不動産事業者が不動産クラウドファンディングに参入するにあたって留意すべきデメリット事項
不動産クラウドファンディングの概要
不動産特定共同事業法上の許可(主に、第1号事業。ただし、一部のサービスにおいては、第3号事業許可及び第4号事業許可に基づき運営されている)を取得した宅地建物取引業者が、不動産取得のために必要な資金をクラウドファンディング形式で調達する行為。
不動産特定共同事業者としては、その後、調達した資金で不動産を取得し、賃貸ししたり、バリューアップの上で売却したりする。
その間に生じたインカムゲインや、売却時に生じたキャピタルゲインを利用して、投資家、及び劣後出資している自身に対し、利益分配を実施。最終的には、不動産を外部に売却・現金化することによって、元本の償還を実施する。
不動産事業者にとっての、不動産クラウドファンディングへの参入デメリット
不動産事業者が不動産クラウドファンディングに参入するメリットについては、ソーシャルレンディング・ラボなどの情報サイトをはじめ、複数のWEBメディアで検証が為されているが、逆に、不動産事業者が不動産クラウドファンディングに参入する場合のデメリットについては、語られる機会が少ない。
不動産事業者が不動産クラウドファンディングに参入する場合、上掲したような不動産特定共同事業法関連の許可取得コストや、システム開発費用などのコスト負担を要する。
投資資金を十分に回収するためには、不動産クラウドファンディング事業参入のメリットのみならず、不動産クラウドファンディング事業参入のデメリットについても、あらかじめ十分な検証を行う必要がある。
不動産クラウドファンディング事業参入のデメリット1-資金調達コストが割高となる
不動産事業者が不動産クラウドファンディングにて資金調達を行う場合、その調達コストは、年率換算で5パーセント前後となる。
反面、銀行等の金融機関から融資を受ければ、年利1パーセント台での資金調達が可能である。
銀行が担保価値を見込み、融資を実施してくれるような物件を投資対象とする場合、銀行からの融資を受けずに不動産クラウドファンディングを活用することは、原理的に言って不合理である。
このため、不動産特定共同事業者においては、取得を検討している不動産について、まずは銀行からシニアローンを調達することを検討したうえで、銀行からの融資付けが難しい場合に限り、不動産クラウドファンディングによる資金調達を画策するほうが、財務管理上は適当となる。
不動産クラウドファンディング事業参入のデメリット2-リートとの競合を迫られ、自然、利回りを高くせざるを得ない
自社の不動産クラウドファンディング・サービスを投資家に向けて訴求する場合、基本的には、「少額から、インターネットを経由し、不動産に投資できる」としてPRを行うこととなる。ただしその場合、投資家の目線から見れば、リート(上場リート)への投資と比べて、不動産クラウドファンディングの魅力は見劣りすることに留意を要する。
例えば、不動産クラウドファンディングに投資する場合、投資家は、出資先のファンドが償還を迎えるまで、原則として、出資の中途解約や、資金の現金化を行うことが出来ないのに対して、上場リートへの投資であれば、いつでも、市場を通じて投資証券を売却することが出来る。
また、不動産クラウドファンディングの分配金は、「雑所得」として総合課税の対象となるに対して、リートの分配金に関しては、申告分離課税が利用できる。特に所得の大きい投資家にとっては、総合課税の対象とされる不動産クラウドファンディングは、敬遠されることとなりかねない。
不動産クラウドファンディングによる資金調達を実施する場合、投資家に対し、上場リートを上回る魅力を提示する必要があり、結果的に、高い期待利回りを提示せざるを得ない状況に追い込まれる可能性がある。
不動産クラウドファンディング事業参入のデメリット3-見込み客獲得ツールとしての有用性には疑義がある
投資用不動産の開発販売を本業とする不動産事業者が、不動産クラウドファンディングに参入する場合、将来的に自社の投資用不動産を買ってくれる(かもしれない)見込み客を獲得するための集客ツールとして、不動産クラウドファンディングに期待する向きがある。
目下、個人投資家の間で不動産クラウドファンディングの人気は高まりつつあり、確かに、不動産クラウドファンディング事業を展開すれば、多量の投資家の属性情報等を(投資家登録させることを通じて)集めることが出来る可能性がある。
ただし、1口数万円程度の少額投資、かつ、運用期間数ヶ月~1年未満程度の短期投資を好むクラウドファンディング投資家が、将来、数千万以上の費用がかかり、かつ、投資資金の回収のためには数年~数十年の期間を要する現物不動産投資に、投資家として取り組んでくれるようになるか、どうかは、未知数である。
不動産クラウドファンディング事業参入のデメリット4-保有不動産のオフバランスを実現するためには要件がある
上場企業の中には、目下自身の貸借対照表に計上されている不動産を、ROA改善のためにオフバランスすることを目的として、不動産クラウドファンディングへの参入を検討することがある。
ただし、不動産特定共同事業によって不動産をオフバランスするためには、国内の不動産クラウドファンディング事業者の過半が採用している、不動産特定共同事業法1号事業では不十分で、同法の3号事業許可、及び4号事業許可の取得が必要となる。
このうち4号事業許可取得のためには第二種金融商品取引業の登録が必要であり、登録要件が低くないほか、3号事業及び4号事業許可を活用した特例事業スキームを運用するためには、特例事業者(SPC)の別途組成が必要となる。
SPCの組成や維持にはコストがかかるうえ、投資家には、「運営者の倒産リスクから倒産隔離されている」と宣伝したとしても、そのメリットが十分には伝わり切らない懸念がある。
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