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日本一ポンコツなスーパーカブ乗りの話

私が二輪の免許を取ろうと思ったのは20代後半のとき。
北海道・稚内一人旅で見かけた一人の女性ライダーがキッカケでした。

日本のテッペン宗谷岬に向かう道中。コンビニに停めてあった一台のバイク。
たくさんの荷物を載せたバイクの傍らで休憩していた持ち主であろう40~50代くらいの女性。
今思えばおそらくソロキャンプツーリングをしながら北上してきた人であろうと思います。

コンビニで見かけた時間はたかだか数十秒ほど。
東京育ちだったこともあり、当時車はおろか原付にすらまともに乗れなかった私にとってその姿はあまりに眩しく、格好良く、衝撃的なものでした。

女性一人であんなに大きな荷物を抱えて、こんなところまでバイク一台で来ている。誰にも頼らず、自分の行きたいところに自分の力で来ている。
かっこいい。私もあんな女性になりたい。
そう強く強く思った瞬間でした。


そんなこんなで「普通自動二輪免許」の教習所に通い始めたはいいものの
今まで運転とは全く無縁の生活を送っていたため二輪免許取得は想像を絶するほど苦戦しました。

半クラッチの感覚が分からない。
手元のやることが多すぎてすぐに頭が混乱してしまう。
そして何よりどうしても恐怖心が拭えなくてバイクを上手く扱いきれない。

同じ時期に教習を始めた人たちはどんどん先へ行き、次の段階に進んでいるというのに私はずっと教習所内をぐるぐる周回しては補習の繰り返し。増え続ける追試の判子。
仕事から帰ってきては夜な夜な自転車に跨ってクラッチの練習をしたりしていましたが、どうにもこうにも上達しない。

既に二輪免許を持っている職場の男性社員には
「なんであんな簡単なこともできないの?」と何度も馬鹿にされました。
「皆簡単に出来てることがどうして私には出来ないんだろう。
こんなヘタクソはきっと免許取れても周囲に迷惑をかける。だったら始めからバイクなんて乗らないほうがいいんだ」と何度も自分を責めました。
いい歳して恥ずかしいけれど何回泣いたか分からないぐらい泣きました。

きわめつけは急制動。(直進を40kmで走って停止線でブレーキする課題)
ロックするほどフロントブレーキを握ってしまい
200kg近いバイクもろとも宙を舞い、流血するほどの怪我をしたこともありました。
手がずっと震えていたことを今でも覚えています。

教習中に「楽しい」と思ったことはただの一度もなく
心身共にボロボロになり、卒業検定も1回落ち、
教習所の卒業証書を受け取って最初に思ったことは
「これでもうバイクに乗らずに済む…」でした。

北海道で見かけた女性ライダーみたいになりたいなんて夢のまた夢。
一応免許は取得したけれど私は小さな教習所の中でただただ毎日泣いているだけのどうしようもない奴だったということを思い知っただけでした。

やっとの思いで免許を取ったはいいものの、あまりにも教習の恐怖が強すぎてバイクに乗ることすら怖くなっていた私。
そんな私に、当時の彼氏(今の夫)が薦めてくれたのが「スーパーカブ」というバイクでした。

当時の彼氏(以後”夫”表記)もバイク乗りで、ずっと私の教習生活を応援してくれていました。
自分のバイクの後ろに乗せてくれて足のギアを入れるタイミングなど色々なことを教えてくれました。
夫だけは出来ない私を決して馬鹿にせず最後まで協力してくれました。そんな夫のセカンドバイクだったのが「スーパーカブC70」だったのです。

最初の印象は「ダサッ。」

当時バイクの知識なんて何もなかった私からしてみればそれは「新聞屋さんのバイク」であり「蕎麦屋さんのバイク」であり、それ以上でもそれ以下でもありませんでした。
「こんなダサイバイク乗るためにあんな辛い思いして免許取ったんじゃない。」内心でぼやきました。まともに乗れないくせに減らず口だけはいっちょ前の私(笑)

そんな私に夫は「スーパーカブはクラッチがない分、初心者にも扱いやすい。だけど足のギア操作はあるからバイクを運転している感覚は楽しめる。燃費もいいし、壊れにくいし、とっても良いバイクだよ。まずは試しにこのバイクから慣れてみようよ。」と諭してくれて、当初の予定とは随分かけ離れた小さく小柄なビジネスバイクに乗ることになったのです。

それが私とスーパーカブの最初の出会いでした。

始めは近所の公園の駐車場をぐるぐる周るところから始めました。
夫の目の届くところでひたすら低速周回。公道を走る勇気なんて当然なく、道挟んで100mほど離れているもうひとつの公園との間をひたすら行き来する練習が何日も続きました。夫が何度も走って後を追ってきてくれたことを思い出します。(ありがとう笑)

少しずつ少しずつやっと慣れてきたというところで、道路上でよくある”怖い目”に何度か遭遇してしまったこともあり恐怖心が再燃。
カブに乗る前はいつもお腹を下してトイレに篭ることもありました。走り出してからも口から心臓が飛び出るんじゃないかというほど緊張して、走行時間5分もないくらいなのにいつも手汗でグローブの中はびしょ濡れでした。

