【寓話】誰が天国に行くのか

昔、あるところにA国、B国という二つの国があった。

A国ではα教が国教とされ、B国ではβ教が国教とされていた。

ある日、A国がB国に攻め込んできて、その軍隊を滅ぼしてしまった。

そして、A国の軍隊がB国に駐留すると、B国の住民たちにα教への改宗を強要して回った。

各隊長が一軒一軒の家庭を回り、「α教に改宗しなければ、刀で皆殺しにする」と脅して歩いた。

さて、そのうちB国のある家庭にもA国の軍隊がやってきた。

そして、A国の軍隊がその家を取り囲み、主(あるじ)を呼び出した。

すると、これまでと観念した父親が刀を持って飛び出してきた。

しかし、多勢に無勢で、父親はあっという間に切り殺されてしまった。

それから隊長がその家に押し入ると、そこには母親と幼い子供たちがいた。

そこで、隊長が母親に改宗をせまると、母親は言った。

「私は改宗いたしますから、子供たちはお許しください。

私たちが信じているβ教では、改宗すると地獄に落ちると言われているのです。」

家族を皆殺しにすると、遺体を片付ける手間が増えることを知っていた隊長はその条件を受け入れ、母親だけを改宗させた。

母親は隊長たちの前でα教式のお祈りをしてα教の神の名を唱えた。

それを見た隊長たちは次の村に向かって出発した。

母親は子供たちに言った。

「もう大丈夫ですよ。

敵は行ってしまいました。

それにお前たちが地獄に落ちることもありません。」

しかし、その母親が地獄に落ちることになったので、子供たちは皆で泣いた。

それから数十年が経ち、年老いた母親の死期が近づいてきた。

母親と子供たちは最後の別れを交わした。

母親は子供たちに言った。

「お母さんはもう長くありません。

お母さんは地獄に行きますが、あなたたちが死んだら天国に行くでしょう。

そうしたら、そこにお父さんがいるはずだから、楽しく暮らしなさい。」

それを聞いて、長男が言った。

「お母さんだけを地獄に行かせるわけにはいきません。

長男として私もお母さんのお供をしましょう。」

そう言うと、幼い頃に見た母親のようにα教式に礼拝をして、α教の神の名を唱えた。

すると、下の弟、妹たちも皆同じようにした。

それから末弟が言った。

「一人で寂しく天国で暮らすよりは、家族そろって楽しく地獄で暮らしましょう。」

すると母親が言った。

「だけど、これではお父さんが天国で独りぼっちじゃないかね。」

「そう言われればそうですね。」

親子は皆で笑った。

その翌日、母親は亡くなり、子供たちもその後、年長から順に亡くなった。

そして最後に末弟が亡くなると、家族と同様にあの世に向かった。

末弟があの世に到着すると、案の定、家族が待ち構えていた。

久しぶりに家族と再会した末弟はあたりを見渡しながら言った。

「地獄というのは生前に聞いていたよりもけっこうなところですね。

花が咲き、鳥が飛び、蝶が舞い、全然想像していたところと違うのですが。」

それから、ようやく気が付いた彼は、加えて言った。

「それにしても、どうしてあなたがここにいるのですか、お父さん?」

すると父親が言った。

「天国でお前たちのことを見ていたのだが、お前たちが地獄に行くことになったから、わしも地獄に入れてもらおうと、天国でα教の神様に祈ったのさ。

何の効果もなかったがね。」

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