(きまぐれ①)特急列車・缶チューハイ
残業だ。疲れた。我がゆるふわホワイト企業にも繁忙期がある。そんな時は残業が発生する。
見慣れたセントラルホームまで歩く。
田舎出の私にとって、かつてはあれほど胸をときめかせた地下鉄街も、もはや見る影もない。いや、陰しかない。
しかし、そこには、幸い、唯一の、一片の憧れが、甘美な誘いが、残っている。特急列車である。
特急列車、すなわち、定期券+数百円を払うことで味わえるプチ贅沢。ほぼ同じ時間で到着できるのに、そもそも始発だから座れるのに、違いはといえば進行方向で座れるくらいなのに、それだけのことなのに発生する特別料金。あぁ、なんて無駄な、なんて非生産的なお金だろうか。
まだ間に合う。
決心させたのは合理的思考能力を奪った疲れだろうか、或いは中毒症状の初期症状か、それとも。
気付いた時にはキオスクで売っている缶チューハイを持って特急列車に乗っていた。
まあ、いいじゃないの?頑張ったんだしさ。あんたさ、あれだけミクロ経済学で習ったでしょ?埋没費用は取り返せませんって。また学費を無駄にする気なの?
金曜日の夜21時、割とたくさんの人が乗っている。
ああ、なんて事だ。あれほど嫌悪した「日本のサラリーマン」ではないか。
つづく…
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