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続・京都〜日光570キロをを9日間で走った話(その10)

非常に長い距離を走破するウルトラマラソンという競技に於いては、そのコースが大変解りにくいことがままあります。
通常のマラソンではコースの誘導員がついている、もしくは集団で走るためコースを迷うことがそもそもない、といった理由でこうした懸念を持つことはほとんど無いのですが、これほどの長い距離を走る大会ともなると、ルートが記載された地図を渡されてあとは自己責任で走ってくれ、というケースが多くなるのはやむを得ません。
そのようなわけで私が前回期せずしてコースを逆走してしまったわけですが、これが二人で同行するとなると、お互いの叡智を合算して最適化することによりそうしたミスを最小限にすることができます。昨日のライバルは今日の友、私はC氏とともに上州の熱気が立ち上る中、本日の目的地である伊勢崎市へと向かっておりました。
私の本日のゴールは、昨年同様東武伊勢崎線の境町駅。昨年度、このゴール地点で食べたガストの唐揚げ定食の美味しさは今でも鮮明に覚えています。ああ、我が人生はガストと共にあり。そのゴールがあるからこそ、今日の私は頑張って走ることができるのです。
なお本日は昨年と同じホテル「伊勢崎平成イン」を予約しております。一方、同行するC氏も今日は伊勢崎のホテルなのだそうですが、聞くと私より手前の地点をゴールとし、そこからホテルまで走って向かうのだとか。
なるほど、走って行けるくらいの距離にホテルがあったのか、私は自らの調査能力の不備を恥じながら、すっかり日も暮れてしまった利根川の橋梁を渡っておりました。

利根川橋梁の一つ五料橋。橋を渡り切るまでが非常に長く、関東に来たことを実感する。


しかし、橋梁を渡ってしばらくするとC氏がおもむろに電話をし始めました。聞くと、今日のホテルはコースから思ったより離れていたこと、及びかなり疲労困憊となったため、この先の地点で離脱しタクシーにて移動したい、とのことのようです。

「あ、タクシー会社さんですか?近くまでタクシー回していただきたいんですが。はい、行き先は伊勢崎平成インのホテルです」

!?

C氏はなんと私と同じホテルではないですか。
その電話を聞いて、私は
「これは一緒のタクシーに乗せてもらってホテルに向かった方が良いのではないか?」
という誘惑に一瞬駆られたのですが、私には今日のゴール地点で待っているガストの唐揚げ定食があります。タクシーの快適さより、あの一年前の衝撃の味を今ここで味わいたい、その思いからタクシーを待つC氏と別れ、境町まで単独で走ることを選択した私を一体誰が非難するというのでしょう。

ゴールまでおよそ9キロ、昼間の暑さもようやく和らぎ、走りやすい気候となったことも相まって、非常に良いリズムでピッチを刻みます。昼間の逆走で少し去年よりは時間が遅くなったもののホテルまでの時間にはまだまだ余裕があります。

そして、走る先にとうとうあの栄光の赤い看板がその姿を現しました。ああ、ガスト!ああ、唐揚げ定食! 一年ぶりのこの味を、今我はまさに味わんとすべし!

「すいません。オーダーストップです」

・・・

ガストのレジの前で人目も憚らず膝から崩れ落ちた私を、一体誰が責めることができるというのでしょう。
「すみません、、またいらしてください」
「はい、、、また一年後に」

境町の駅までのわずか500メートルの道のりが、これほど長く感じたことはなかったでしょう。たった一年、されど一年、ああ、事前に営業時間さえ確認しておけば、この悲劇は防げたはずなのに。

「おーい、何とぼとぼ歩いているんだ〜」
道にたむろしていた二人組の酔っ払いに冷やかされながら、私は今日の宿のホテルへと向かっていきました。

(次回に続く)



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