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第17話「ファーストフード店の喜び」

自転車日本一周旅〜人生で大切なことはすべて旅で学んだ〜

岩手県花巻にて宮沢賢治のゆかりの地を巡った後、一路東京方面を目指し南下していく。
国道4号線、6号線をひたすらペダルを漕ぐ。
自転車日本一周旅は基本的に海沿いに近い国道を走っている。
走る道路は、平坦な広い道から路肩がない狭い道。上り坂もあれば下り坂もある。自転車横30センチを大型ダンプカーが走り抜けるとんでもない交通量多い道路もある。また追い風や向かい風、雨天などの気候条件もその日によって違う。

自転車で進める目安は、1日100キロ前後の距離となる。
30分間ペダルを漕げば、約10キロ進む。
1時間走れば、20キロの距離となる。
1時間に消費されるカロリーは約500kcalだ。
平均、自転車旅では1日100キロほど進むということは、5〜6時間の肉体労働になる。
このときの運動で消費されるカロリーは約2500kcal。
プラス基礎代謝量が約1700kcal。
基礎代謝量とは、何もせずにじっとしているだけで消費される必要最低限のエネルギー量のこと。体は生命活動を維持するために体温の維持や呼吸、心拍でもエネルギーが使われる。
1gの水を1℃上げるのに必要なエネルギー(熱量)が1cal。機械を動かすのに電気エネルギーが必要なように、自転車を動かすのにもエネルギーが必要なのだ。
1日に必要なカロリーは年齢や性別、日ごろの活動度合いによって違う。

一日のエネルギー必要量=1日の基礎代謝量×1日の身体活動量。

ちなみに脂肪を1kg消費するのに必要なエネルギーは、約7200kcalだ。
1日に必要とされる摂取エネルギー量の目安は、一般成人男性で2200±200kcalと言われている。自転車旅で消費する1日のエネルギーは、約4500kcalになる。一般男性の2倍のエネルギーが必要なのだ。
つまり、常に腹が減っている状態なのだ。
国道を走っていても食べ放題、ライスおかわり自由のラーメン屋などの看板でもあれば、迷わずインする。
しかし、なかなか良いタイミングで手頃な店は見つからないものだ。
だから、ついついお手軽なファーストフード店を利用してしまう。
国道沿いに乱立するマクドナルド、モスバーガー、ケンタッキーフライドチキン(KFC)などなど。

特によく利用しているのが、モスバーガーとKFCだ。
少し値段は張るがモスバーガーがいい。
自転車で走るとコテコテの濃密なハンバーガーが食べたくなる。
トマトの酸味と玉ねぎが効いたミートソースが食欲をそそる。
モスバーガーを食べ終わった袋をふと見ると、「あ、ミートソースが結構残ってる。もったいないなあ。」となる。
セットメニューのフレンチフライポテトをミートソースにからめて食べると、それはそれはポテトとソースの絶妙な味わいを楽しめるのだ。袋に残ったミートソースは、みじん切りの玉ねぎ、ジューシーなトマトの旨味が染み込んでいる。
マクドナルドでは味わえないモスバーガーの特別なひとときなのだ。
特別なのはミートソースだけではない。
理念がまた特別なのだ。
モスバーガーは、「M マウンテン(山)、O オーシャン(海)、S サン(太陽)」で、人間・自然への限りない愛情、理想の人間集団でありたいという願いが込められている。
「山のように気高く大きく、
海のように深く広い心で、
太陽のように光り輝く情熱を持て。」

という意味がある。
ミートソースを最後まで食べる度に、この理念に励まされ、明日に向かって走るエネルギーを摂取した。

ケンタッキー・フライドチキンもよく利用する。
カーネル・サンダースさんは、ご存知だろうか?
KFCの店の前に立っている白髪で白い服を着たおじさん。
カーネルおじさんは、10歳で農場を手伝い、15歳で社会に出てペンキ塗り、車掌、軍隊、販売員など30の職を転々とした。
30代後半で、ガソリンスタンド経営と小さなレストランを開業。
しかし、起業した会社は相次ぎ破綻。
さらに時代の変化や火事などにより、65歳で無一文になった。
全てを失った彼に残ったものは、唯一、フライドチキンのレシピだけだった。
普通の65歳なら、わずかな年金で余生を暮らすだろう。
でもカーネルおじさんは違った。
このレシピをレストラン経営者に売って、売上の何パーセントかをもうらうという、ビジネスを思いつく。
しかし、このビジネスプランは受け入れられない。
ある人は、自分はダメな人間だと感じて、尻込みしてしまう。
ある人は、次々と失敗を繰り返しながら、大きく成長していく。

来る日も、来る日も、ボロボロの中古車に寝泊まりするカーネルおじさん。飛び込み営業で人に会い、拒絶や失敗を繰り返しながら、少しずつ営業のコツを掴んでいった。
彼は実に1000回の拒絶に遭った。
しかし、彼は怯まなかった。
自分に言い聞かせていたに違いない。

「失敗しろ、成功の確率が跳ね上がる。
 失敗ではない。うまくいかない方法を見つけただけだ。」


彼は真っ白いスーツに身を固め、自信に満ちた笑顔と情熱に溢れた態度で臨んだ。
そして、とうとう1009人目の面談者から契約をもらい、世界初のフランチャイズ・ビジネスをスタートさせる。
KFCをスタートさせたのは、65歳の時だ。
成功は失敗の先にある。
感動は困難の先にある。

やがてKFCは、世界80ヶ国に広まり、1万店舗のチェーン店となった。
歳を取るごとにファンキーになっていくカーネルさん。

「どんな小さなことでも、チャレンジしよう。
 チャレンジ精神のある人は、どんな歳を取ってもカッコイイものだよ。」


KFC店を後にする時、カーネルおじさんは、いつもそう微笑みかけてくれた。
脂まみれの口元を汗臭いタオルでぬぐい、自転車旅に気合を入れたのだった。

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