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昨夏、妊活ストレスで救急搬送された話。

2022年夏。安倍元首相が銃撃されたその日。
私は人生で初めて救急搬送された。

そのときはちょうど仕事中でトイレにいて、
トイレが終わったあと急激にお腹が痛くなり、その場から動けなくなった。

「あ、これダメなやつだ」

そう思ったが、このままトイレにうずくまってるわけにもいかないので
這い出るような形でなんとかかんとかトイレから脱出。

ちょっと我慢したらまた仕事再開できるかななんて思ってたけど
一向に腹痛は治らず、歩くこともままならなかったので
私は観念して這いずりながら店長室へ向かって店長を呼んだ。

店長はすぐに駆け付けて椅子を用意してくれた。
腰を下ろしたら少し痛みも和らいできた。でも依然まだ痛い。
バックヤードど真ん中での出来事だったのでそこを通る従業員皆が
「大丈夫?」「どうしたの!?」と口々に声をかけてくれた。
「大丈夫大丈夫^^」なんて返しながら、なんか大事になってきたな嫌だななんて思ったりしていた。

少し休憩室で休ませてもらってからまた仕事再開しようなんて思っていたら
心配症の店長が「普段絶対倒れない鶏皮さんが倒れるなんて。
なにか大きな病気かもしれない」と事を更に大きくしてしまって
なんと救急車まで呼んでしまった。
(後から聞いた話、コロナで忙しい時期でもあったのか普通に病院に来られても診察してあげられないから診察して欲しいなら救急車を呼べと言われたらしい)

10分もせずに救急隊員の方が続々と現れて、担架で運ばれていく私。
当然ながら騒然となるバックヤード。
いよいよ引き返せないくらい大事になってしまった。どうしよう。

本当は救急車で運ばれたって、大病院に連れて行かれたって何がどうなるわけでもないのだ。
だって何が原因でお腹が痛くなっているか私は知っていたから。


救急隊員の方の素早い対応で担架からストレッチャーに移動。
「朝ごはん何食べた?」「昨日の夜何食べた?」「いつからお腹痛かったのかな?」「腹痛以外の症状はある?」
矢継ぎ早に飛んでくる質問。私はその質問に淡々と答え続けた。

コロナで忙しいのにこんなに大した症状でもない人間のために出動させてしまった。申し訳ない。でもなんかもう疲れたなぁ。もう何もかもどうでもいいなぁ。
バタバタと忙しなく動いている救急隊員の方とは反対に、自分の中に流れる時間がえらくゆっくりになっていくのを感じた。

そして何故か涙がボロボロと溢れてきた。

「ごめんなさい。体、どこも悪くないです。これおそらく精神的なものです。
頑張ってるのに、もうずっと妊娠できないんです私。」


けたたましいサイレンを鳴らして病院へと走り抜ける車内で気付いたら私は泣きながらそう言っていた。

当時の私は妊活を始めて2年目に入った矢先の頃だった。
丸1年うまくいかず、精神的に落ち込むことも多かった。
その上仕事も忙しく21時や22時に帰る日も珍しくなかった。
タイミング悪く店の売上も芳しくない時期で、
私含め売場の責任者は売上についての指摘や注意を毎日のように受けていた。
妊活に対しての意識の差や余裕のなさから夫との仲もどんどん悪くなり
顔を合わせば、言葉を交えば即喧嘩の臨戦状態に入っていた。
はっきり言ってもう限界だった。

一言喋ったら何かの線が切れたかのように言葉が溢れて止まらなかった。
妊活と仕事の両立が難しい。
なぜ女の私だけこんなにも両立が難しいのか。
辛い。苦しい。もう何もかもやめたい。
でもどっちも諦めたくない。
どっちも諦めたくなどなかった。

