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その14 奥行のある絵

 ありそうだけどどこにも存在しない、自分だけの景色をたぶんみんな持っていると思う。わたしの場合は白い積み木みたいな家が立ち並ぶ小さな集落を俯瞰していたり、植物にまみれた高層の建物だったり、セピア色の街の日なただったりして、日々そんな景色が頭をよぎるたびちょっとほっとする。自分も絵が描けて、具現化できたらどんなにいいだろうといつも思う。
 自分では描けないので、好きな絵を思い浮かべるだけでも落ち着いたりする。中でも絵本の絵は格別。どこか別の世界が描かれているからかもしれない。

 リスベート・ツヴェルガーはオーストリアの画家。アンデルセンやグリム、不思議の国のアリスなどのイラストを手掛けている。繊細で毒があって鮮やかな色味がひたすら美しい。『アリス』はいつか手元に置けたらいいなと思う。『ノアの箱舟』も読んでみたい。
 ヘレン・オクセンバリ―はイギリスの画家で、あのジョン・バーニンガムの妻。「生きることもそんなに悪くないかもしれないな」と思わせてくれるような人物描写が特に素敵だと思う。『あかちゃんがやってくる』は何度読んでも泣けちゃう。『きょうはみんなでクマがりだ』も最高。
 ミヒャエル・ゾーヴァはドイツの画家。映画『アメリ』に出てくる動物たちの肖像画が特に有名だと思う。犬や豚などの動物がとにかく可愛いのだけど、奥行きのある風景も信じられないくらい魅力的。原画展で見た波の迫力は忘れられない。モーツァルトのオペラ『魔笛』の舞台美術とてして描かれた絵も凄く好き。
 クリス・ヴァン・オールズバーグはアメリカの児童文学作家で、絵も自分で手掛ける。緻密で想像力を掻き立てる美しい絵は虜になってしまう。有名な『ジュマンジ』や『ザスーラ』も良いけど、『西風号の遭難』や『魔法のホウキ』もいいし、『さあ、犬になるんだ!』も面白い。
 最近図書館で見つけた『アンドルーのひみつきち』(ドリス・バーン)のも凄く好きだった。モノクロで描かれるのびのびしたこどもたちも、アンドルーがつくるたくさんの基地もたまらない。

 どこかへ逃げてしまいたいときに眺めたり思い出したりする作品の作家を並べたら西欧かぶれなラインナップになってしまった。美しいのに影があってスケールの大きな絵を眺めていると、いつのまにか矮小な自分が掻き消されて、少し救われる。

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