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あのノースライディングタッチアウトを検証する。

2023年7月6日の広島対阪神戦でのプレーである。

終盤7回の表0-3でビハインド、劣勢で試合を進めるタイガースの攻撃。2アウトランナー1塁にノイジー。打者は代打の渡辺。渡辺が放った打球は3塁後方のレフト線いっぱいに弾む長打コース。1塁ランナーのノイジーは3塁ランナーコーチの指示どおり本塁へ突入するも悠々アウト。ノイジーは本塁へスライディングせず諦めたように駆け抜け、無抵抗でアウトになったことがスポーツ紙やSNSで指摘されている。

主な論点は以下の通りである。

1.3点差であきらかにアウトのタイミングで本塁へ突入させた3塁コーチャーの判断が悪い
2.ノイジーは明らかにアウトになるタイミングであってもスライディングするべき
3.次打者の木浪が本塁へ向かうノイジーにスライディングするよう明確に指示をするべき

ひとつずつ検証しよう。

1.3点差であきらかにアウトのタイミングで本塁へ突入させた3塁コーチャーの判断が悪い

確かに3点差、1点とってもまだ2点のビハインドである。ムリをさせる必要はないという見方は正しい。一方で、次打者はこの日セカンドゴロと三振に倒れている木浪である。この試合での調子は決して良いとはいえない。

2アウトであり次打者に期待するよりも、本塁へ突入させて得点のチャンスにかけるというコーチの判断もある意味正しい。2点差にしておけばこの回の攻撃はまだ続き、8回以降で同点逆転の機会もあると判断したのかもしれない。

外野から本塁バックホームを経てのクロスプレーはどこにほころびが生じるかわからない。

外野手の捕球→本塁への送球→捕手の捕球→捕手のタッチ

このすべての過程をミスなく完成させないと走者をアウトにすることはできない。2アウトの時には次打者に期待するよりも、この機会にかけるケースはまったく珍しくない。

特に2アウト時、タイミングが明らかにアウトでも本塁へ突入させるケースがあるのはこのためだ。単に壊れた信号機ではない。なので私は3塁コーチャーが本塁へ突入させようとした判断そのものはミスではないと考える。

余談だが、野球を見るすべての人に知っておいてほしいのがこのポイントである。「セーフになりそうだから本塁へ向かわせる」あるいは「アウトになりそうだから3塁でストップする」と考える方が多いようだが、3塁ランナーコーチの判断はそう単純ではない。

1%でもアウトの確率があるのなら3塁で止めさせるケースもある。方や、タイミング的にはほぼアウトでも本塁へ突入させるケースもある。外部の人間が安易に判断し批判するのは的外れであることも多い。

しかし。今回の場面で上記のようなギャンブルをするのか自重するのかは、チームの方針に沿ったものでなければいけない。チームを指揮する岡田監督は試合後このプレーに対し以下のようにコメントしている。

「3点差やん。3点差で回すと思てなかったけどな」

他の複合的な要因ももちろんあるだろうが、この試合のこの場面では終盤2アウトであっても3点差ならムリをして本塁へ突っ込む必要はない、が監督の方針である。であればこの場面では1塁ランナーノイジーは3塁でストップが正解となる。

ランナーコーチがランナーを本塁へ向かわせたため、判断ミスであると言及されているのをSNSで散見する。しかしこれは判断の正誤ではなく、共通認識の行き違いである。岡田監督にすれば「言わなくてもそれぐらいは判断してくれ」というところだろうか。

2.ノイジーは明らかにアウトになるタイミングであってもスライディングするべき

するべきである。上記「1」の項目でも記したが、ホームでのクロスプレーは捕手が送球をミス無く捕球し、そのあと確実にランナーにタッチする必要がある。

スライディングすることによってタッチを逃れられる可能性がある。もしくはスライディング時にランナーの体の一部が捕手のミットに触れることによって、ミットからボールがこぼれる可能性もある。

このプレーではスライディングをあきらめたことによってそのすべての可能性を放棄した。どんなに難しいタイミングであろうが最後までセーフになる可能性を捨てるべきではないと私は考える。

3.次打者の木浪が本塁へ向かうノイジーにスライディングするよう明確に指示をするべき

このポイントを説明する前に、ネクストバッターの役割についておさらいしておこう。ネクストバッターサークルにいる次打者は打席をただ待っているのではない。今回のプレーのように本塁に走ってくるランナーに対しての指示はその重要な役割のひとつである。

本塁に向かうランナーは自分の後ろで何が起こっているのかはまったくわからない。ネクストバッターは走者に状況を明確に伝え正しい行動をさせなければいけない。

野手からのバックホームが1塁側や3塁側に逸れた際にはその逆方向へスライディングするよう指示する。アウトセーフが微妙なタイミングであればスライディングさせる。カットプレーでミスがあったり送球が大きく逸れた場合など、悠々セーフである時にはスライディングが不要なことを伝える。

今回は省略するが、ネクストバッターにはそれ以外にも重要な役割がいくつかある。次打者が投手であっても代わりの控え選手が必ずネクストサークルにいるのはそのためである。

さて、この場面。次打者木浪はどんな行動をとっていたか。百聞は一見にしかず、このツイートの動画を拝借する。

木浪は走者が本塁に突入してくるとわかった時点で走者の視界に入る位置に素早く移動。そして明確にスライディングするよう指示している。まったく非の無い、ネクストバッターとして完璧な行動である。(テレビでは映らない、こういうプレーが現地では確認できる)

以上が私の見解である。このような細かいプレーの反省と修正を重ねて、さらに成熟したチームへと成長してほしい。

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