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その18 キャクストンとハマスホイと殺人出産とスマホ脳

 最近読んで、良かったもの。全然関連性がない4冊だけどどことなく音が似ている気がして並べてみました。

 『キャクストン私設図書館』(ジョン・コナリー)は中短編4作が収録されていて、どれもどこか分かりにくかったり、盛り上がりの薄いままあっさりと終わってしまったりしたのだけど、不思議とじんわり何かが残る読後感だった。それをふまえた訳者あとがきがとても良かった。コナリーの作品はジャンル分けが難しく、また読みやすいとも言えないので「特定ジャンルの分かりやすい小説」が求められる傾向のある日本では読まれにくいと思われるが、もっと評価されるべきではないか……といった主旨のことを書かれていて、これは音楽にも言えるように思う。
 最後の『ホームズの活躍:キャクストン私設図書館での出来事』がとてもとても好きだった!あまり翻訳されていないようだけど他の作品も読んでみたい。

 ずっと欲しかったハマスホイの作品集がたまたま書店にあったので買った(『ヴィルヘルム・ハマスホイ 静寂の詩人』萬屋健司)。作品やその解説とともに彼の人生や家族、パトロンについて知れてとても良かった。特に、ハマスホイは亡くなる前に私的な記録を処分していたということ、彼の母親が丹念に集めていたという作品の記録や新聞記事などのスクラップブックが彼の作品や生涯を後世に残すために大きな役割を果たした、という箇所にとても感銘を受けた。批判的な記事も残していたというから凄い。
 ハマスホイやアンドリュー・ワイエス、野又穣、シャルル・フレジェの作品が本当に好きで、目にするとざわざわしていた胸の中がしんと鎮まる。自分の中に巣食う醜い気持ちや些末な雑事や目先の惑いが、少なくとも観ている間だけは消える。そんな圧倒的な静寂を、わたしもいつか音にするのが密かな夢です。

 発刊時とても話題になっていた村田沙耶香『殺人出産』は、男女問わず10人産めば1人殺せるシステムが導入された世界の物語。絶対に起こり得ない設定なのに妙にリアルだし上手いし怖いし特にラストは鳥肌が止まらなくて呆然とした。たぶん「未必の故意」とは逆の、「大丈夫ですよ。だって、わたしには殺人があるのだから」という台詞は殺人出産のシステムがない世界のわたしでも理解できる感情だった。

 スウェーデンの精神科医アンデシュ・ハンセン著の『スマホ脳』は知り合いの年配の方が薦めていたのと、表紙の「スティーブ・ジョブズはわが子になぜiPadを触らせなかったのか?」の文句に惹かれて読んだ。精神、睡眠、子どもへの悪影響や集中力を奪われることなどなど、そりゃあそうだよね、と思われる内容ばかりではあるけど、それでもスマホにさわる時間は少し減ったと思う笑。色がない方がドーパミンの放出量が少ないからスマホの画面をモノクロにしてはどうかというアドバイスや、「SNS――現代最強の『インフルエンサー』」と書かれた中扉の裏にセオドア・ルーズベルトの言葉「比較は喜びを奪う」が載っていたりして、どきりとする箇所も多々ある。
 でもキャクストンもハマスホイもネットで知ったし、ネットで知り合って心から良かったと思える人もいるし、ネットでなければ知れなかったアーティストや作品、ネットを通して聴いてもらえた自作曲も数知れないので、月並みですが使いようなのだと思います。

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