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イタリア児童文学『13枚のピンぼけ写真』原題”fuori fuoco”の旅へ

シエナ外国人大学附属語学学校の短期留学を終えたわたしは
大荷物をシエナの宿に置いて、
リュックサックひとつで北の町へ旅に出た。
3泊4日だぞ。

イタリアの人でさえ、あまり行ったことのない町。
オーストリア国境のヴェネツィア・フリウリ・ジュリア州にある、
マルティニャッコ村とウーディネ市、そしてグラード市だ。

シエナの宿の大家さんと学校の友だちに
「Venezia Friuli Giuliaに行ってくるね」と言ったら
みんな「ああ、Veneziaは素敵だよ」
わたし「違うよ。Veneto州のVeneziaじゃなくて、もっと北の、オーストリアの下のVenezia Friuli Giuliaだよ!」
みんな「・・・」(どこだっけ?なんでまたそんな遠くて寒い所へ・・?という反応)
わたし「人生で初めてイタリア語で読んだ本の舞台だから、行きたいんだ!」
みんな「良い旅を❤️」

一泊目のウーディネまでシエナから電車で6時間30分。
切符代は10,000円以上かかった。
シエナ駅を朝8時過ぎに出発だ。

これより5000円安いチケットだと所要時間7時間半、1時間しか変わらないので、
節約中のわたしはだいぶ迷いました。
でも乗り換えの回数が倍の4回になるし、
乗り換え時間も短いのでトイレに行けないと困るから、
イタリアの新幹線「赤い矢freccia rossa」に乗るコースにしたぜ😘

シエナ→フィレンツェ→ヴェネツィア→ウーディネと北上するのだが、
フィレンツェで「特急赤い矢」の到着が45分遅れ。
その間50回くらい構内放送で
「乗客の皆さん、最速の特急赤い矢ヴェネツィア行きの到着が遅れてます。45分遅れです」て言うんだよ。
ほかの町へ行く赤い矢も遅れまくってた。
最速だけど、遅刻魔っておかしい😆

イタリアの人はみんな(もしかして日本以外の各国で?)乗り物の中で電話するのが好きだ。
長距離バスの運転手さんも電話してるし好きな音楽かけて大ボリュームさ。

で、フィレンツェからの新幹線赤い矢の車内、通路はさんで隣の席に座ったおばちゃんは、
学校の先生なのかそれともママなのか、
次々と子どもたち、たぶん中学生に電話している。

「ジュリア、いい?わたしの言うこと聞きなさい!
あなたは月曜日までに必ず宿題をしなくてはいけません!
ジュリア聞いてる?
地理の406ページから410ページよ!
ちゃんと読んで宿題するのよ!」

なぜページまでわたしが覚えてしまったかというと、
6回くらい繰り返したからだ。
おかげでリスニングの良い勉強になったぜ😅

でジュリアに一方的に言いまくって電話を切ると
息もつかずに今度はジョバンニに電話だ!

「ジョバンニ?ジョバンニ?どこにいるの?聞こえてる?
わたしの言うこと聞きなさい!
あなたは月曜日までに宿題をしなくてはならないのよ!
あなた全部できてないのよ、わかってる?
ジョバンニ聞こえてる?どこにいるの?」

ママか先生が子どもの宿題問題に懸命に取り組んでいる向こうで、
おへそを出したセーターを着た可愛い女の子が友だちに電話してるみたいで、
キャッキャと笑って盛り上がっている。

わたしはその子の会話もリスニングしたかったけど、
宿題しなさいママの声が厳然と大きくて、
席移動しないと無理だったのであきらめた。残念だった。

それからヴェネツィア・メストレ駅で在来線に乗り換えて
15時前にウーディネ駅。
駅を出ると秋の日差しがキョーレツで目が眩んだぜ。

カクカクシカジカ翌朝だ!

ウーディネのホテルで
朝ごはん食べに食堂行って座ると、
右側にドイツ語を話している自転車競技するユニフォーム着た男女が10人くらい。
左側に訛っているけどたぶんイタリア語を話している観光客男女がやはり10人くらい座ってる。

右側のドイツ語チームは全員アメリカンコーヒーを飲んでて
左側のイタリア語グループは全員エスプレッソを注文した。
こんなに明らかなのか〜と感慨深い。
わたしはもちろんエスプレッソのルンゴ(倍の量)を頼んだ。

ドイツ語を話してるチクリスタ(自転車乗り)チームを観察していると、
全員食べ終わっているのに、
ずっとしゃべっていて中々立ち去らない。
お天気も良いのにどうしたんだろうと思ってさらに観察していると、
「もようした」人から順にトイレに行っているようで、
全員がスッキリしたタイミングで立ち去っていった。

わたしも山に登る朝は
必ずトイレを済まして行きたいから
気持ちがよくわかって笑顔で見送った。

だけどイタリア語で
「チャオ、さよなら。良い一日を!」って言ったのに、10人もいて誰も返事してくれなかった。
(どうして返事してくれないですか?って聞きたかったけど、やめておいた)

どこまで行ったっけ。
そうだウーディネの朝だ。
この町も“fuori fuoco”『13枚のピンぼけ写真』の主人公の13歳のイオランダが毎日、
市場に野菜を売りに来たのだ。

