【原稿】初恋の思い出。

初恋の話を書いてみようと思う。
私の初恋はいつだったかしら。

幼稚園の頃に白人とのハーフっぽいそばかすのキャンディキャンディみたいな女の子がいた。強いて言えばその子かしら。

でも実際に第二次性徴期になって好きになった子は中学時代の同級生の女の子だった。身もふたもないことを言えば、好きな子が二人いた。

一人はアイドルとしてデビューできるような絵に描いた美人だった。化粧品のCMに出てくるような子だった。

もう一人は彼女ほどの美人ではないけれど可愛らしい子だった。

中学時代三年間クラスの変更はなかった。
当時、班制が敷かれていて6人ごとに机を並べて授業を受けていた。私は好きな女の子と同じ班になりたくて班長に立候補したのだけど、班長会議で美人の女の子はほかの班長に取られてしまって、代わりにもう一人の女の子と同じ班になることが多かった。6人班の座席は机を二人づつ向かい合わせに並べてその前後に残りの二人が挟み合うように並んでいた。私はいつもその女の子と向かい合うように座席を決めた。班長の特権だった。

その頃、私は学校に来ていく白いシャツを半袖長袖それぞれ一枚しか持ってなかった。月曜から土曜まで毎日同じシャツを着ていた。
当然週末になると汗臭くなった。さらに中学の近くに被差別部落があり、古い設備の屠殺場があった。ここから強烈に血なまぐさい匂いがしていた。その匂いは私の一枚しかないシャツに染み込んだ。お昼休みに走り回って帰ってくると両端の女の子たちから下敷きで「臭い、臭い」と煽がれた。しかし何故か目の前の彼女だけは一度も私を下敷きで煽がなかった。

あるとき彼女が交通事故をしたというので数日お休みしていた。それから彼女が復学したのだけど、右膝に包帯を巻いていた。あるとき私が腰を引いて座っていると、私の膝が彼女の包帯に触れていることに気がついた。
私はほかの人たちが気づいていないところで彼女の膝に自分の膝を合わせていた。不思議なことに彼女も避ける様子がなく、むしろぴったりと私の膝に自分の膝を合わせていた。
それから包帯が取れるまで私たちは毎日膝を付き合わせていた。クラスメートたちは誰も気がついていなかった。

その彼女はなぜか本田美奈子が好きだった。おしゃべりをしてると彼女が本田美奈子のLPを買うという。「買ったらカセットテープに録音して」とお願いすると引き受けてくれた。その後時間がかかったけれど約束通り彼女はLPを買ってそれをカセットテープに録音してくれた。カセットテープの曲目リストも手書きしてくれた。彼女の直筆のカセットレーベルは私の一番の宝物だった。

その後、父兄参観日があって母がやってきた。やめておけばよいのにあちこちいろんなお母さんたちとベラベラ喋って情報収集していた。

その夜、母は私に何でもなく喋り出した。
「あんたの向かいの女の子、部落の子なんだってね。」

だからそれが何なのだろう。
お母さん、私はその子が好きなんだよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?