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在日朝鮮人作家列伝──すごくいい!からぜひ読んで!            01 金達寿(キム・ダルス) 前ふり篇

金達寿(キム・ダルス)1920~1997

在日朝鮮人作家の先駆的存在。
生涯を通じて「日本と朝鮮、日本人と朝鮮人の関係を人間的なものにする」*ことをめざして筆を執り、たえず理想を求め、知識人として社会的な発言、活動をしました。

1920年、朝鮮半島、慶尚南道生まれ。
地主の跡取りだった父親が、植民地政府(日本帝国)によって土地を奪われたため、一家は働き口を求めて日本へ。
10歳で日本へ渡り、教育は日本で受けたので、読み書きは日本語でしかできません。
貧しさの中で小学校も卒業できなかったのですが、屑屋などをしながら集めた雑誌などで志賀直哉の作品に出会い、小説家を志します。
戦時中、激しい向上心で日本大学専門部に進学、在学中から小説を書き始めます。
初期は、自己を投影した青年が差別と格闘する姿(「位置」など)や、
貧しくも個性的な人々を愛情とユーモアをこめて描いた、自然主義リアリズムの佳品が多くみられます(「孫令監」「塵芥」「おやじ」など)。
やがて、私小説的な作風に満足できなくなり、たくましいフィクションの力で「解放」後の苛酷な歴史の中で、祖国の独立を願って闘う人々(またはその正反対の人々)を描くようになります。(「朴達の裁判」「玄海灘」「太白山脈」など)。
1953年、『玄海灘』は第30回芥川賞の候補になり、満場一致で「候補作中、最高の作品」とされますが、「すでに活躍している作家だから」という奇妙な理由で受賞を逃します。

人生の後半は、小説を離れ、ライフワーク『日本のなかの朝鮮文化』をはじめとする古代史研究に邁進。多くのファンを集め、日本市民の歴史観に大きな影響を与えました。
(なぜ古代史だったか……その点について、林さんは興味深い考察をされていますので、ぜひ興味しんしんでお読みくださいませ)
(編集人記)

*廣瀬陽一『金達寿とその時代 文学・古代史・国家』クレイン、2016年、p9ほか

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