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300字小説まとめ/tononecoZine

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300字ショートショートのまとめです
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2022年10月の記事一覧

幸せ悪玉コレステロール

 今日も今日とて仕事へゆく。電車を乗り継ぎ都心の職場へは小一時間。車内へ乗り込んですぐ、イヤホンを装着し目を瞑る。するとわたしと外界とは、簡易的に遮断される。  こんな妄想をする。中央線は東京を流れる動脈で、地下のメトロはまるで毛細血管。乗客であるわれわれ血液を、隅々まで運んでゆく。おや?わたしひとりくらい予定通りの行動をせずとも、母体にさして影響もないのでは。  最寄りの駅へと着く。しかし社会へのちいさな反抗として、わたしは電車を降りずにそのまま乗り過ごす。  さて遅刻

謎のしるし

 あなたから借りた短編集には、謎の印がたくさん付いていた。丸で囲ったところや波線、はてなマークは元より、三角四角二重丸、※印に星マーク、魚や猫のマークが印されているところまであって、わたしはつい物語よりもそちらに夢中になってしまった。  主人公が昔の親友と数年ぶりに再会するシーンになぜかおにぎりのマークが付いていたり、人生の一大決心とも言える行動の描写の横にはおでんのマークがあった。  気もそぞろに物語たちを読み終え、あとがきまで辿り着く。そこには余すとこなく小さな花々が

お水でざぶざぶやらせて 

 わたしアライ猫。アライさんちの猫だから。  ミミって名前があるけれど、なぜだか仲間も近所の子どもも、みんなわたしのことアライ猫って呼ぶ。そしてわたしも少しそれを気に入っている。 ところでわたし最近、猛烈に洗いたい。  テレビで見かけた「アライグマ」。初めは、なんか似たような名前ね、ぐらいなもんだったけど、あいつが森の川で獲物を洗ってるのをみて、これだって思ったの。  さて何を洗おう。顔ならしょっちゅう洗ってる。違う、そうじゃなくてお水でざぶざぶやりたいのよ。まずは一等

指先の銀河

 「指先に、魔法をかける」  気に入ってずっと通っているネイルサロンのキャッチコピー。仕事に疲れきっていた金曜の夜、わたしは藁にもすがる思いでその店の予約を取った。  オーダーは、その直前に衝動買いした指輪に似合うようなデザインで、とおまかせした。さすがわたしの好みをわかっている。半透明なミルキーホワイトにポイントで星が瞬くようなアートが施された指先を見て、可愛すぎてため息が出た。  瞬間、爪の先が輝く。 目を疑ったが、試しにもう一度息を吹きかけてみる。たしかに瞬く、