彼岸の華

私は秋が好きだ。

私の大好きな花が咲く季節だから。

私の大好きな人が帰ってくる季節だから。

でも私の大好きな人は秋が大嫌いらしい。

紅く色付く山、さざめく風の音。

私はそのどれもが愛おしくて仕方がない。


秋の夕暮れは少し寂しい。

私の大好きな人を連れて行ってしまうから。


ねぇ、大好きな貴女。

貴女は私が何処かに行ってしまうというけれど、私から見れば何処かに行ってしまうのは貴女の方だよ。


私の大好きな人。


どうか泣かないで。






私は秋が嫌いだ。

私の嫌いな花が咲く季節だから。

私の好きな人を連れていく季節だから。

そんなものは言い訳に過ぎない理由だけど。


紅く色付く山が君は好きだと言っていた。

さざめく風の音さえきみは好きだと言っていた。

君に愛される秋が嫌いだった。


君にどうしてそんな花なんか好きなんだ、と言ってしまったことがあった。

そんな不吉な花、とも言ってしまった。

君は花に罪はない。人が勝手に意味をつけているだけだ。と返していた。


紅い夕日と山に背を向ける。

帰らなければいけない時間だ。


ねぇ、君は今好きな紅い花に囲まれて幸せ?


泣き出す瞳を自らの手で拭う。

いつも拭ってくれた大好きな君はもういないから。


来年また秋に会いに来るよ。


さようなら、またね。

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