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その2 今すぐどこかへゆける

 ショーン・タンという絵本作家がとても好きだ。オーストラリアの作家で、多くは岸本佐知子さんが訳している。岸本さんが訳している小説も、彼女のエッセイも面白いのでおすすめです。
 いうまでもないのだけど、とにかく絵がいい。小さな生き物も巨大な建造物も。タッチも色々で、西洋もアジアの香りもするし、懐かしさも未来感もある、無機的な面もあれば生命力にあふれていて……一言では言い表せない詰め込まれた感じが一番の魅力かもしれない。
 ページを開いた瞬間、その世界にゆける。きっとここは無音だろうなとか、吹いている風の感じ、ひんやりした手触りが容易に想像できる。別の世界に浸れるというのは逃避でもあるけれど、救いでもある。彼の本を子どもの時に読んだらどんなふうに感じただろう?

 物凄く素敵なサイトの「Picture Books」のページに著作が載っているので気になった方はぜひ見てみてください。
http://www.shauntan.net/
 インスタも。
https://www.instagram.com/shauncytan/

 話題になった『アライバル』の広くて濃密な世界は鳥肌ものだし、船の絵が最高過ぎる『Rabbits』も捨てがたいけれど、一番好きなのは『ロスト・シング』。物語も切なくていい。魅惑的なディストピア、ロボットのような何かたち、タンのお兄さんが昔使っていたという数学や物理の教科書をコラージュした背景、どれもたまらない。ショーン・タン展で上映されていたアニメも凄く良くて、でも販売なんてされていないんだろうなとずっと諦めていたのだけど、アカデミー賞取っていてDVD化もされてたのを今知りました。なにも、しらない……。
 『ロスト・シング』は彼の初めての商業絵本とのことだけど、音楽でもファーストアルバムが一番好きだなと思うミュージシャンが結構いるのは面白い。ぱっと思い出せるところだとGabrielle AplinやThe ting  tings、Foster the peopleとか。Tom Waits もファーストが結局一番聴くかも。

 作品集のインタビューの中で、彼がアーティストやアートを志望する読者へ語りかける言葉が凄く良い。

僕が毎回驚かされることは、自分にとっても他人にとっても最良の作品というのは、実は一番奇妙で、個人的で、変わっていて、癖のあるものだということです。(中略)皆さん頑張ってください。アーティストになりたいと思っている人は諦めずにベストを尽くして根気よく制作を続けてください。難しいことですが、楽しいですし、やりがいがあります。自分自身が作品に満足して成功していると感じられたなら、他人がどう評価しようと、きっとあなたは成功しています。あなたがどう感じるかです。他人とのコミュニケーションも楽しんで下さい。
『ショーン・タンの世界 どこでもないどこかへ』より

 わたしは趣味で音楽をつくっていて、楽しくやりたいことをやっていればいいはずなのに惑うことばかりなので、「奇妙で、個人的で、変わっていて、癖のあるもの」(って要は自分らしいということだと思いますが)をつくれたら良いな、とこの箇所を読むたびに立ち返る。

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