There's No One Like You〜きみがすべて
フィリップ・ウィンがスピナーズを離れて間もなくリリースしたオリジナルアルバム('77年)は、シンシナティっ子の彼らしく全体的にご機嫌テイストで、緩急のバランスもトム・ベルのプロデュースを彷彿させる構成。でも個人的に物足りないのは何故だろう何故かしら?
1)スピナーズ時代には絶妙に分担出来ていた主旋律をソロではフィリップが全て担わなければならないジレンマ。主旋律を他のメンバーに任せてフィリップが自由に歌い上げる(暴走)スタイルが無くなってしまった違和感は、例えセルフコーラスや女性コーラスでカバー出来ても拭い切れないのよね。
2)スピナーズ時代の楽曲はフィリップのオールマイティな表現力を活かしつつ、男性ヴォーカルグループとしてのバランスを最重視した構成になっているのが魅力。曲毎に解釈を変えて見事に歌い上げるフィリップ。時にはリードし時には寄り添う、安定したヴォーカルのボビーとヘンリー。美しいハーモニーを支えるビリーとパーヴィス…5人それぞれが本当に素晴らしい。この沼に嵌るとなかなか抜け出せないのよ…
Spinners/There's No One Like You〜きみがすべて('74年)
https://m.youtube.com/watch?t=0h0m26s&v=0pPVs6-s-K8
ソロではこんな世界観はまず出せないわよね…ということで、Bメロのボビーとフィリップのワンフレーズ毎の掛け合いを訳してみました。ディオンヌ・ワーウィックとボビーのデュオは爽やかに仕上げておきながら、同じアルバムに意味深オッサンデュオを放り込むトム・ベル…恐ろしい子w
B:まるで葡萄の木のようにしがみ付いて
P:僕たちは嵐の中に立つ
B:太陽が見える
P:僕たちはいつも一緒だよ
B:この気持ちを抑えられない
P:君の愛は僕を奮い立たせる
P:一番高い山に登るために
B:そして2人が頂に達する時
P:それは天国の向こう側
B:家を建てる
P:多分6〜7人用の
B:たったひとつの歌を歌う
P:僕の心を鳴らし続けるのは愛
P:君がすべて
3)Pファンクのライヴでフィリップが「Sadie〜愛しのセイディ」を選曲している時点で、彼はスピナーズ時代の作品を超えるモノに出会えていないんだなぁと痛感。脱退の理由として、フィリップがスピナーズの中で自身をイチ推しして貰いたかったことは嘘ではないだろうけど、別記事で触れられている体調問題も大きかったのだろうと思う(それでも他メンより5歳下)。ライヴでキレッキレのパフォーマンスを披露し続けるには、彼等は遅咲き過ぎたよね…
スピナーズのステージ監督がボビー・スミスであることは「ソウルトレイン」のインタビューからも周知の通り。
高校時代からずっと同じ釜の飯を食って来た4人と、'72年に加入したフィリップが振り付けで息を合わせるのは、それはそれは大変だったでしょう。そんなフィリップからコミカルな一面を引き出し、謂わばスピナーズの名物にまで仕立て上げたボビーの慧眼と敏腕には拍手を送りたい。
そのフィリップ、当時のライヴ映像を観ると常にボビーを目で追っています! そしてボビーが隣に居ない時に気が緩んでやらかすw 厳しい先輩だったのかな…でも重ねる歌声は互いに限りなく優しいよね。
結局、フィリップにとってもボビーにとっても絶頂期は互いに「きみがすべて」だったんだろうなぁと結論付けずにはいられない訳で、ソロになることで得るものも大きければ同時に失うものも大きいのがグループの宿命なのね(涙
フィリップ・ソウル・ウィン、没後35周年追想noteはしつこく続きます。
モノグサな私にこんなに文章を書かせて、遂には歌詞まで訳させる人物なんて…ホント君しかいませんよw