「レシピ」

もしかして人と状況によるのかもしれませんが、僕をはじめ多くの料理人にとって料理のレシピは特に隠すものでもなんでもないです。
お客様はもちろん、同業者でも聞かれればお教えしますし、なんならどこの会社の何ていう製品を使っているかもお教えしています。

ですがそうしてると、ごく稀に「レシピを教えても真似できるわけないと思ってるから教えるんだな」なんて言われて少し悲しくなります。
レシピを教える時は、何とかして作れるように一生懸命に考えながらお教えしています。


僕はおにぎりが大好きです。食べ物で一番と言ってもいいかもしれない。
何でも美味しくいただけるタイプなので、こし餡も粒あんも好きだし、うどんもそばも同じくらい好きだし、目玉焼きには何をかけても好き(何なら何もかけない)。
でも頭に浮かぶおにぎりだけは、いつも母のおにぎりです。
うちの母はあまり料理は上手ではありませんが(これをいうと確実に怒られるけど)、食べることは大好きなので変なこだわりがあります。
「おっきい方が美味しい」
なのでカレーの具も大きな男爵芋でも半分に切っただけ、人参も大きなぶつ切り。
肉じゃがにいたっては、大きな男爵芋を切ることなく丸のまま入れます。
でもでも、おにぎりはとっても小さい。
手まり寿司くらいの一口でパクッと食べらるほど小さいのです。
これが長い間不思議ではいたのですが、特に理由を聞くこともありませんでした。
でもお店をやり始めて、もうすぐ8年。
毎日毎日一緒に過ごしているとたくさんの何気ない会話で今まで知らなかった母のことを知ることも多く、なぜおにぎりがあんなにも小さいのかという理由も分かりました。

僕がまだ幼い子供だった頃、父の実家に家族で帰省していた時に親戚の子供たちもたくさん来ていたので、それぞれの母親みんなでおにぎりを作ったそうなんです。
その時には母は俵型のおにぎりしか握れなくて、みんなに笑われてとっても恥ずかしい思いをしました。(一応補足しておきますが、親戚のみんなもとてもいい人達ばかりなので、純粋に驚いて笑ってしまっただけだと思います)
母はとっても働き者です。そしてその母、僕にとってはおばあちゃんですが、母が幼い頃からおばあちゃんもずっと家計を助けるために朝から晩まで働いていました。
おばあちゃんはちょっと変わった生い立ちで、幼い頃から一度も親とも親族とも一緒に生活したことはなかったようです。
三角のおにぎりどころではない生活。

みんなが笑う中、母より年下の父の弟の叔父がバカにすることも、笑うこともなく、真剣にそしてとても丁寧に「姉さん、まず手をこうして」と一つ一つ手を取りながら、三角おにぎりの作り方を教えてくれたそうです。
恐らく、子供が食べるからか、握りやすいようにかどちらかの理由で、小さなサイズのおにぎりを教えてくれたようなんです。

母はおにぎりを作るたびにそのことを思い出し、その時と同じように小さなおにぎりを今でも作っています。

料理って、レシピって、そういうものだと僕は思います。

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