それでもやっぱり乗りたい気持ちは捨てきれず、どうしたら怖い目に遭わないか再度色々工夫して今度は少し離れたスーパー。もうちょっと遠い銀行。いつもとは違う道で帰ってみよう。
市内すらも出られないような近距離ツーリングでしたが、少しずつバイクに乗ることが「楽しい」と思えるようになっていき、乗る頻度も増えていきました。

遅いけれども着実に、亀の歩みがごとく距離を伸ばしていたある日。
練習もかねて初めてカブに乗って一人で実家へ行ってみることにしました。
距離にして大体17〜8km。現役ライダーの方からすればきっと笑われるくらい近い距離なんでしょうが、市内すら出られなかった当時の私からしてみればそれはそれはもう一世一代の大冒険でした(笑)

そんな実家へ向かっていた道中、今も尚忘れられない出来事があります。
それは通り道にあったかつて二輪免許を取得した教習所の前を通ったことでした。

自宅から12〜3km走ったところ小さな坂を越えて下った先、うっすらと見えてきた教習所。その光景を見たとき私はなぜだか思わず泣きそうになってしまいました。

ついこないだまであの柵の内側で「出来ない」「怖い」とずっと泣いていたのに、今はこうやってスーパーカブというバイクに乗って柵の外側を自由に走ることが出来ている。
距離は近いけれどそれでも誰に運転してもらった訳でもなく自分の力でここまで来ることが出来ている。
あの眩しかった女性ライダーに一歩、半歩も及ばないけど近付くことが出来たのかもしれない。
小さなことだけど大きな自信となった出来事でした。

『自分には出来っこないって思っていたことが出来るようになる』って
こんなにも嬉しくて楽しくて幸せなことだったなんて今まで知りませんでした。
“知らない”というより分かりませんでした。
分かる余裕すらもありませんでした。
大袈裟かもしれないけどそれくらい自分にとって心に残った景色でした。
走りながらずっと「やった!来れた!ここまで来れるようになった!」と興奮していました(笑)

あのとき「もう無理もうやめたい」と何度も言っていた過去の自分に
「大丈夫だよ。このあとちゃんと乗れるようになるから頑張って」と伝えたくなりました。
そして何もかもが怖くてバイクからも遠ざかりたくなっていた私を
こんなにも幸せな気持ちにさせてくれたスーパーカブというバイクに最大限の感謝を伝えたくなりました。

それからは通勤のお供になったり、夫婦で山を越えて道の駅やダムにツーリングに行ったり、一人でちょっと離れた温泉施設に行ってみたり、夜の峠道をヒィヒィ言いながら走ったり、カブはたくさんの場所に私を連れて行ってくれました。
たくさんの「初めて」を私にくれました。
たくさんの思い出を私や私たち夫婦にくれました。
もう本当に感謝しても感謝してもしきれないです。

大型バイクに乗って北海道のテッペンまで行くなんてこと今でも到底できないけれど、きっと日本中どこ探してもこんなにヘタクソでビビリでどうしようもないバイク乗りもいないと思うけれど、
それでもこんなどうしようもない私さえもスーパーカブは温かく迎えてくれました。
ずっと憧れだった「バイク乗り」にさせてくれました。
最初はダサイなんて思ってしまったけれど、今ではこんなに良いバイク他にはないと胸を張って言えるほど大好きな大好きなバイクです。

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今回このnoteを書いたのはそんな大好きなスーパーカブC70から
新しいバイクに乗り換えることになった為、思い出を残しておこうと思って書きました。

乗り換えには最後の最後まで悩みました。
ですが、今後のことや様々なことを考えて今回乗り換える決断をしました。
ナンバーを外して保管することも検討していましたが、やっぱりバイクは走ってこそのバイクです。
夫の知り合いで大事に乗ってくれる方がいましたのでそちらの方に譲ることになりました。

知り合いの方に譲る当日。
夫婦でカブを洗車しました。
たくさんさすって「ありがとう」と話しかけました。

元々は独身時代の夫が不用品回収で出たカブを引き取ったことが最初の出会いでした。
一生懸命メンテナンスしてまた走れるようにしたそうです。
夫は夫で私以上に思い出や愛着があったことかと思います。
「あのカブと一緒に富士山の5合目まで登ったこともあるんだよ」と話していました。私たち夫婦から愛されたバイクでした。

最後は夫婦で二人乗りして駐車場を軽く周りました。
それがラストランになりました。
私たちの手からは離れますが、これからもどこかでしっかり走ってくれていると思うととても嬉しくなります。

スーパーカブは手放してしまいますが、カブ乗りをやめるつもりは毛頭なく
次の相棒は『クロスカブ110』に乗ることになりました。
今までは夫のバイクを借りる形でずっと乗っていたスーパーカブ。
次からは自分でお金を出して買った正真正銘『私のバイク』です。

寂しさは残るものの、次はこのクロスカブ110でどんな思い出が作れるのか
今からとても楽しみです。
ビビリなので少し排気量が上がることにもヒヤヒヤしているのですが(笑)
今までのようにビビリはビビリなりにゆっくりマイペースに楽しんでいこうと思います。
納車はいよいよ明日です。

長々と思いの丈を書き綴ってしまいました。
とりあえず私はすっきりしたので満足です!(笑)

それでは最後に。
ありがとうスーパーカブC70。
ちなみに名前は「カブ子」と呼んでいました。
ありがとうカブ子!!!!!今までもこれからもずっと大好き!!!!!!


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