【寓話】リアリティとは何か

あるとき、密室殺人事件が発生した。警察が取り調べたが皆目見当がつかなかった。そのとき、私立探偵のA氏が現場にやってきて、自分の推理を述べ立てた。すると、その推理があまりに詳細かつ具体的なので、警察関係者たちは大いに感心し、さっそくその方向で犯人を捜そうということになった。
しかし、数日後、ひょんなことから犯人が捕まり、取り調べてみると、事件の実態はA氏が推理した内容とは何の関係もなかった。
結局、空想による鋭い推理は事実とは何の関係もない。

ある夜、Bさんが外を歩いていると、UFOと宇宙人を目撃した。Bさんは慌てて逃げ帰り、周囲の人たちに
「私はUFOを見た、宇宙人を見た。」
と言った。すると、近所の人たちは
「どんな宇宙人を見たのか。絵に描いてみろ。」
と言った。そこでBさんは自分が見た宇宙人の絵を描いたが、Bさんは絵が下手だったので、誰も信じなかった。
さて、その町にはCさんという有名な画家がいた。CさんはSFが好きで、趣味でUFOや宇宙人の絵を描いていた。その絵があまりに克明なことで多くの人たちに知られていた。そこで、Bさんの近所の人たちはBさんに言った。
「Bさんの描いた宇宙人がいるぐらいなら、Cさんの描いた宇宙人の方がいるに違いない。」
しかし、事実に基づいた下手な絵は空想で描かれた上手な絵よりも事実に近い。

私たちはよく「リアリティがある」という。しかし、空想をいくら具体化しても事実に近づくわけではないし、リアリティがそのまま証拠になるわけでもない。例えば、ある画家の描いた妖怪の絵がどんなにリアリティがあったとしても、実際にそんな妖怪が実在しているわけではない。あるいは、ある宗教家の説明するあの世の様子がどんなにリアリティがあったとしても、そのリアリティがあの世の実在の証拠になるわけではない。空想はいくらでも、具体的にも、詳細にも、壮大にもなり得るが、それで事実に近づくわけではない。

リアリティとは何か。
事実に基づかないそれらしさ。

それらしさは、どこまで行ってもそれらしさであって、それになるわけではない。何故ならば、それらしさは全く異なる形で何通りもありえるが、それは一種類しかないのだから。とてもリアリティのあるそれらしさが何種類もある場合、そのうちのどれがそれなのだろうか。例えば、あの世の仕組みは何種類でも考えられるが。

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