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彼女の小さなアパートに、一晩中ほのかな灯りが点いているのを、そっと夜が見ていた。 どうやら今夜、ひとつの恋が終わったらしい。長い長い電話は、話し合いだけで済んでしまった穏やかな別れ話。感情的なやりとりはなくとも、心はぐったりと重く疲れている。ソファにもたれたまま動けず、眠れない彼女。瞳から滲んでは流れる涙の複雑な美しさを、真夜中の静謐な空気が受け止めた。 やっと涙の枯れ果てた頃には、もう朝が近かった。陽の光が少しずつアパートを照らし始める。夜通しやわらかく明るかった
大江戸線がまるで深海のよう。 深く深くへ潜らされ、オフィスへ向かうサラリーマンたちは、さしずめ鰯の群れである。それを横目に戸惑いつつも微笑むインバウンドの観光客たちは、横歩きのカニか、波にそよぐイソギンチャクか。 もちろんわたしも鰯の群れの一員となり、水流に身を任せれば、狭い車内へと瞬く間に吸い込まれた。だがあまりのうるささに耐えきれず、ノイズキャンセリングイヤホンを装着する。 瞬間、世界は静まりかえる。 その静寂が無いはずの記憶を呼び起こす。ここがまだ深く静か
念願だった手のひらサイズの箱庭を手に入れた。 手入れされた植木と群生する愛らしい野生の草花、そしてちいさな小川が流れている。不思議な造りで、天蓋のようなドーム型の天井を有していた。わたしはそれを家に飾って、仕事の合間に青々と繁る緑や風にそよぐ草花を眺めては癒された。 ある日ちいさなちいさな野鳥が、箱庭の小川で水浴びをしていることに気がついた。開け放した窓の近くに置いていたから、いつのまにか入り込んだらしい。植木で少し羽を休めた後、すぐまたどこかへ飛び立って行った。
出会った頃、お互いにあまりピンときてなかったと思う。 甘いものは得意じゃないとか言いながら、コンビニで肉まんかあんまんかの二択で後者を選んだ彼をわたしは理解できなかったし、めちゃくちゃお酒を飲むのに締めにしっかりデザートのパフェを頼むわたしを見て彼は言葉を失ったらしかった。 初めて彼を意識したのは、誕生日にサプライズでくれたプレイリストだった。洋楽ばかり知らない曲がたくさん入っていた。何気なく聴いているうちにすごく好きになって、タイトルや歌詞の意味を調べると、全部の曲