どこかの漫画に書いてあった
「自立できる経済力は、いずれあなたの大きな味方になる」という言葉。
結婚してもしなくても、子供がいてもいなくても、
どんな状況でも頼りになる私の唯一無二の味方。
これがあるから私は自由でいられた。
時間をかけて積み上げてきたこの唯一無二の味方を
手放すつもりも、手放す勇気もなかった。

救急隊員の方は呆れるでもなく、真剣に聞いてくれた。
「今まで一生懸命頑張ったんだ。絶対仕事も辞めるなよ。
仕事も子供も欲しい。いいじゃん!それならなぁ、頑張るしかないんだよ!欲張りに行け!!」と強い口調で鼓舞してくれた。
「妥協なんかするなよ!欲張りに行け!」
と何度も何度も言ってくれた。

「俺も結婚してカミさんとの間になかな子供ができなくてね、
やっとできたと思ったらこんな仕事してるお陰で
全然子供との時間を取れてやれないんだ。
でもやりがいのある今の仕事もしたい!じゃぁどうする?
時間が取れるように頑張るしかないんだよ!
だから俺と一緒だ。俺は欲張りに行く。
だからあなたも欲張りに生きな!」とそんなようなことを言ってくれた。

涙が止まらなかった。
そのあとはずっと「ありがとうございます」「ごめんなさい」「頑張ります」を繰り返していたように思う。

本当はずっと誰かにそう言って欲しかったのかもしれない。

この悩みを口にすると、夫や親や周りから
「そんなに無理しなくていいんじゃない?」
「辛かったら仕事辞めてもいいんだよ?」
と言われることが多かった。
皆優しいから私のことを想ってそう言ってくれているのは分かっていた。
でもなんだかモヤモヤする気持ちが残っていたのも事実だった。

『頑張って無理してでもやれるところまで頑張りたい』
心の奥にある本音をいつもやんわり否定されているような気持ちになってたから。

そう。結局のところ残業があろうが売上のノルマがあろうが
私は責任ある今の仕事が好きなのだ。
頑張っても、無理してでもやりたいと思ったことを達成したいのである。
それを誰かに応援して欲しかった。
自分でも気付いてなかった心の奥底の気持ちを初めて誰かに認めてもらえたような瞬間だった。

本当にお恥ずかしい話で救急隊員の方にそう言ってもらった後からは
腹痛もすっかり無くなり、ただただグシャグシャに泣き腫らした30代の元気な女が病院に運ばれただけとなった。
一応軽い検査を行い、問題ナシ(当然だけど)ということでしばらく安静にしてから帰宅するという流れになった。

救急隊員の方から先生にあらかた引き継ぎはされてたのだろう。
「ちょっと体心配かもしれないけどきっと今は薬とか飲みたくないよね。
だからお薬は出さないでおくね」と言われた。
ありがたかった。
また何度も「ありがとうございます」と告げた。

救急隊員の方とはその後会うことはなかった。
私は迎えに来てくれていた店長の車で病院を後にし、この騒動はひとまず終わった。

昨今、救急隊員の過労による交通事故や不要不急の119通報の問題が取り沙汰される中この記事を書くかはすごく迷った。
でもどうしても改めて感謝の言葉を伝えたくなりました。

あのときは本当にありがとうございました。
ずっと沼の底で溺れていたような感覚でしたがそこから救い出して頂いたような、それくらい私の中で力強く響いた言葉でした。
名前も伺えず、まともにお礼の言葉ひとつ言えませんでしたが本当に有難うございました。

あれから半年経ちましたが、未だ妊娠には至っていません。
今は不妊クリニックに通いながら変わらず仕事も続けています。
相変わらず残業があったり、責任がしんどくなることもあります。
両立が難しく感じることもありますが、
言われた通り妥協せず欲張りにやっていきたいので後悔はありません。
あのとき踏み止まれて本当に良かった。

今も尚お仕事大変かと思いますが、
お子様との時間も取れますようこれからも欲張りに頑張ってください。
応援しています。

ありがとうございました。

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