第一次大戦が始まった時代の物語で、
ウーディネの広場で野菜を売ってると、オーストリア帝国の爆撃機が飛んできて、幸いイオランダは無事だったけど亡くなった人もいたのだ。

爆撃機のほかにも、
イタリア兵が弾薬庫にうっかりタバコを捨てちゃって大爆発が起きて、町は粉々になってたくさんの人が亡くなる。

なのにこの悲劇的な大爆発事故のことは一行も新聞に出ないんだよ。
イオランダが一生懸命新聞めくって探しても今日も明日も一文字も記事になってない!
それで彼女は「検閲」という言葉を初めて知るんです。

どこの国もおんなじ。
軍部やその時の政権は、
自分たちに都合の悪いことは国民に一切知らせないで、
そのかわり、敵方を倒したとか威勢の良いことだけニュースにするんだ。

イオランダ姉妹とともに旅するアデーレおばさんは目は見えないけど、本当のことが分かる手と六感を持ってる。
カッコいいんだこのおばさんが。

でともかくわたしは
イオランダとマファルダの故郷マルティニャッコ村を目指した。

ウーディネから8キロだから
イオランダ達が毎日歩いた道を、
ほんとはわたしも歩きたかったけど、
この日中にグラードという、
べつの町まで行きたいので、
ええいとタクシーを呼んだよ。
バスは一日2本しかないんだ。

タクシーの運転手さんに
「大好きな小説の舞台だから、
マルティニャッコに行きたくて、
日本から来たんです」というと 

「だったらもっと良い話があるぞ。特別に教えるよ。実は『ロミオとジュリエット』の本当の舞台はここ、ウーディネとマルティニャッコなんだ 
!」と力いっぱい言うので、
わたし「マジ?ヴェローナじゃないの?」
運ちゃん「いーや、ヴェローナっていうのは後から作られた話で、本当はウーディネとマルティニャッコなんだ 
。誓って言う、超真実さ!」

そっか〜。
貴族の館も見当たらないこの辺でロミジュリが生まれたなんて、
シェイクスピアも真っ青だぜ😅

とにかくマルティニャッコに着いた!
わーいわーい🙌🙌🙌
嬉しすぎて写真を撮りまくりながら、さながら番組のリサーチのように歩きまわる。

すると。
小説の中でイオランダに惚れている16歳のサンドロが、
出征前に手紙をよこして「大事な話がある。墓地の裏で待ってるから来て」
それで二人が会った墓地を発見‼️

サンドロが強引にイオランダにキスして、イオランダも意識が溶けていく名場面の洗濯場も発見‼️

イオランダと妹のマファルダが通っていた教会発見‼️

「母国のためにわたし達は尽力しなくてはなりません」とアンドレア神父がミサのとき言うと、物事が良く見えている妹のマファルダが
「今日は神父様の口に言葉がよくついてないね。どうしちゃったんだろ?」と言った礼拝席も発見‼️

発見するたび“fuori fuoco”のその場面のページを開いて写真を撮った。

この本を読み始めたのは、
イタリア語を初めてまだ1年半の時。
あこがれの関口英子先生の翻訳クラスに入ることができて、
日伊協会のオンライン授業でこの”fuori fuoco” を一生懸命勉強したんだ。
だからどのシーンもすぐにページを開けるんだよ。

2019年5月から2022年12月の今までずっとコロナ対応のオンライン授業なので、
一度もリアルにはお会いできてない。
でも先生やクラスメイトの皆さんのお顔を見ると元気が出るし、
ちょっとしたおしゃべりも嬉しいのだ。

その中のお一人まつだいらさんが
グラードのシーンを勉強している時に話してくれた。
「グラードに昔行ったんですよ。素晴らしい所でした。
アドリア海のラグーナ(潟湖)に浮かぶ島なんですね」と。

いつも綺麗にお化粧して素敵な雰囲気の彼女が感激したというなら、
本当に美しい所なんだろうなあ、
わたしもいつか行ってみたいと思ったのだ。

そのグラードについに
finalmente着いたのは、
まさにラグーナが夕陽に輝く魔法の時間だった❤️😍😍

右を見ても左を見ても、
濃いオレンジ色から金色までのグラデーションがきらめく海❣️
興奮して360度iPhoneビデオ撮影して気づいたら、
バスに乗っているのは運転手さんのほかわたし一人じゃん。
運転手さんは大音量でロックをかけてノリノリだ。
だからわたしもイタリアの人みたく
車内で思いっきり!
はしゃぎました😆

今日は朝ウーディネを出発して、
マルティニャッコ村探訪で盛り上がって、
またウーディネに戻って、
日曜日のために乗ろうとしていたバスがなくて、
長距離バス乗り場にある中国人のおばさんがやってるカフェで、
パキスタンの若者たちが楽しそうに喋るのを聞きながら1時間待って、
バスに乗って1時間半走って、
それでついにグラードだよ!

でもすべての疲れが吹っ飛んでしまうような美しさでした。
ここに導いてくださった関口先生とまつだいらさんに感謝なのだ( •̀∀•́ )✧




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