板配線のインピーダンスは50Ω(または40Ω)であるため、インピーダンス不整合が生じます。「3200」はデータ伝送速度が3200Mbpsであることを指します。

DDR4の方がDrive Strengthを3段階と細かく設定でき、かつデータ伝送速度は9.7倍に向上しています。なお、DDR1のデータ信号は2.5V振幅、DDR4では1.2V振幅です。

立ち上がり時間の比較

dv/dt_r(typ)を使用して立ち上がり時間を比較します。

DDR1:
182.537psで1.154V → 395.44ps@2.5V振幅

DDR4:
71.604psで420.76mV → 204.21ps@1.2V振幅

図示すると次のようになります。

波形遷移時間は1.2Vの方が短いです。これによりデータ伝送速度が向上しています。そして傾きに着目すると、実はDDR4の方が若干緩やかであることが分かります。緩やかである方が波形に高次高調波を含まないメリットがあります。一方でDDR4は低電圧のため、PI(Power Integrity)に注意する必要があります。

出力インピーダンスの比較

IBISには[Pullup]、[Pulldown]という記述があります。
MOS-FETのV-I特性が書かれており、[Pullup]はP-MOSによる立ち上がり、[Pulldown]はN-MOSによる立ち下がりの特性を示しています。

DDR1の[Pullup](Ground relative)
DDR1の[Pulldown]

概略、このグラフに外部負荷である50Ωの直線を重ねると、交点から各FETにかかっている電圧値が分かります。そして負荷との分圧を計算することにより、FETの出力インピーダンスを算出することができます。
手計算で算出することが可能ですが、面倒であればSI解析ツールで調べることもできます。IBISモデルから算出した結果を直接表示するツールもあれば、50Ωの負荷を接続して波形から読み取る方法もあります。

それぞれの出力インピーダンスを算出すると次のようになります。

DDR1:
出力インピーダンス(L→H) = 15.0Ω
出力インピーダンス(H→L) = 14.2Ω

DDR4:
出力インピーダンス(L→H) = 35.6Ω
出力インピーダンス(H→L) = 29.2Ω

算出結果から分布定数下での入力端の電圧を計算すると、DDR1では3.84V(1.34Vのオーバーシュート)、DDR4では1.42V(0.22Vのオーバーシュート)になります。

まず、DDR4の公称値であった「34」は、34Ω付近を指していたのだと気付きます。そして立ち下がり時の出力インピーダンスは少し乖離していると分かります。
次に、DDR1の方が出力インピーダンスは小さいと分かります。実はDrive StrengthはDDR4よりもDDR1の方がかなり大きく、オーバーシュート量は上で計算したようにDDR1の方が大きくなります(対策部品未使用時)。

まとめ

立ち上がり時間の比較でも、出力インピーダンスの比較でもDDR4の方がSI視点で向上していると言えます。加えてDDR1にはODT機能が無く、終端抵抗を外付けしなければなりません。このようにDDRメモリーは進化し、基板設計がし易くなってデータ転送速度が向上しています。

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