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京都〜日光を9日間で走った話2024(その6)

階段は、登るより降りる方がきついのだという事実を知る人は、ランナーに相違ない。

マラソンの経験がある方なら思い当たることでしょう。決死の思いでフルマラソンを走破した翌日の朝、会社へ向かう電車で駅のホームへ下る時、そして駅から歩道に降りる時、階段の下りで大腿四頭筋の収縮運動がもたらすあの激痛を。そう、手すりに捕まりながら必死の思いで降りる際、バリアフリーのために駅に設置されたエレベータのありがたみを切々と感じるのです。
そう、バリアフリーとは何も足腰が不自由な方のためのみにあらず。ランニングで死力を尽くした人々のためにもあるのです。通学の高校生たちよ無様な姿に笑うがいい。この姿は最後の最後まで死力を尽くして戦ったその証なのだ、そのことを理解する日が君たちにも来るのだから。

と申しても、この中山道の朝6時には、あざ笑う女子高生もサラリーマンもいるはずもありません。私はなんとか手すりに捕まりながら宿の5Fから1Fまでの降下を達成しました。昨晩の受付の女性がいたら悪態の一つでもついてやろうと思ったのですが、受付には「キーはこの箱に入れてお出かけ下さい」とのメッセージがあるのみです。仕方なく私はコンビニで朝の買い出しを済ませ、今日のコースへと向かいました。

今日のルートである中津川〜木曽福島は中山道随一のハイライトです。アップダウンはあるものの距離は60キロのみ。そしてコース上には馬籠宿、妻籠宿といった中山道有数の宿場町も控え、木曽川の景勝地も随所にあり、まさに街道の王者の名に相応しいと言えるでしょう。

しかし一方、この区間は全くコンビニが無いことでも知られています。なんと60キロ近くルート上にはコンビニが現れません。
そのため、途中の観光地で五平餅などを食して補給を行うことが必定なのですが、しかし今年は「コンビニの代わりになるようなスーパーや商店を探して実際に購入し、それをガイドブックに掲載することで次年度以降の参加者への福音とする」という崇高なる目的を持って参加しております。

そのため、私は途中少し脇道にそれたスーパーや昔ながらの商店に事細かく訪問し、特に食したいという切なる要望も無かったおにぎりやアイスなどを購入しておりました。そのぶん、寝覚の床などの景勝地の観光は疎かになりましたが、崇高なる目的のためにはやむを得ません。

途中の木曽川の河原。有名な寝覚の床ではないが、景勝が素晴らしい。

さて、そうこうしているうちに今日の目的地である木曽福島に到着です。
昨年の経験から駅近くのイオンは弁当の品揃えが悪いことが解っていたため、今年は駅手前のCOOPに行ってみました。これも今回の崇高なる目的の一つです。

すると。
なんと、お弁当が全品半額になっているではないですか!

全品半額。なんと心地よい、そして希望の光に満ちた言葉なのでしょう。ああ、来て良かった。早速この情報はガイドブックに掲載せねばなるまい。
まさに一日の疲れもこの神々しい半額シールの前では雲散霧消したと申しても過言ではありません。
私はしばらく物色し、その中でも定価1000円の海鮮丼を手にしました。これが500円ですから、これを食することにより私は500円もの利益が得られます。

しかし、

  • 長野の山奥で海鮮丼を食するというのは、何か違うのではないか。

  • 元々500円の弁当なら250円の支払いで済むのだから、そちらの方が海鮮丼より250円得なのではないか。

といった考察のもと、私は500円の山菜入り幕の内弁当(見切りで250円)を選択してしまいました。いや、後悔はするまい。この美味しそうな山菜の天ぷらは、宿での私のささやかな晩餐に大いなる彩りを添えてくれるに違いないのだから。

しかし、喜び勇んでスキップをしながら宿に到着した私に、まさに思いがけない仕打ちが待ち受けていようとは、その時の私は知る由もありませんでした。


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