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その15 コロナ禍に

 何か読みたくなって積読している小説をめくり始めても、「でもこの世界にコロナはないんだよな」と思うと何となく読み進められずにいる。震災の後もそうだった。
 だけど先日手に取った『パディントンのにわつくり』(マイケル・ボンド、R.W.アリー)は予想外にするする読めて胸がいっぱいになってしまった。パディントンが愛らし過ぎて、ブラウンさんの家の庭が素敵過ぎて、人々が素朴で優しくて。読み終わって、パディントンの真似をしてマーマレードを買った。マーマレードが「ママレード」と書かれているのも好きだなあ。
 古き良きものを読むとき、その背景には人種差別だったり性差別だったり貧富の格差だったり戦火だったりが当然あるのだろうけど、その上で美しい物語や絵が描かれていることに、文化や芸術の尊さを思う。

 アイルランドの民話をベースにしているという絵本『しにがみと木の実』(エリック・マッダーン、ポール・ヘス)も良かった。精緻な絵もとても素敵。日本の昔話などもそうだけど、古い物語は骨格がしっかりしていて、その力強さに安堵する。大勢の無名の人々が働いたり争ったり苦しんだり疫病に恐怖したりしながら暮らしてきた営みみたいなものが、事細かに書かれなくともお話の中にぎゅっと詰まっている気がする。
 図書館でたまたま見つけたジョージ・オーウェルの随筆『一杯のおいしい紅茶』も凄く凄く良くて、買って手元に置きたいと思った。若くして亡くなった人だったのだなあ。実はあの『1984年』は未読なので早く読まなくちゃ。

 ツイートもしたけどブライアン・イーノのこのインタビューも物凄く良かった。今何を考えるべきなのか、音楽家は音楽を聴かないという矛盾、SNSへの懸念、女性の台頭、どれもこれも胸がすく思いで読んだ。自分が住む国のトップの誠意ない言動にがっかりしたり、これだけ世界が揺らぐと陰謀論やスピリチュアルなものや人への攻撃に傾いてしまいがちになるんだなと思ったりするなかで読んだので救われる思いだった。
 あと、半年くらい前に出先のお店で読んだ江國香織の『泳ぐのに安全でも適切でもありません』のことをよく思い出す。この魅力的なタイトルは江國さんがアメリカで実際に見た看板の文言らしい。
 音楽だけじゃなくて本も場所とセットで記憶されるのだなと改めて思った。またあの場所で読みかえしたい。家からは遠いけど、日当たりのいいあのお店に近々ひとりで行こうと思う。マスクして。

 

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